&α 数日後の夜

『近付いていって抱きつくとか、そういうのは勘弁してくれよ?』


 そう言われたので、こらえた。

 煙草擬き。もう1本。


『新しい戸籍ができあがるまで、おまえはただのしにんだ。しにんにくちなしすがたなし。仕事だけこなせ』


 これが仕事か。

 自分を好きでいてくれるひとを、かなしませるだけの。これが。


『仕事がいやなら、任務でもいい。なんなら、我慢とでも呼ぶか』


 我慢。たしかに、今の状況にいちばん近い。


『相手に魅力を感じることだけが、全てでなくてもいいんだよ。好きになるかどうかも、まあ、そこは運だ』


 彼女を大切だと思う気持ち。ひとりぼっちだった彼女の、隣にいたいという気持ち。


『おまえの呪いや洗脳が効かない体質も、魅力を振り撒く体質と同じぐらい稀少だ。だから動くな。見つからずに護衛しろ』


 ため息。煙草擬きだけが、すり減っていく。


「わかってるよ」


 通信を切った。

 あともう少しは、しにんでいなければならない。

 彼女の、隣にいるために。大好きな、彼女の隣に。そのために、今は、会えない。

 夜景と、星空。木陰なので、あまりよく見えない。

 煙草擬きを吸った。ミントの香りが、漂う。

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ミント 春嵐 @aiot3110

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