4 帰り道


一行は順調にお菓子をもらって回った。

誰もが見慣れぬかぼちゃ頭に驚きながらも、決して忘れられたことはない。

余分に作り置きしているらしく、増える分には全然構わないらしい。


バスケットからこぼれてしまうほどのお菓子をもらって、公園へ向かった。

学校が終わったらいつも集合するたまり場である。


「今年もたくさんもらっちゃった!」


「だね!」


バスケットをひっくり返し、テーブルの上に中身を広げた。

全員同じ物をもらっているが、見ているだけでたまらない。


お菓子をもらった後は公園で遊びまわった。

鬼ごっこから始まって、とにかく声を出して駆け回った。

みんなと走り回っているだけで、なんだか昔に戻ったような気がした。

リクがいた頃の世界だ。


「捕まえた! 次はリンクが鬼ね!」


「クッソ……待て!」


ばたばたと追いかける。

本気で遊ぶその姿を見られると思わず、心にじいんと響いた。

ふっと笑顔がこぼれてしまう。


「ミク、ようやく笑ったね」


「え?」


「このところ、つまらなさそうにしてたから。

もしかして、気づいてなかったの?」


友だちの指摘通りだった。

こんなに笑ったのは本当にひさしぶりだ。

リクがいなくなってから、彼女から笑顔が消えた。

心に空白が生まれ、何をしても楽しくなかった。


「そういえば、あの子ってリクに似てるよね。名前も1文字違うだけだし。

新しい友だちができてよかったね、ミク」


どこか得意げに、猫のような笑顔を浮かべる。

ぎくりと心臓が跳ねたが、ひさしぶりに笑顔になれたことを誰よりも喜んでくれている。


「何の話してんだよー」


「別に? 秘密の話だよねえ」


「そう、内緒話だよー」


「何だよそれ、ワケ分からん」


リクは呆れたようにため息をついた。

いつのまにか空は茜色に染まり始め、友だちは家に帰って行った。

夕焼けを見るだけで嬉しくてたまらなかった。


二人で見たのは、一体いつのことだっただろうか。

感染症が広がる前のことだった。

たった数週間前のことなのに、昔のように感じる。


ミクとリク、二人だけが公園に残った。

リクはかぼちゃ頭を揺らしながら、唸っていた。


「俺、どうすればいいんだろ。

お墓に戻ったほうがいいのかなあ……」


名残惜しそうに遊具を見つめていた。

ひさしぶりに会えた友だちと遊んでいたい。

今日を終わらせたくない。

その気持ちはミクも同じだった。


「大丈夫! まだ時間はあるじゃない!

家に帰ったら何して遊ぶ? 私、ババ抜きやりたい!」


町の人に気づかれずに一日を過ごせた。

友だちも何だかんだ言って受け入れてくれた。

家に持ち帰っても、ただのジャック・オ・ランタンだと思い、気づかれないはずだ。


「そうだな、夜はこれからだもんな!」


「そうそう! そうこなくっちゃ!」


ミクの言葉で前向きになってくれたようで、何度もうなずいていた。


「ねえ、種をくれた人にお願いしてみようよ。

もしかしたら、一緒にいさせてくれるかもしれないよ」


「そうだな、俺もそうしてみる」


かぼちゃの種をくれた人が何か知っているはずだ。

空は綺麗な茜色に染まり、非常に美しい。

二人の帰り道を優しく照らしていた。

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