第二章 起点
そういえば彼も実は調査員だ。日本のチームの一員として数名の研究者の中に紛れて色々な場所に調査をしに行く。最近だとヨーロッパに行ったけかな。雪の積もった雪原地帯でなんとも面白かった。
「なにファイルの写真眺めながらニヤついてんだよ。気持ちわりぃ...」
冗談交じりにコーヒを差し出してくる彼は調査員の仲間であり、長年にわたって親友のスウェイだ。日本に興味を持って留学したのはいいが緑害で帰れなくなってしまった
「なんとも不運な青年だ。」
「おい、後半本音が盛れてるぞ。」
こんなくだらないやり取りをできる数少ない友人だ。コーヒを貰いながら今日行く場所の話へと移っていくのであった。
「私もそのバカップルの仲間に入れなさいよ!」
明るく高い声で割って入ってくる彼女はメリルだ。スイスの調査員で彼女も緑害の研究者で、DNAや性質鑑定の専門家だ。
「全く、俺らの友情を切り裂くなよな〜」
「ただの一方通行の愛だろ」
「言われてるじゃない!似非イケメン!!」
「うるせぇ!!」
きっと彼らは青春を時代と共に置いてきたのだろう。いい歳なのだから少しは自重してもらいたい。と、思いつつも内心は嬉しい青年であった。そんなことを言い合っていると、高らかに電子音が響いてドアが開いた。中へ入ってくるのは私たちの責任者であり、緑害の研究の最先端を行く人だ。
「外は寒いな...節々と体に響く....
諸君、今日こそなにか手がかりをつかもう。私たちの努力で緑害への打開策を...」
一言声をかけると、船の中に増設された研究室へと消えていった。どうやら外から何らかのサンプルを入手してこの船へと無事に戻ってこれたみたいだ。チームは基本的に3名以上で構成されており、専門分野が被らないように組むことになっている。これは先程帰ってきたこの船の船長とも言うべきフルール・ロイター氏が多方面からの意見と知識を重要視しているからである。自分たちもその意見には納得している。外へ行くには先に調査へ行ったチームが帰ってきた来た事を確認して、順番を割り振った通りに交代で調査しに行く。とりあえず僕たちの番が来たらしい。外へ出るために防寒服と採取用のピンセットや試験管を腰に着いているベルトに刺し、ライトやピッケル、アイゼンを装着して外へと向かう。
「今日はまだ行ったことのない場所だ。あまり深くへは行かず、吹雪いたら簡易のテントを立てて様子を見よう。」
スウェイがプランを共有し了解を得てきた。
「そうね、それがいいと思う」
「わかった」
僕ら2人もそのプランに納得し、船の外へと出た。分厚い扉を1枚開け、金庫のような分厚い扉をもう1枚開け外に出る。外が寒いのもあるが、万一新たな芽が中に入らないようにと分厚い二重扉になっている。
「うわぁ、寒い......」
外は案の定 、気温が低かった。息は白くなり真冬に外で遊ぶ子供のように自分の周りに白いモヤが出る。 懐かしいと思いつつも、スイスとかってもっと寒いんじゃないっけかと思った。こんなご時世だ、緑害のせいで山々に木々が生え昼間しか日の当たらない状態になってしまっているのだろうと勝手に決定づけ自己完結する。ザ・自己完結系男子。
「この当たりは意外と木々が少ないな。一応水もあるのだけれど日が当たらないのと、寒さが関係しているのだろうか。」
「スウェイ、周りもいいけど足元のクレバスにも気おつけて。」
たしかに人の足が踏み入ってない場所だ。クレバスがあったり、雪が固まっていないところも多々あるだろう。しかし、特殊な環境下でも樹は育つというのに、ここまで成長のスピードが後退していると何か因果関係があるかもしれない。この地域では良いサンプルとデータが取れそうだ。少し胸を躍らせながら調査を進める。しかし何故オートモービルとかはないんだろう。移動の時ぐらいは使えるのではないだろうか... そんな事を考えつつ歩いていく。雪が吹雪いてこない場所まで歩き少しは日が当たる場所まで来た。 なぜこんなにも寒くなってしまうか、実は緑害はその他にも、地域自体の環境をも変えてしまう力がある。同じ国であっても、木々のせいで天候が全く変わってしまう。瞬く間に気温も下がったり、今まで陽の当たる場所だったところが一変、木陰が永遠とその場にとどまってしまうなんてこともザラだ。今でほんの1部の地域にしか人は住んでいない。
「ここら辺で調査をしよう。」
スウェイがどこかいい場所を見つけたらしい。
早速調査するためにと準備をする。ピッケルで足場を作り、岩に杭を叩き刺しロープを通す。安全を確保するために腰のフックをロープに付ける。 安全が確保出来たら木々の間に足場を作り上層の木と下層の木を採取する。上層では天候や温度が激しく変わるため体に負荷がかかりやすい。しかし、問題は下層だ。いつ雪が落ちてくるかが分からないため、短時間かつ正確な作業が要される。時間との勝負だ。
「さぁ、始めよう。30分で上がって来てくれ青年。」
「わかった。なにかあればいつも通り無線で知らせる。」
「メリルは気温と私たちの状況を記録。周囲の散策をしてくれ。」
「わかったわ。1km圏内を散策、植物の採取をしてくるは。」
スウェイが登るのと同時に、各自自分の仕事に取り掛かる。 下層では前に来た調査隊の簡易の休憩スペースと、万が一の時に備えた横穴が作られている。木の根元までは深くて下がれないが、20mくらいまでなら下がれそうだ。新しく深い場所に潜る時は新しい横穴を作る決まりがある。横穴を掘りながら木々を削り試験管へと採取する。こうして我々は教訓と学びを基礎に、多くのサンプルと結果を持ち帰る。試験管がいっぱいになった頃、1度休憩のため横穴を堀り休憩していると、不思議なものを見つけた。船と同じような扉が地下にあった。意図的誰かが隠したと言わんばかりの場所だった。まさか雪の下にこんな場所があるだなんて誰が想像できただろう。しかし、人が住んでいるわけでもなくなにかの施設のようなものだと直感的に感じた。1度連絡をするため腰に下がっているトランシーバーを手にする。
「メリル、なにか不思議な扉のようなものを見つけた。念の為に一応連絡と座標を送る。」
「わかったは。記録してスウェイにも伝えるは。」
下層ということもあって上層のスウェイまでは電波が届かない。ましてや雪原地帯。雪や遮るものが多い。そのため1度メリルを通して連絡が行われる。こういう時のために中層に1人いなくてはならない。3人できているのもそれが理由だ。
「とりあえず中に入ってみる。なにか危険そうであればすぐに知らせ、外に出る」
そういうと、鉄の扉を開けて中に入った。
だいぶ大きい施設のようだ。歩く音が反響してどこまでも続く。まるで隔離されたガラスの箱を歩いている気分だ。扉が小さい割には、中は広く人が2人横にいてもすれ違えるほど幅はあり、天井もギリギリ飛び跳ねて届くかなといった高さだった。ただ周りは不気味な雰囲気を纏っていた。ありえない数の植物だった。右も左も小さな硝子張りの研究室が何部屋も隣接している。私たちが普段目にする花から、見たことの無い植物まであった。なにか研究をしているのか?それとも開発しているのかは分からない。ゆっくりと廊下を辿って奥深くまでと降りていく。階段らしきものは見当たらず、全部スロープになっている。何回か角を曲がりつつゆっくりと降りていく。イメージ的には真ん中に部屋があってそれを螺旋状のスロープの道で囲っているような形だ。ゆっくりと歩いていると最下層まで来たらしい。奥には大きい硝子のケースが1つ。中に大きな植物が入っていた。白い花で百合のようにも見えるが白く光っている辺りから、これは全く知らない植物なのだろう。またしても知らない植物だ。
「........誰だ。」
どこからか声がした。体が切れたピアノ線のように弾かれ、声の方へと振り返った。
「何しに私の箱庭までやってきた。」
白い髪をした老父のような男は静かに言い放った。ここの責任者なのだろうか。他に人がいるようには見えない。調査員なので武器という武器を持ち合わせてはいない。最悪の場合はリュックの横にあるピックを投げるか?しかし、今敵対するには好ましくない。そもそもここが何なのか、逃げ帰れるかすら怪しい。ここは一つ、丁寧に話して説得するしかない...
「僕は緑害の調査でこの雪原地域を探索していて、たまたま下層を調べていたところここに来ました。」
こちらのことを色々と観察するように上から下まで凝視してから老父は言った。
「......なにか証明出来るものは」
何かあった時にと、支給されたカードがこんな所で役に立つとは思はなかった。万が一の場合身元を証明できるようにと配られたIDカード。腰のバックから調査員用のカードを取り出し彼に見せる。1つしかない身分証なのだからできるだけ丁寧に扱って欲しいと思いつつも、老父の体型や特徴を事細かに記憶する。身長や性格、話し方などを頭で整理し資料を作る容量で簡易的に記憶していく。
「......とりあえずそこに荷物を下ろしなさい。」
老父はこちらの事を理解したのかそれともなにかの実験に付き合わせるのか、こちらがこの場所に滞在する了承を下してきた。カードを返して欲しいと言うと、素直に返してくれた。意外と話のわかる人なのかもしれない。この場所まずは聞かなくてはと、青年は質問を投げる。
「ここに居るのはあなただけなのでしょうか」
青年はまず人がいないかを尋ねた。まだこちらがこの場所を理解していないと分かったのか、理由を説明する義務があると感じたのか老父は言葉を探すように教えてくれた。それ以前にこんな雪の中、ましてや地下に隠されていた研究所に老夫一人でいるのが腑に落ちないのと研究所は暗くて不気味だから危険がないか先に確認しておきたかったのだ。
「いや、今は私しか居ない。 もう少し月日が早ければまだ何人かはいたのだがな....」
なにか裏を感じさせる意味合い含みつつも、老父はゆっくりと答えた。
「では前には人が大勢いたのですね。ここの場所であなたたちは何をしているのですか?」
謎の植物に不気味な施設。そして老夫。気がかりなことは多い。
「ここは緑害を止めるために増設し、誰にも気づかれないように隠された、政府の研究室だ。」
政府が絡んでいるのか?なら表沙汰にすればいいのにと思いつつも、なにか特別なものがあって隠されていたのだろうと考え口には出さなかった。この場所と情報を互いに共有するために青年は老父にまた質問を投げた。
「政府の機関。ならばもし良ければ、その緑外の研究と得たデータを分けてもらうことはできませんか?」
「構わないが、私は外に出ることが出来ない。そしてこの施設もだ。」
施設?施設が外に出れないのは当たり前だろうと思いつつも、彼自身が出れない理由を聞いてみることにした。
「外に出れない理由が何かあるのですか。」
青年は訝しげに尋ねると、老父は少しの情報とその理由について話してくれた。
「ここから出られない理由は、私がこの場所の責任者を任されているからだな。お主ら何か助言ができるとしたらあの白い花が何か関係しているという事。解析が進んでない以上あの花自体がなん植物かも、地球に存在したかも分からないということぐらいだ。雪原の中に埋もれていた点この辺りに何か手がかりがあるには確かだ。お主らも雪の中をもっと深く調べてみるといい。」どうやらこの辺りの雪原地帯を調べることは当たりだったようだ。これは有力な情報を手に入れた。私達も深くまで色々と探ってみてはいるが、なんせ人が住んでいた訳でもなくただの平原にこんなものがあるとは思はわない。そして、ただでさえ人手が不足しているためにこの雪原地帯の開拓には手こずっている。今後深くまで潜れる道具やら機会やらは作らないといけないな。などと思いつつ情報を手帳へと書き記していく。というか、メリルを連れてくればいいのではないのか。彼女は専門家でもあり、そういうことは得意なのだから。今度は同行させて色々と意見交換させてみよう。なにか分かるかもしれない。青年は確信に近いような決意を抱いた
「いえ、情報を提供していただけただけでもとても助かります。また時間をとって改めてここに来ますね。まだ沢山の事をお聞きしたいので。」
「よかろう。今度は美味いもんでも食いながら雑談をするとしよう。またあの扉か入ってくるといい。」
軽く会釈をすると青年は荷物を腰に付け、ゆっくりと歩みを進め、来た扉へと向かった。
(来るべき.....時が...来たら...わかる......だろう....その...は..なの..い....pp-p---pp-p---pp--pp)
背後から微かになにか聞こえた気がした。雑音まじりだが、懐かしい記憶に似ている。なにか見覚えのある風景と聞き覚えのある声がした気がする。しかし、振り返っても老父しかそこには見当たらないその後ろには虚しいほど虚無の空間が広がり続けていた。
歯車は動いた。
鸚緑の箱庭 猫Narukami猫 @Narukami-Guilty
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