ショートショート「月火水水水水水木金土日」

kosuke

月火水水水水水木金土日

「本日はどういったお悩みごとでしょうか」


小綺麗なシャツを着たカウンセラーは、にこやかな表情で、若々しい20代の患者の男に語りかけた。


「こんな事言ったら、きっと頭がおかしい奴だとお思いになるでしょうが…」


「そんな事はございません。人の悩みは十人十色ですから。どうぞ安心して、私にご相談ください」


カウンセラーがそう促すと、疲れ切った表情の患者は、おもむろに口を開けた。


「僕、いつか水曜日から抜け出せなくなりそうで、不安で仕方がないんです」


「と、言いますと?」


あまりにキテレツな悩みに、怪訝な表情を浮かべたカウンセラーを見て、患者はためらいながらも、話を続けた。


「一年くらい前から、水曜日が週に2回来るようになったんです。月火水水木金土日みたいな感じで。しかも、最近はどんどん水曜日が増えていって...今では週に5回も水曜日が来るんです!」


「つまり、どういう事です?」


「最初の水曜日が終わると、また水曜日が始まるんです。僕以外の人には前日の水曜日の記憶が無いようで、みんな何も気にせず普通に過ごしています。そんな日を繰り返していると、そのうち木曜日がきて、普通の日常に戻ります。ただ、実際に皆さんの記憶にあるのは、最後の水曜日だけで、それ以外は無かった事にされているんです」


「うーむ。よく分かりませんが、つまりはあなただけが、他の人よりも一週間が長いと」


「簡単に言えばそうなります。最近は木曜日がちゃんと来てくれるか不安で不安で...火曜日の夜は全く眠れないんです」


患者は、増え続ける水曜日に怯えきった様子でそう答えた。


「なるほど、分かりました。あなたはストレス性の悪夢を見ているんです。夢の中では、時間の感覚がおかしくなりますから。あなたの場合は、夢があまりに長く感じ過ぎて、現実と混同してしまっているのでしょう」


「夢だなんて、そんな事はあり得ません。水曜日の間に、髭もちゃんと伸びるんです。ほら、見てください。これでも火曜日に剃ったばっかりなんですよ。夢だったらこんな事はあり得ない」


「まあまあ、落ち着いて。こういった症状は本人には気付きにくいんです。髭は本当なら確かに不思議ですが、その程度なら1日で伸びる人だっています。恐らくあなたには、相当のストレスが溜まっていらっしゃるので、とりあえず今週は仕事をお休みして、ゆっくりしてください」


「やっぱり、あなたも信じてくれないんですね」


カウンセラーの期待外れな回答に、患者は諦めに近い表情を浮かべ、カウンセリング室を後にした。






「こんにちは、本日はどういったお悩みごとでしょうか」


カウンセラーは、白髪の混じった初老の患者の男に語りかけた。


「あの、実は先週もここに来たんですが。私の事、お分かりですか。今週は水曜日が10958回も来たもんですから、すっかり私も日を取ってしまって。」

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