第五幕【はぐれ吸血鬼】
第27話「石化の視線を放つニワトリ」
「コッ、コッ、コケーッ!!」
この世界にはたくさんの魔物がいる。
昔見たことのある魔物もいれば、この世界に来てはじめて出会う魔物もいる。
「カッ、カッ、カコケーッ!!」
現在系である。
前略、今日も〈旅する銀のレストラン〉は平常運転だ。
相棒たる砂糖仕立てのゴーレム、サトウ。
金色のスライム、タマ。
そして桜色の髪を持ったちょっとドジなデュラハン娘、デ子。
現在の位置は大陸北部のちょっと人里離れた旧行商街道。
左手に『石の森』と呼ばれる灰色の森林地帯をのぞむこの街道には、現在俺たち銀のレストラン一行しかいない。
そんな中、目の前に一羽のニワトリが立っていた。
「クコケーッ!!」
「さっきからうるせえなあいつ」
赤い眼、蛇の尾、たぶん魔物である。
「マスター、あれバジリスクですよ」
「おー、視線で人を石化させるっていう」
「地域によってはコカトリスとも呼ばれますね」
「そっちの方が似合ってるからコカトリスって呼ぼう」
「ちなみにさっきから石化の視線を使っています。目を合わせたら石化しちゃいます」
「ほう」
え? でも誰も石化してなくね?
例によって俺はサトウの肩に乗りながらぼんやりとそのニワトリを見ているが、いっこうに体が石になる気配はない。
「ンモ」
サトウが興味深そうにニワトリ――コカトリスを見ながら首をかしげている。
「ンモゥ」
「どうした、サトウ」
サトウは俺の方を少し振り向いて、自分のことを指差した。
「……ああ、お前、もともと石みてえなもんだしな」
「ンモ」
ありかなしかでいえばたぶんギリギリありだ。
サトウは砂糖で出来ているが、意味をより大きく捉えていけばかろうじて岩石と言えなくもない。
「つまりお前、最初から石だから石化の視線が効かねえんだな」
「ンム」
今絶対人語喋ったよね、お前。
「キュピ!」
と、今度は俺の頭の上で金色のスライム――タマが跳ねた。
ぽよんぽよんと弾力を持って跳ねるさまは、どう見たって石化していない。
「まあメタリックだし、お前も石みたいなもんか」
「ゲボァ」
あ、昨日タマの腹の中で熟成させておいた肉が出てきた。
相変わらずナマナマしい吐瀉音だな。
「クッ、クッ、クコケーッ!!」
さっきからコカトリスの目がピカピカ光りまくってるが俺たち一行は誰一人石化しない。
なんかかわいそうになってきた……。
「あれ、でもデ子は――」
「わたしは頭を抱えていれば目を合わせずに済むので」
デ子はデュラハンだ。
自分の頭を切り離して胸に抱えるなど造作もない。
なるほど、だからさっきから声がくぐもってたのね。
「でもそれで前見えるの?」
「忘れたんですか、マスター。霧の街でわたしは頭なしでマスターに血をぶちまけようとしていたんですよ? 顔がなくても周囲の状況はある程度把握できます」
なにその超感覚。
魔物ってすごい。
「というかマスターこそどうして石化しないんですか?」
「あ、俺?」
そういえばなんでだろう。
「んー、たぶんあれかな。俺、あいつよりえぐい魔眼いっぱい持ってるからかな」
催眠、魅了、空間破壊に未来予知。
その他いろいろ、やろうと思えばできる眼が俺にはある。
生まれたときからある程度そうだったし、昔、まだ魔王を普通に目指していたときそれなりに努力(人体改造)もした。
「さすがは魔王ですね……」
「デ子、俺はもう魔王じゃない。家出したからただの一般人だ」
「すごく無理のある言い訳です……」
今となっては魔王などどうでもいい。
事実、勇者によって魔王は倒されたことになっている。
「コケー!! コッ、コケー!! ――ンゴホッ、ゴホッ」
「おい大丈夫か」
コカトリスが叫び過ぎてむせた。
おっさんみてえなむせ方だな。
「まあいいや。こいつは食っても鶏の味しかしなさそうだからパス」
一応あとでなにかに使いたくなったらあれだから、転移魔術の印だけつけて放っておこう。
保存食の作成とかに便利かな。
「よーっし、先へ行くぞー」
俺たちはコカトリスを放置して再び街道を歩きはじめた。
「ンゴホッ、オェェ……」
喉薬、あげた方がいいかな……。
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