☆☆☆☆☆☆☆
アイドルとしての本能だけで歌い続けていたさやの衣装が、蠱惑的で誰もが課金したくなるようなちょいえろい下着めいた物に変わる。そのレアレティはSSRを凌ぐMR。涙目になったさやが、それでも最後まで歌い終えた時、会場のおよそ7割がNW・ドミナンスのステージを囲み、拍手を投げ掛けていた。
「すごいライブだったね。正直わたしたちに勝てるユニットがいるなんて思っても見なかった」
変形し、二つのステージの間に渡された通路を駆け寄ったありさが、興奮冷めやらぬ様子で、さやに手を差し出した。
「あり……がとう」
おずおずと、だが力強く握り返したさやに、怜が一礼する。
「競うことの尊さを思い出させて貰ったわ。感謝します」
「つ、次は負けないんだから!!」
泣きべそを浮かべながら強がるクローデットを宥めながら、二人はもう一度頭を下げ、自分達のステージへ戻って行った。
「勝ったな(金の力で)」
「ああ、勝ったね(開発者権限で)」
不健康そうな顔はそのまま、随分と可愛らしい姿になったアルバートと拳を合わせ友情の証しを示す。
「だが、本当にこんな大人げない、身も蓋もない方法しかなかったのか?」
設定とはいえ、敗北してもなお気高く前向きなディアレスツの姿を目にし、私の心にじわりと罪悪感が湧いた。
「僕の一部である、I・DOLLに納得してもらうためにね。クライアントからの指示と資金提供の事実があれば、コードを付け足すに充分な理由だ」
貨幣経済を支える人類が存在しない以上、残された私の資産も数字の羅列でしかない。この停滞した仮想世界ゲームを面白く出来たなら――いや、環境再生シミュレーターのアップデートに協力できたのなら、決して無駄な散財ではない。
☆彡
トラブルの対処に一応の成功を収めた私は、アル同様仮想世界に意志と記憶のコピーを残し、本体は再び眠らせる事にした。脳だけの活動とはいえ、環境復元が終わるまで活動を続けては、深刻な劣化を免れない。
追加投資で、私はアイドルの100倍のNPC・ファンの追加をアルに発注した。今回のライブバトルを切欠に、ポイントの流通が始まるはずだと彼は言う。
「アイドルの中には、作詞作曲や衣装作成が特技の子も多いからね。I・DOLLの学習が充分なら、じきそれなりの出来の新作を見ることが出来ると思うよ。価値を生み出さなきゃ、市場は大きくならないからね」
アイドルやファンの行動を参考に、再生する最初の人類にインストールする人格を作成するのだとも。
「赤んぼうから育てる余裕はないだろうからな。いっそ、アイドルのデータを移植するのも良いかもしれないな……アル?」
私の軽口に、アルバートは笑みを浮かべたまま数秒沈黙していたが、おもむろにキーボードを展開し、猛烈な速度で何かの演算を始めた。
「アル、冗談だろ? 女ばかりでは復元計画が立ち行かないだろ?」
「発生における人間の基本形は女だよ。それに、クローン技術が確立された今では、単性生殖でも何の問題もない」
「問題ない訳ないだろ!?」
キーを叩く手を止め振り向いたアルは、諭すように私に語り掛けた。
「考えてみなよ、カオル。地球を離れた移民船の末裔が、地球があるはずの座標にアイドルの惑星を見付けるさまを。きっと驚くぞ!」
「う……」
少しだけ、面白いと思ってしまった。
人類の再生が始まるその日まで、アルの説得に乗らずにいられるだろうか。
アイドルオタクである私には、正直その自信も確信もない。
world of Seven billion idols. end ☆彡
70億アイドル世界 ~The world of Seven billion idols~ 藤村灯 @fujimura
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