第48話


  朝起きて、隣に愛おしい彼女がいる幸せを噛み締める。

 スヤスヤと寝息を立てて、すっかり安心しきった様子で眠っている彼女。


 そっと自分の頬をつねってみるが、痛みがあって。

 夢じゃないことを実感して、頬を綻ばせる。


 「……好きだなあ」


 言葉にするだけで、更に胸がキュンとときめいてしまう。

 彼女への想いは日に日に増していくばかりで、愛おしさで時折胸が苦しくなるのだ。

 

 ギュッと目を瞑って、ましろに正面からくっつく。

 ピタリと体を密着させていれば、突然首筋に痛みを感じて体を跳ねさせた。


 「…っ!」

 「私も好きだよ」

 「いつから起きてたんですか」

 「いま」


 背中に手を回されて、尾骨のあたりをいやらしくなぞられる。


 もどかしさに唇を噛みしめれば、服の裾から手を入れられて直接肌に触れられていた。


 「昨日も沢山シたのに…」

 「ちょっと触るだけ」

 「ほ、本当にちょっとですよ…?」


 今日はましろの通っている高校近くのカフェに行く約束をしていたのだ。


 可愛らしい雰囲気のお店はSNS映えをすると有名で、寧々子もずっと行ってみたかったお店。


 数日前からWebメニューを見て、どれを注文しようか楽しみにしていたのだ。


 「限定のモンブランパフェ、20個しかないから…」

 「分かってるよ」

 「…だって、ましろさん一回始めたら絶対ちょっとじゃ満足しないじゃないですか…」

 「信じてくれないの?」


 寂しげな瞳でジッと見つめられてしまえば、何も言えなくなってしまう。


 寧々子だって、行為自体が嫌なわけではないのだ。


 「…っ、絶対に、ちょっとだけですからね」

 「わかった」

 「んっ……!あぅ…ンッ」


 器用にブラのホックを外されて、ギュッとましろにしがみつく。


 本当に寧々子はましろに弱い。

 彼女が本当に好きで、可愛くて仕方ないから。


 甘えられると何でも叶えたくなってしまう。

 愛おしそうに体を求められると、受け入れたくなってしまうのだ。




 新鮮なシャインマスカットパフェを一口頬張りながら、向かい側に座っているましろにじとりと視線をやる。


 珍しく居心地が悪そうに、こちらの機嫌を伺っているようだった。


 もちろん季節限定のシャインマスカットも美味しいけれど、今日の目当ては数量限定のモンブランパフェだ。


 「ご、ごめんって…」

 「モンブランパフェ…」

 「しょうがないじゃん…あんな中途半端に終われないって」

 「声大きいです…!」


 慌てて辺りを見渡すが、誰もこちらの声は気にしていないようだった。

 赤らんだ頬を必死に誤魔化しながら、改めてましろと向き合う。


 朝っぱらから体を絡ませあった2人は、当然ちょっとで終われるはずがなかったのだ。


 結局数量限定のモンブランパフェは売り切れてしまって、食べれずじまいだ。


 「また来よう?一番に並んで、絶対モンブランパフェ食べようよ」


 また、と言われて僅かに胸を暖かくさせる。

 2人は恋人同士だから、どちらが誘えばいつでも来ることが出来る。


 誘う理由を考えなくても、遠回しじゃなくても。

 恋人として何度もデートすることが出来るのだ。


 「……約束ですよ?」

 「もちろん。他にも食べたいのあったりする?」


 気を使うようにこちらにメニューを見せてくる。

 寧々子の機嫌を取ろうとしてくる様子に、なぜか嬉しくなってしまっていた。


 ましろも寧々子に嫌われたくないのかと、当たり前のことに幸せを感じてしまう。


 「ベリータルトも食べたいです」

 「注文しよう」

 「……後、手繋いで帰りたい」


 羞恥心で小さく溢した声は、きちんとましろに届いたようだった。


 僅かに驚いたようなましろへ追い討ちを掛ける。

 

 「お風呂も一緒に入ってくれたら、機嫌直すかもしれないです」


 ましろの耳が赤く染まって、恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまう。


 困ったようにはにかむ姿が酷く可愛らしくて、そんな姿に愛おしさを込み上げさせる。


 普段クールな彼女の色んな顔を、恋人としてこれからも沢山見ていきたいと思うのだ。

 





 約束通り、手を繋ぎながら2人で帰路につく。


 途中で夕飯の食材を購入したため、互いの繋いでいない方の手にはエコバッグが握られていた。


 ゆっくりとした足取りで前に進んでいれば、あるお店の前でましろが足を止める。


 「旅行か…」


 店頭には幾つか旅行のパンフレットが差し込まれていて、秋に向けたプランが紹介されていた。


 「いいですね…」

 「行く?」


 好きな人と旅行なんて絶対に楽しいに決まっている。

 何度も首を縦に振れば、ましろがそっと笑みを浮かべる。


 「でも私も暫く学校あるから…」

 「冬休みにします?」

 「けど早く行きたくない?」


 通信制の高校に通う寧々子とは違って、ましろは時間に制約がある。

 しかしせっかくの楽しい予定を早く味わいたい気持ちはお互い様なのだ。


 「一泊二日だったらいけるかも…温泉とかキャンプはどう?」


 どちらだったとしても、ましろとだったら絶対に楽しいに決まっている。


 好きな方を選んで良いと言われて、悩んだ末に後者をチョイスした。


 「キャンプがいいです」

 「じゃあグランピングにしようよ。友達がSNSにあげてたんだけど、すごく綺麗なところがあって…」


 スマートフォンを取り出して、ましろが友人のSNSを見せてくれる。


 バーベキューセットを貸し出してくれて、アメニティも完備されているため、着替えだけを持っていけば楽しむことが出来るらしい。


 夜はドームテントがライトアップされてとても綺麗だと話すましろは、寧々子と同じくらい楽しそうで。


 好きな人との旅行に、2人して胸を弾ませてしまっていた。

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