第26話「魔法新聞屋が聞いたところによると」

「あ、ゴーレム使いの旦那! また会いましたねぇ!」


 山を離れて北へ。

 少し肌寒くなってきたなぁ、などと思いながら南北に続く行商街道を歩いていると、いつか出会った魔法新聞を配る新聞屋に会った。

 

「ああ、〈マツダイラ新聞〉の……」


 いやホント、他人な気がしねえ。

 明るい茶色の髪は走ってきたせいか汗でしっとりとしており、しかしその快活な表情には一片の曇りもない。

 若干金の亡者臭がするが、見た目は好青年そのものだろう。


「旦那、知ってます? ここから南に少しいったところにある山の麓の村が、あの城塞の国の堅固な壁を突破したって」


 うーん、じじい。


「僕も現場を見たんですがね、そりゃあもうすさまじい魔力のこもったパンチでしたよ」

「お前なにかしら決定的な場面に必ず居合わせるな」

「それに命かけてるんで!」


 清々しい。


「今回はその記事をまとめたんで、ぜひ買ってくださいよぅ」


 そう言いつつすでにサトウの手には魔法新聞が握らされている。

 やっぱこいつ抜け目ねえ。金の亡者だ!


「はあ……。サトウ、代金渡してやれ」


 俺はサトウの肩の上から指示を出す。

 すると、サトウが肩からかけていた特大のカバンの中にごつごつした三本指を突っ込み、中から器用に銅貨を三枚取り出した。

 いや自分で指示しといてなんだけどさ、お前なんでその手で銅貨取り出せるわけ?


「ンモ」

「まいどぉ!」


 新聞屋マツダイラ(仮)は流れるような手つきで銅貨を腰の袋にしまい、片手をあげて満面の笑みを見せる。


「なあ、マツダイラ」

「へい、なんでしょう旦那?」


 こいつはこんなへらへらとした感じだが相当やるやつだ。

 立ち振る舞いでわかる。

 左腰に差した刀がヤバめな魔力を発しているのも、前からわかっていた。


「なんかこのへんでおもしろそうな事件あったりしねえ?」

「事件っすかー?」


 たいてい事件があるところには珍しいものがある。

 なにもないところに火は起きない。

 その珍しいものが食材関係であるとはかぎらないが、特に行き場所も決めていない俺たちにはちょうどいいきっかけになるだろう。

 こいつは新聞屋でもあるし、自衛の力もおそらく高すぎるくらいにあるから、とびっきりのヤバい現場にも潜り込んでいる可能性もある。

 そういうところに、俺も興味がある。


「あー、そういえば北の方の雪国で神隠しが流行ってるみたいっすねー」

「ふーむ、神隠しかー」

「一説には魔物のしわざって話もあるんスけど、僕も全容は知らないっスねー」


 神か。


「神って食えんのかな……」


 味とかしなさそう。


「まあ、北の方は人間同士の争いとか活発で、結構剣呑としてるんで、向かうなら旦那も気をつけてくださいねー。まあ旦那にかぎっちゃ心配ないと思いますが」

「お前もな」

「僕はしがない新聞屋なんで、おっかなびっくりですよー」


 嘘つけ。


「じゃ、僕はこれから例の村に取材に行ってくるんで、また会ったらご贔屓に!」

「うん、また会う気がするわ」


 そう言ってマツダイラは颯爽と南へ走って行った。

 ていうかあいつ馬とか買わねえのかよ。

 まさか徒歩で世界中回ってるんじゃねえだろうな。

 飛脚かよ。


「サトウ……俺はお前がいてくれて快適だよ……」

「ンモ」


 俺にはサトウがいる。

 こいつの頑強さといったらとても砂糖で出来ているとは思えないほどだ。

 馬と違ってなかなか疲れないし、たまに言外に小言を言ってくるが、それを踏まえても良き相棒だ。


「お前がいなかったら俺はきっと途中で挫折していた……」

「ンモ」

「うわー、歩きたくなーい」

「ハァ……」


 あれ? お前今普通にため息ついたよね?

 サトウさん?


「ンモ」


 たまにちょっとサトウが怖い。


 ―――

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