3 行進
かぼちゃ頭のリクを連れて行くと、思わぬ新参者にこの場にいた全員がぎょっとした。この町は非常に狭いから、どんな情報でもすぐに住民の耳に入る。
新しい住民が引っ越してきたことなんて誰も知らなかったし、何よりもミクだけが知っていることにも驚いた。
今日は死者を迎え入れる日だ。
それぞれ好きな格好をして、バスケットを下げていた。
このあと、近所の人々の家を回ってお菓子をもらう予定だ。
「ミク、誰その子」
「お墓にいた子!」
「え、それって」
「迷子だよ! ね!」
正直、どういえばいいのか分からない。
帰る場所が分からないので、迷子ではあることには違いない。
「それ、本物なの? そんなおっきいかぼちゃ、どこにあったの?」
「えっと……俺んち、かぼちゃ畑があってさ。ついさっき、収穫した」
「マジ? 臭くないの?」
「俺はあんまり気にならないかなー」
「すげー!」
困ったように頭をかいた。
新参者が現れ、やんややんやと盛り上がる。
とりあえず、ごまかせたようだ。
「お前、名前なんていうの?」
「あーっと……」
「リンク! そう、リンクっていうの!」
「何でミクがいうの?」
「そうだよ、今言おうとしてたのに」
まったくもってその通りだ。
リクのことを知られてはいけないと思い、つい口走ってしまった。
「ごめん、なんか見てられなくて」
「どういう意味だよ、それ」
「まあ、悪い子じゃなさそうだし! 一緒に遊ぼ!」
「いいのか?」
「いいよー! 多い方が楽しいし!」
ミクと仲が良いのを認めたのか、彼らは警戒心を解いた。
お菓子を集めて回ることになった。
「じゃあ、まずは私の家からね!」
赤ずきんが号令をかけると、一同は列になって歩き出した。
この町にはお菓子をもらっていい家ともらってはいけない家がある。
玄関にハロウィンの飾りをしている家は子どもたちを受け入れる用意をしてある。
合言葉と共にお菓子を準備して待っているのだ。
何もない家は静かに死者と語り合い、思い出に浸っている。
感染症への恐怖が強く根付いており、いつも以上に人との接触を嫌う人が増えたのもあるだろう。今年は飾りをつけていない家が増えた。
いずれにせよ、それぞれの過ごし方と向き合い方があるのだ。
小さな列をなして町を歩く。その間にもリクへの質問は途絶えなかった。
ミクとは親戚であり、今日だけ遊びに来ていることになった。
「お前んちの畑ってどんだけデカいの?」
「どんだけって言われてもな……」
「じゃあさー、あそことどっちがデカい?」
吸血鬼の少年は空き地を指さした。
畑でも何でもない、雑草がぼうぼうに生えた地面を見てかぼちゃ頭が揺らいだ。
「まあ、同じくらいだと思うけど」
「全部かぼちゃ畑なの?」
「かぼちゃ以外にもやってるよ。
趣味みたいなもんだって言ってたけど」
しばらく雑談は続いた。
正体がバレやしないかと、ミクはヒヤヒヤしながら会話を聞いていた。
一行は赤ずきんの母親のもとを訪ねた。
エプロンをつけ、玄関で待っていた。
「今年も来たわね。さ、合言葉をどーぞ?」
「トリックオアトリート!」
「はーい、ハッピーハロウィン!」
ラッピングされたお菓子を配ってくれた。
飛び入り参加することになったリクの分も忘れずに渡してくれた。
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