第2話

 あれは何だろう……ん、キノコの様な見た目だが透き通っている。


 あっちは昔見た食虫植物に似ている。

 エレガントな色合いで、香りもよさそうだ。


 おっと、ナポレオンは近づいちゃダメだぞ?


 辺りを改めて探索してみたが、どうやらこの辺りに人は住んでいないようだな。

 チラシのようなものが捨ててあったから、そう遠くない所に人里はあるはずだが……


「ちゅん?」


 ……ナポレオンがチラシを咥えている。


 それもそうか、鳥なんかの森の動物たちが、どこからか持ってきたという可能性も十分に考えられる。


 せめて、このチラシに書いてある、文字みたいなものを読むことができれば何かわかりそうなものだが、あいにく私には読めそうにない。


 そもそも汚れていて何が書かれているのかよく分からない。

 ……かろうじて、女性の姿絵のようなものが描いてあることは分かるが、これだけではさっぱりだな。


「ねえ、私もう帰りたいんだけど。

 あと、その子女の子なのよね?

 なんでナポレオンなんて男みたいな名前なのよ」


「別に引き留めたつもりはないが。

 それと、私の住んでいた地方ではな、未婚の女性には勇敢な男性名を付ける風習があるんだ。

 若い女性を守るための知恵というか……まあ、そういったものだ」


「ふーん。

 あんた、そういう紳士ぶった態度、あんまり似合ってないからやめたほうが良いわよ。

 女の子に男みたいな名前つける時点で、向いてないと思うの。

 じゃあ、あなたの屋敷まで送りなさい」


「なんだと?」


 そんな馬鹿な。

 故郷の女性達は、祖国の英雄から名前をもらえることを誇りにしていたというのに。


「ナポレオン……は、嫌だったか?」


「ちゅちゅん!」


 ああ、よかった。

 とさかがピンと上を向いている。


 こんなにもご機嫌なら心配の必要はなさそうだ。


 男どもも放っておかないだろう。

 そのうち手ごろなオスも小さくしてみるか。


「まあいいけどね。

 あんたそれ本当に飼うつもり?

 いっとくけどこの世界からその化け物出したら大変なことになるわよ。

 それ、この世界に一羽しかいない極楽鳥だから」


 極楽鳥!


 たしか、温かい地域に生息する、足のない鳥だと聞いたことがある。

 赤道付近に綺麗な色の個体がいるとかなんとか。


 そういわれると、綺麗な色をしているような……


「アンタと同じで真っ黒でしょ」


 しかし、足のない鳥というのも珍しい。

 言われるまで気にしていなかったが、確かに足がないのに歩いている。


「胴体がでっかいから普段は見えてないだけで、普通にあるわよ?

 私さっき、そいつが食べてる木の実を取ろうとしたら踏まれたもの」


 し、しかし極楽鳥とは優雅な名前だ。

 きっと、この子たちが住んでいる場所は、楽園のような場所なのだろうな。


「いいえ、その子たちはどこでも生きられるわ。

 そして、この世界に住む人々を、すべからく極楽へと連れて行くのでした」


 ……


「ねえあんた、って知ってる?」


 …………


「きゃー!」


 ?!


 今のは女性の声か?

 いや、動物の鳴き声の可能性もある。


 しかし、女性が助けを求めている可能性がある以上、放っておくことなどできない。


「ねえ、皆殺しって知ってる?

 その子の得意技なんだけど……」


 放っておくことなど、できるはずがない!


「とっても得意なの」


 よし、今行くぞっ!

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怪盗はかくも紳士でありたい 白木凍夜 @siraki108

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