5 遊戯
ママが買い物バッグを持って、玄関から出てきた。
二人はとっさに隣の家のかげに隠れ、背中が見えなくなるまで見送っていた。
「今のはちょっとスリルがあったな」
「もう、本当にびっくりしちゃった」
「けど、ママの顔が見られてよかった。なんか安心した」
リクはほっとしたように息をついた。
今なら誰もいない。朝のように自分の部屋へリクを招いた。
ただ、このままではミクが何も知らせずに友達を連れてきたと誤解されるかもしれない。服を脱いでもらった。
「朝も思ったんだけどさ。俺、やっぱり死んだんだな」
「ほとんど片づけちゃったからね。けど、これとか今も残ってるんだよ」
リクが使っていた文房具やおもちゃをいくつか取り出した。
ミクでも使えそうなものは今も取っておいてある。
海を背景に仲のよさそうな双子の姿が写真に写っていている。
かぼちゃで隠れてしまっているが、目の前に同じ顔をした片割れがいる。
「それじゃ、ババ抜きからやろっか」
「だな」
このトランプも二人でずっと使っていたものだ。
友だちや家族と遊ぶことはあっても、二人で使うのは本当にひさしぶりだった。
家族が帰ってくるまで、何度も遊び続けた。
誰かいると思われると困るので、あまり騒がず控えめに楽しんだ。
インターホンが響いた。ママが帰ってきた。
夕飯の準備を手伝わなくてはならない。
「私はご飯食べてくるけど……リクはお腹空いてる?」
「そういえば、全然平気だな。
人間の体じゃないから、食べる必要がないのかな?」
貰ったお菓子にも全く手をつけていない。
植物だから太陽の光を浴びないと、栄養が取れないのだろうか。
「じゃあ、大人しくしててね。
何かあったら、すぐ部屋に戻るけど」
「分かってるって。また後でな―」
かぼちゃは手を振って見送った。
バスケットに詰まったお菓子を見せると、両親は楽しそうに笑ってくれた。
去年より量は少なくなってしまったとはいえ、死者を迎え、子どもたちを受け入れてくれることが何よりも嬉しかった。
感染症によって忘れていた何かを思い出させてくれた。
食事を済ませた後、ミクはすぐに自分の部屋に戻った。
かぼちゃのリクは特に何もなかったようで、クッションの上に座っていた。
「パパも元気だった?」
「みんな元気だよ」
「そっか、これで一安心だな」
噛み締めるように何度も頷いた。
「リクもおばあちゃんたちには会えた?」
「俺もそう思ってたんだけどさ、全然会えなくて。
どこにいるのかも分からないんだよな」
「そうなの?」
「生きてた時のほうがもっと簡単に会えてたと思う」
「もしかしたら、どこかにいるかもしれないね。
ハロウィンだから、きっと楽しんでるんじゃないかな」
「どうせなら、ばあちゃんたちも来ればいいのにな。
そうしたら、みんなに紹介したんだけど」
「私にしか分からないのに、どうやって教えるのよ」
「それもそっか」
のんびりと答えた。
トランプにオセロ、バックギャモンなど、とにかく遊べるもので遊びつくす。
ハロウィンが終わる時間は刻々と近づいている。
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