第31話「魔法新聞が言うには(その3)」

 かくして俺は調味料その他一般的な食材を芸術の街アーカムで補充して、再び旅に出た。


「ところでさ、北の国で流行ってるっていう神隠し、お前の仕業じゃないよな?」


 やっぱり北部は寒い。

 寒冷用のローブに衣替えし、サトウやタマにも身の丈にあった獣皮の防寒具を買ってやって、デ子には俺と同じように人間用のローブを与え、雪道を歩く。


「無論、違う。わらわは人間から血をもらうが、そのために人間を攫ったりはせん――のじゃ」

「そうだよなー」


 影の中から声が聞こえる。

 マル子の声だ。


「じゃあ、やっぱりほかのやつの仕業かー」

「だが、たしかに神隠しは流行っておった。わらわの民も何人か攫われたしな――のじゃ」


 語尾無理すんな。


「ここからさらに北へ行った先。〈雪と幻想の国〉では特に神隠しがひどいと聞いたぞ」

「そっか。んじゃちょっと行ってみっかな」


 おもしろそうだし。


「あ、ゴーレム使いの旦那ー! また会いましたねー!」


 と、前の方から俺を呼ぶ声。

 ちょうど俺たちの前を歩いていたトナカイ連れの商隊キャラバンに新聞を押し売りしていた青年がこちらに走ってくる。

 あれ絶対マツダイラだわ。


「どうも、ご無沙汰っす!」

「あ、うん……」


 こいつ前会ったとき俺たちと逆方向に行ったよな?

 なんで?

 なんでそいつが前から来るわけ?

 おそるべしマツダイラ。


「いやぁ、北部の行商街道走ってる商人さんたちって、新聞いっぱい買ってくれるんでがっぽがっぽっす!」

「吹雪いたりすると荷馬車の中にこもるしかなくなるからな。暇つぶしに読み物はちょうどいいんだろ」

「へへへ、おかげさまで今ならちょっと高級なレストランにも入れそうです! 売れると記事書く手にも力入っちゃいますねー!」


 相変わらずさわやかでいてちょっと熱いやつだ。

 雪風に揺れる茶髪はまるで熱風のよう。


「はい、銅貨三枚」

「お、あざーっす!」


 どうせ押し売られるので先に金を渡した。


「常連さん様様っす!」

「で、今回の目玉記事はなに?」

「『いざあばかん! 雪と幻想の国の神隠し!』っす!」

「やっぱそれかー」

「ちょっと『てんどん』な記事なんであれなんすけどねー」

「実際どうなのよ、例の神隠し」


 俺が訊ねると、マツダイラはうーんと顎に手をおいて唸った。


「なんともっすねー。だいたいのことは記事に書いてるんすけど、もしかしたらホントに神族が出張ってるかもしれないっす」

「ふむ」


 魔神ではないだろうな。

 魔神はあらかたボコった。


「なぁんか女神族っぽいんすよねー」

「あー、女神かー」


 神にもいろいろな種類がある。

 魔界領に住んでいるのは主に魔神で、俺の実家は魔界領にあるため魔神には結構会ったことあがるが、いわく聖界領――人間の領土――には女神なるものが住んでいるらしい。


「聖界を作ったっていう女神族ですけど、最近は人間からの信仰も薄くて、もしかしたらヘソ曲げちゃってるんじゃないかって」

「お前くわしいな」

「あははー、何人か会ったことあるんで。そのときめっちゃ愚痴られました」


 マツダイラおそるべし。

 ホントなにもんだよ……。


「ま、旦那なら女神とばったり会っちゃってもどうにかなりそうっすけど、一応気をつけてくださいねー。仮にも世界の一部を創った種族なんで、力はあると思いますー」

「だろうな」


 ちなみに女神ってうまいのかな。

 ああ、でも人型だったらやだなぁ……。昔から人型食うのは苦手なんだ。


「わかった。あとは記事読んで実際に行って確かめてみるわ」

「そうしてください。あ、あと例の〈旅する金のレストラン〉の記事も端っこの方に書いといたんで、よかった見てくださいね」


 あのパクりレストランか!!

 しぶとく生き残ってやがるとは……。


「金のレストラン、下手したら旦那のレストランよりも野外で移動開店してますよ? 最近は人間同士で争ってた戦争地帯に堂々と侵入して、ど真ん中で店開いてたってうわさっす」


 敵ながら根性がありやがる……!!


「そのせいで戦争が終結したって話ですけど、僕もまだくわしいことは聞いてないんで、今度金のレストランの亭主に会えたら聞いてみるっす」

「ぜひそうしてくれ」


 敵の情報は常に入手しておきたい。

 たしかに最近俺たちは食材の確保に追われて野外で開店することが減った。

 このあたりで挽回しておかねば。


「ちなみに今日はどうするんすか?」

「準備は万全だが、おもしろい食材がないので開店延期だ」

「だー、また食いそびれっす! 僕が来るときいっつもタイミング悪いんだよなぁ」


 いや、ある意味奇跡的タイミングだと思う。


「まあ、こうして『次こそは』って思いながら旦那と別れるのもエネルギーになるんで、せいぜい頑張らせてもらうっす」

「たくましいやつ……」


 そう言い残してマツダイラはまた俺たちと逆方向に走って行った。

 積もった雪などおかまいなし。

 だから馬とかソリとか買えよ。

 戦車かお前は。


「ふむ。じゃ、とりあえず行き先に変更なーし」

「ンモ」

「キュピ」

「はい、マスター!」

「喉かわいたのじゃー……」


 このまま魔物師団できたりしないよね。

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旅する魔王の食卓 葵大和 @Aoi_Yamato

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