6 終幕
本当に楽しかったのか、ミクは眠ってしまった。
穏やかな表情で寝息を立てている。
「……戻りたくねー」
ひさしぶりにみんなに会えて嬉しかったし、本当に楽しかった。
今までの生活通りとはいかなくとも、ずっとそばにいたい。
「死者に徒花 愚者には虚無を……ってね。
本当、ロクな目に合わないね」
黒い頭巾を被った女の人がリクの前に現れ、思わず指さした。
「病院で種くれた人! どういうことなんだよ!」
「なーにー? どうしたの?」
「ミク、この人だよ!
この人が俺をかぼちゃにしちゃったんだ!」
「言い方! 私が悪いわけじゃないから!」
ミクは目を擦りながら、その人を見上げた。
その女性は黒のローブを身にまとっていた。
その姿で彼の前に現れたのだとしたら、とてもじゃないが病院の人だとは思えない。
「そんな警戒しないで。私は迎えに来ただけだから」
「迎えに来たって……リクのこと?」
彼女は答えなかった。ただじっと、リクから視線を離さなかった。
「今日はハロウィン。生死の境界が曖昧になる日。
私は死神。死を管理する仕事についてるの」
死神は静かに語り始めた。原因不明の感染症のせいで、リクのような本来は死ぬはずではなかった人が大勢死んでしまった。
別れの儀式は執り行われず、きちんとお別れをすることもできなかった。
この世に未練を持つ魂がこれまで以上に増えてしまった。
不幸な彼らが安らかに眠り、死後の世界へ行けるように、墓場の近くに植物や綺麗な道具を置いて、魂がそこへ宿るようにした。
かぼちゃにリクの魂が宿ったのも、そのためであるということだ。
「これが今回のあらまし。みんなに説明するように言われてる」
すましたように彼女は言った。
彼女の言うみんなとは、この騒動に巻き込まれた人々であり、物に宿ることのなった死人のことでもある。
今年はイレギュラーが発生し、予想外のできごとがあまりに多すぎた。
「ずっとここにいてほしいんです。どうしてもダメなんですか?」
「あなたに帰る家があるように、死んだ人にも帰る場所がある」
彼女は困ったように眉を下げた。
「魂は流れる水みたいなものだから、器がないといけないの
今はその頭があるから大丈夫だけど、それも朽ち果てるはず。
そうなったら、器を求めて人を襲い始めてしまう。
こればかりはどうしようもできないの。ごめんなさい」
それがすべての答えだった。重い沈黙が一瞬だけ流れた。
「けど、まったく方法がないわけじゃない。
この子のお墓にかぼちゃの種を植えれば、実がなるでしょ?
魂は器がないと不安定だから、きっとそこに宿ると思うわ」
彼女は手からかぼちゃの種を出した。
「……ジャック・オ・ランタンを作ればまた会えるの?」
「魂になってからの1年は早いのよ。
形を持たない分、時間なんてあっという間に過ぎちゃうんだから」
死神がそういうと、二人は顔を見合わせた。
「また来年も遊ぼうよ。みんなと一緒にお菓子を集めようよ。
それまで、待ってるから」
「約束! かぼちゃが生えたら、収穫しろよな!」
「もう二度と泥棒とまちがえないでね」
「分かってる! また来年な!」
約束は交わされた。死神はリクを連れて、元の世界へ帰って行った。
空になったジャック・オ・ランタンが取り残され、ミクは優しく抱きしめた。
茜色した思い出へ 長月瓦礫 @debrisbottle00
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