殿方探し
9.舞踏会の準備
だいぶ、左半身の扱いもわかってきた。
母は依然として存在しているが、
祈祷の時間に交渉をしてきた。
ようやく婿探しを了承させることができた。
(舞踏会が無難よね。けれど体がもつかしら)
一時は体が重く寝たきりに近い状態だったのだ。
リハビリはだいぶできるようになったし、
調子は悪くはないのだが、ヒールを履いて踊れるのか不安は募る。
侍女のミミは言う。
「不安になられるのであれば、練習ですわ」
主流になっている高さのヒールを取り寄せたが、まだまだぎこちない。
(あとひと月か)
そう、舞踏会まであとひと月。
今日から執務もヒールと舞踏会用の練習着で過ごすようにしたが、ぎこちない。
疲労もたまる。
ここで体を鍛えることを投げてしまっては確実に衣装に着られてしまう。
体をほぐしもう一度。
何度も何度も行って昨日よりましになる。
曲に合わせてステップを踏めるようにもなってきた。
半月前には衣装が出来上がった。
情熱的な赤色であり、程よく露出がある。
「これ、肩が出すぎでは?」
「主役なのですもの。
これくらい派手な方が殿方の視線がこちらに向くというものですわ」
(完全にミミの趣味じゃないの)
思ったよりも短いスカート部分にひやりとしながら、
振り付けの練習を繰り返す。
だいぶ曲調に合わせて踊れるようになってきたと思う。
「さぁ。姫様。もう一度でございます。今度は通していきますわよ」
一曲通しで踊れたら粗方の型が完成するので一安心である。
リズムに合わせて、先ほどの反省を含めてきっちりと躍る。
腕をあげる角度も足をあげる角度もしっかりと指摘通りに伸ばしてきれいに見せることを意識する。
曲のクライマックスでも動じることなく動けるようになった。
(あと少しで終わりの銅鑼がなる。あと少し)
ドンッ
終わった。
「さすがですわ。姫様」
「何とかモノになったようだわ。よかったわ」
「ええ」
「それではこれで失礼いたしますわ」
☆☆☆
本当は銅鑼が鳴ったときにからだ中を駆け巡る嫌な感覚があった。
(私を表に出しなさい。そして私に躍らせなさい)
どうやら母は踊りには自信があるらしく、
銅鑼の音ではっきりと意識が覚醒してしまったようなのだ。
(早く祈祷師のところへ行かなくては)
身体を引きずり、廊下を伝いながら祈祷師のところへ向かった。
「姫さま、今日の祈祷は終わりのはずでは?」
「踊りの練習をしていたらいきなり代われと」
「ふむふむ。銅鑼の合図でですか。
何かきっかけがあると安定していたはずのことでも
被害があるというわけですね」
「はい」
「このようなことを一祈祷師が申し上げるものどうかとい思うのですが、
今回の舞踏はやめておいた方がいいと思うのです」
「しかし、あんなに練習もして演奏だって
ばっちりそろっていますのに」
「銅鑼の音の変更はできませんの?」
「ええ。相談してみます」
銅鑼でなくハープであったなら
それほどの影響はないと判断し、
曲の最後だけ変更しまた練習に励むことになった。
「では、改めて一曲躍っていただきます」
「はい」
演奏が始まった。
最後のハープでは締まりがないのが欠点だが、
この曲ならば踊れそうだった。
「いいですか。けっして無理はなさらないでください。
そして無理そうならば私のところへきて下さいまし」
「はい」
「約束でございます」
いつになく真剣な目をしていて息をのむ。
それだけ大惨事になりえる事案なのだと
ひしひしと伝わってくる。
国の威信にもかかわるのでなしにはできない。
ツラい部分はあるがきっちりと躍り切って見せる。
(かあ様だって躍ったことがあるから反応してしまうのかしら)
だとしたら本番が終わっても、
何がきっかけで体が思い通りに動かなくなるかもしれない。
不安は持っているが、なるべく意識しすぎず、刺激せずに本番を迎える。
聖なる鎮魂歌 朝香るか @kouhi-sairin
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