ステップ

うつりと

株式会社GTO



「では、岩田さん。学生時代に頑張ったことを教えてください。」

就職活動において定番中の定番の質問だ。もちろんその答えは用意してある。


「体育会のサッカー部での練習です。毎日部員全員で汗を流し、日本一を目指しました。この経験から、みんなで力を合わせてやればどんな困難も乗り越えることができる、そんなことを学びました。」


面接官の表情を見る。反応は悪くはない。


2017年2月、サンシャインテレビの8階、役員会議室に岩田陽介はいた。

今日は、サンシャインテレビの最終面接だ。これまで7個ものステップを乗り超えてきた。今日のこの最終面接を越えれば、無事内定となる。


「最後に、何か我々に質問はありますか?」

こういうトリッキーな逆質問にも、洋治は答えは用意していた。


「優秀なテレビマンとはどんな人ですか?」

こういう抽象的な質問がこの場合一番効果的なのだ。


「うーん、そうだなあ、みんなと仲良くできることかな。」



2018年4月、陽介は61期生としてサンシャインテレビに入社した。

アナウンサー含め37人の61期生は1ヶ月の研修の後、それぞれの各部署に配属されることになる。


研修は非常に楽しいモノであった。

今まで液晶画面越しでしか会えなかった芸能人を生で見られるのは、テンションが上がったし、何より、華やかな業界にいる気がしてとても気分が高揚した。


楽しい研修期間もあっという間に終わり、ついに配属日になった。

配属先は営業局であった。 テレビに流れるCMの枠スポンサーに売る仕事だ。

陽介はスポーツ局志望ではあったが、配属先には満足していた。スーツを着て、広告代理店と共に仕事をするなんて、東京カレンダーに出てきそうでなんだかかっこいい。

そして、もう一人、営業に配属された同期がいる。佐藤だ。

彼は大学時代に体育会剣道部に所属していたらしい。同じ体育会系ではあるが、正直陽介とは全くと言っていいほど馬が合わなかった。

佐藤はバラエティ志望でよほどプライドが高いらしい。

同期との飲み会でにもあまり参加していなかったし、参加したとしても端っこの方でみんなとあまり関わろうとしないように思えた。


入社して3ヶ月が経つと、陽介はだんだんと職場での環境に慣れてきた。

先輩との関係性もうまく築けていたし、何より仕事が楽しかった。

一方佐藤はその逆のように思えた。先輩との関係はそこそこ、何より頑固で我が強いのだろう。仕事の要領も悪い。

みんなと協調するのが苦手なのか、一人で昼食をとってるのを何回か見かけていた。

「佐藤はみんなと協調しないな。」口々に先輩たちが佐藤の陰口を言っていた。

みんなと合わせていればいいのに、と一人でいる佐藤に対し陽介は思った。



そして時が経ち2年目になった。

佐藤が潰れた。どうやらうつ病になったらしい。その報告を聞いても陽介は対して驚かなかった。営業局に一人しかいない同期を失ったのは少し寂しかったが、今は他人に気を取られる場合ではないと思った。



一年半がすぎ、佐藤はようやく戻ってきた。

前よりは少し柔和になったみたいだったが、周囲の佐藤の扱いはあまりいいモノではなく、1年目がやるような雑務をやることになったようだった。

それでも彼は変わらず黙々と仕事をしていた。


そしてそんなある日、先輩からあるニュースを聞かされた。

社内公募をしているバラエティの企画に佐藤が通ったらしいのだ。

「佐藤は流石だな。周りに流されずに頑張ってきた結果だな。俺は佐藤はいつかやると思っていたよ。」先輩はそう言った。

そう当たり前のように言う先輩やみんなの顔を陽介は見ることができなかった。

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