第17話 奥本美咲


橘の居る病室のドアをノックした。

とても憂鬱だけど、アリアンさんに殺されさくないから仕方なく来ているだけだ……橘の事なんてこれっぽっちも心配していない。割とマジで。



──ノックをして数秒後、中から女性が姿を現した。

彼女は橘雄星のハーレムメンバー・奥本美咲。

金髪でギャルっぽい見た目が特徴的な色白美少女。


ただ彼女は孝志を見た瞬間、表情を顰める。

孝志に対して思う所でもあるのか……馬鹿にした目で睨み付けた。



「……なに?わざわざ来ないでくれる?」


「………見舞いに来たんだけど」


あぶね……手が出そうになった。

この女は、向こうの世界に居る時からやたら喧嘩売って来るんだよな。

橘や中岸さんみたいに無関心なら良いのに……コイツと接点なんか何も無い筈だが。



「見舞いにとか、いらないし帰ったら?」


いちいち話しをすんのも面倒くさい。

これ以上この女と話なんてしたくないし、もう帰ろう。一応、こうして訪ねたんだ……アリアンさんも許してくれるよね。



「じゃあもう帰るわ──因みに、橘もそういう風に思ってると考えていいんだな?」


「はっ、当たり前じゃん。わざわざ確認するまでもないんだけど?一人で居れば?ボッチがお似合いじゃん」


「そうか。でもお前も橘に媚びてるのが似合ってるぞ?馬鹿っぽい見た目通りだな」


「……っち!」


怒りに身を任せ、美咲は乱暴に部屋の扉を閉める。

言い合いで孝志に勝てる訳がないのだ。


橘一行をあまり良く思ってない孝志……その中でも奥本美咲へ対する嫌悪感が一番大きい。

キッカケは不明だが、向こうの世界でも奥本美咲と顔を合わせるとこんな会話になってしまうのだ。



「……やっぱりギャルとヤンキーはみんなクソだわ」


彼女の所為で孝志はギャルやヤンキーに対し、かなりエゲツない偏見を持ってしまっている。



「……そんなことより、俺って周りからボッチだと思われてる?」



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜橘雄星視点〜


「美咲、誰か来てたみたいだが……誰が来てたんだ?」


「ん?……ああ、松本だよ」


「な、なにっ!?」


雄星はベッドから跳ね起きた。

離れた所でオヤツを食べていた穂花も、孝志の来訪を聞き、口の中のスナック菓子を喉に詰まらせる。



「穂花ちゃん……大丈夫?」


そんな様子を見ていた中岸由梨が水を穂花に差し出す。礼を言いながらそれを受け取り飲み干すと、穂花は身だしなみを整えるために急いで洗面所へと向かった。


後に続こうと雄星もベッドの上から降りようとする。


(まさか本当に来てくれるとは、夢でも見てるのか……まずいっ!後ろ髪が跳ねているっ!急いで直さないとっ!)※雄星※


(まさか孝志さんの方から来てくれるなんて……油断してたよぉっ!早く髪をセットしないとっ!)※穂花※




「──でも安心してっ!ウザいから追い返したよっ!」


奥本美咲はさも当たり前の様に話す。


ただし、それを聞いた橘兄妹の中で何かがピシャリと砕けた。



「「……はぁっ???」」


穂花と雄星は互いに声をはもらせる。

そして洗面所から帰って来た穂花と、ベッドに腰掛けていた雄星は憎しみに満ちた目で美咲を睨み付けた。


視線を浴びてる当の本人は気付かない……

だがこの瞬間、奥本美咲は橘兄妹から大きな恨みを買ってしまったのである。


(美咲……顔が良いから手元に置いてたのに……俺が嫌われたらどうするんだっ!クソッ!)※雄星※


(美咲さんのゴミカス)※穂花※


あまりの怒りに声が出せない二人。

そんな二人よりも先に、もう一人のハーレムメンバー・中岸由梨が、少し怒った表情で美咲に声を掛ける。



「それは流石に酷いんじゃないかな?」


「……え?良いじゃんあいつウザいし」


「第一、追い返したら雄星が怒るよ?」


「なんで……?雄星は松本のこと嫌ってんじゃん。いつも悪口ばっかり言ってるし」


(文句は言ってるけど、美咲と違って悪口は言ってないんだけどなぁ〜……)


由梨は昨日の訓練で孝志を睨み付けた経緯がある。

しかし、それは橘雄星が普段から孝志の話ばかりしてる嫉妬心から来るもの。

加えて、昨日は可愛がってる穂花まで奪われそうになったのだ……思わず妬んでしまったのである。


ただ、あの後すぐに由梨本人も『あの態度は無かった』と……その行いを心から反省していた。

向こうの世界の孝志に由梨は案外好感を持っていた……なので、どうにかして謝りたいと思っていただけに、美咲の行動に少し苛立ちを覚える。


そんな中、少し落ち着きを取り戻した雄星がため息混じりに言葉を発する。



「……なんて言って追い出したんだ?」


「雄星が会いたくないから帰れって」


「……俺が会いたくないと思ってるって……そう言ったのか?」


「うんっ!」


全く悪びれる事なく美咲はそう答えた。


もはや返す言葉もない。

まだうまく歩けない雄星はグッと怒りを呑み込み、穂花は孝志の後を追って部屋から飛び出して行った。



(……コイツ……絶対に何処かで斬り捨ててやるっ!)




雄星はそう心に誓った。









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普通の勇者とハーレム勇者 リョウタ @ryoutar

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