第一章 発芽
時計の秒針が部屋に響く...
ここは...どこ...?
今は何時?
prrrrr... prrrrr....
昨夜未明におこっ.....
見慣れた天井で少年は目を覚ます。デジタル時計の時刻は11:00を回っている。長い間寝ていた気がしなくもないが、まだ午前中であることが何故だか嬉しい。窓から外の景色を見ると、もう昼前だというのにまだ霜が降りている。格別寒い訳では無いが、だいぶ木々に陽を遮られてきていることがきっと原因だろう。「またここら辺の木も刈らないとな...」
憂鬱そうにそう呟くと、台所へと向かい朝食を作り始めた。 また今日も昼から緑害と、調査をしに分厚いファイルを抱えカフェテリアへと出かけていくのであった。
彼が住む場所は、ほぼ緑害で建物や歩く場所さえも無くなりかけていた。それでもそこに住むのは、調査を進めるためだった。
「木の成長は止めることは出来ないが、燃やしたり、切ってしまえば...」 と、考えるが家がまるごと燃えそうなのでやっぱり却下だ。
そもそも燃えるのか。肥料はどうだ。あえて成長させて木の栄養不足で枯れるのを待つのは...やっぱりなしだ。家に大木が落ちてきたら俺死ぬ.... 何も思いつかないままブランチと言うなの朝食兼昼食のとても便利なものを食べていると、どこからか鳥の囀りがする。鳥の声を聞きながら過ごす日々も、たまには良いなと感じながらゆっくりとコーヒーでパンを流し込む。彼の周りには肉親がいない。そのため、自炊や家事全般を頑張ってこなさなければならない。唯一あるものは手帳だけだ。その手帳も家族の写真が数枚と緑害の事ばかりが記されていた。普段は都市の付近で生活をしているが、たま街の外へと出て誰もすまなくなったこの家で過ごしている。ここから見る街の景色はほぼ浮島のような状態だ。周りは水の張ったお盆のように平で少し深い湖にようになっている。幻想的だがなんだか不気味だ。釣りなんかもできるだろうけど、ここ真水だよな。そんなに魚はいないんじゃないか。そう思いながらも、ちょっとばかしの興味を水面の底へと顔を向けてみた。それよりもやることは別にある。身辺のことはこのくらいでいいだろう。 家の倉庫から取ってきたノコギリで木を少し切って観察をしてみる。見た目は普通の木と何ら遜色はないけれど、切られた切り場所からすぐ新しい目が生えてくる。なんとも不思議だ。
こんな光景を僕はもう何千回と見た気がするが、切る場所や、角度の違いなどあらゆる事を試すにはまだまだ時間も観察も足りない。しかし、一定以上同じことをしているとどうやら脳もバグるみたいで、何をとち狂ったのか、新芽を刈り取って食べて見たこともあったけれど、これは食えたもんじゃないと諦めた。焼いたり切ったりもできず、食べることもできない。もう八方塞がりだと嘆く少年はまた今日も離れの家で研究をしていた。最近は緑害の調査のしすぎで、木々の声すら聞こえる気がする。きっと彼はこのまま老いていくのだろう。何故か木々がそう呟いているように見えた。
ま.だ..この....
せか....い...はめ...ざ.....
めない....の..か......
何かが発芽する音が聞こえた.....
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