第10話「魔法新聞が言うには」

 あれから数日。

 俺は水中都市サラースへ続く街道を歩いていた。

 サトウの肩に乗って、頭にタマを乗せて行くゆるりとした旅路だ。

 途中、世界中を旅しながらそこで見たいろいろな出来事を記事にしているという新聞屋とすれ違って、サトウの肩に乗ったままで暇だからとその新聞を買ったみた。

 どうやら魔術を利用した『動く写真』が売りらしく、広げた新聞の上でいくつもの絵が動いている。

 ……いやでもこれ、俺の魔眼でも構成術式が見えないんだよな。魔術っていうより〈魔法〉に近い気がする。

 神族の御業みわざと称される〈魔法〉を、たかが新聞作りに使うやつが市井しせいにうろちょろしてるのがちょっと驚きなんだが、ともあれ、そんな写真の中に俺は見たことのある人物を見つけた。


「お?」


 そこにはあの鳥人兄弟たちが映っていた。

 彼らが空を飛びながら凱旋し、手に持った剣を高々と天に掲げるまでが映し出されている。

 どういうことだろうかとその隣に描かれている文に目を通すと、


『暴国の侵略を打ち砕く、三人の勇者』


 と、なんとも派手な見出しが打ち出されていた。


『暴国ベラドアから無断侵略を受けた学術都市メーティスを救った三人の鳥人傭兵。彼らは独立義勇兵として今回の戦へ無償で参戦し、他の有償傭兵たちの面目を潰すほどの大活躍を見せた』


 あいつら傭兵だったのかよ。途中で止めちゃって悪いことをしたかな。


『結果的に彼らが遅れてやってきたことが功を奏した。暴国ベラドアが学術都市の劣勢を見て、とどめとばかりに前掛かりな攻勢に打って出ようとしたところへ彼らが到着し、見事その後背を突いた。もし彼らがもっと早くに到着していたら、ベラドアの警戒網に引っかかって不意をつけなかった可能性がある』


 よし、結果オーライ。


『彼らが暴国軍を一気に攪乱かくらんしたおかげで、学術都市勢力は攻めに転じることができた。学術都市秘蔵の魔導術機の運用がうまくいったこともあり、そのまま押し切る形でベラドアを撃退。学術都市メーティスは救われた』


 俺がのんびりしてる間にそんなことになっていたとは。


『彼らはこたびの戦で英雄と讃えられ、皆に言葉を求められた。我が新聞社も突撃し、少しだけ話を聞くことができた。その際の言葉を以下に抜粋する。※魔術式による音声再生機能が施されているため注意されたし』


 文章の最後に「ここに魔力を注入してね」とかわいらしい文字とボタンっぽいものが書いてあったので、そこに魔力を注いだ。

 すると、


『黄金の肉が、我々の勝利の原動力だ!』

「うおっ」


 新聞からいつか聞いた鳥人たちの声が聞こえてきた。

 しかしすげえこと言ってんな、こいつ。

 なんか俺の方が少し恥ずかしくなってきた。


『黄金の肉、というのがなにを差すのかは不明だが、彼らが自信満々に言うので我が新聞社でも少し調査をしてみようと思う。どこかの王侯宮殿の食べ物だろうか』


 ――でもちょっと嬉しい。


「やったな、タマ。お前のおかげだってさ」

「キュピ!」


 タマが俺の頭の上でピョンピョンと跳ねた。


「遅れたことも結果的にうまい方に転んでくれたらしいし、ホント、無事で良かったわ……。これで学術都市が滅ぼされてたら俺罪悪感で泣いてたかもしれない」


 次からはもっと冷静に客を集めることにする。


「フウ。ンモ」


 サトウ、今お前普通にため息つかなかった?

 ――お前実は喋れたりしない? ねえ? 怒んないから言ってみ?


「ンモモ」


 『んなわけねえだろ』とでも言うかのようにサトウが肩をすくめている。俺もそろそろサトウ語検定とれそうだな。


「そのうちあいつらが救ってくれた学術都市にも行ってみるか。なんかうまいもんあるのかなー」


 こうやって旅の中の出来事が次の目的地へ繋がっていくのもなかなか面白い。


「おっし、サトウ、ダッシュだ! とりあえず次の街に急ぐぞ! タマもちゃんと掴まってろよ! ――手とかないけど!」

「ンモッ!」

「キュピ! ――ゲボァ」


 あっ、三日前に食べさせといた残りの干し肉吐きやがった!

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