第47話


 優しい手つきで頭皮に触れられる心地よさに、無意識に目を細めてしまう。


 恋人同士になって1週間。

 今日は初めて一緒にお風呂に入って、上がってからは彼女に髪を乾かしてもらっていた。


 明るい所で肌を晒す羞恥心には相変わらず慣れないけれど、ましろの体見たさに耐えたくなってしまうのだから、本当に寧々子は彼女に惚れ込んでいる。


 「寧々子髪伸びたね」

 「伸ばすか迷ってて…」

 「ボブあんまり気に入らなかったの?」

 「ましろさんのロングヘアが綺麗だから、私も伸ばしたくなっちゃって」


 猫っ毛の寧々子とは違い、コシがあって真っ直ぐなましろの髪はとても綺麗なのだ。


 伸ばしてもお揃いには出来ないと分かってはいるが、つい憧れてしまう。


 一度ドライヤーを切ってから、背後からギュッと抱きしめられる。


 ましろの愛用しているボディクリームの良い香りを近くで感じていた。


 「じゃあ私が髪切ったらボブにするの?」

 「ましろさんのボブヘア…」


 普段前髪を流しているましろであれば、ワンレングスボブがとても似合うだろう。


 真っ赤なリップを付けた姿を想像して、より大人っぽい雰囲気を纏う姿にドキドキしてしまう。


 「見てみたい気も…けど艶々の髪の毛を切るのは勿体無い気が…」


 頭を悩ませる寧々子を見て、おかしそうにましろが笑う。

 恋人同士になって、ましろが自然な笑みを見せる回数はどんどん増していた。


 クールな雰囲気を纏っている彼女は普段ポーカーフェイスで、コロコロと表情が変わる様子に特別感を感じてしまう。


 「冗談だって。寧々子のしたい髪型にしなよ」


 続いて寧々子がましろの髪を乾かしながら、綺麗なロングヘアに見惚れてしまっていた。


 憧れるけど、やはり扱いが楽だからボブのままにしようかと一人で考える。


 「熱くないですか?」

 「平気…頭触られてるとなんで眠くなってくるんだろうね」


 欠伸をする様子が子供っぽくて、とても可愛らしい。

 ましろの一挙一動に愛おしさを込み上げさせてしまう。


 「寝て良いですよ?」

 「明日休みだから」


 くるりと振り返ったましろは、とろんとした目をしている。


 「ゆっくりしようよ」

 「え…」


 ドライヤーを落としそうになって、慌ててキャッチをする。


 一度電源を落としてから、心臓をドキドキと高鳴らせていた。

 恥ずかしいけれど、ましろが喜ぶならばと頷いてしまう。


 何だかんだ、寧々子だって気持ちいいことは嫌いじゃない。


 「…ゆっくりっていつもと違うことするんですか?」

 「え…」

 「え……?」


 先ほどまで眠たげに揺れていた目が、驚いたように見開かれる。


 そこでようやく、「しよう」というワードが健全な意味だったことに気づいた。


 勝手にいやらしいことを想像して、おまけに許可まで出してしまった。


 羞恥心で頬を赤くさせれば、ましろはいたずらっ子の様にニヤニヤとした笑みを浮かべている。


 「じゃあくっつけて、ゆっくり動かしてみる?」


 想像するだけで恥ずかしくて、そばにあったタオルで顔を隠す。


 しかし正直な猫耳と尻尾はぴょこんとあらわにしてしまっているため、こちらが羞恥心で震えていることくらいましろはお見通しなのだ。


 尻尾の先端に触れられて、期待からゴクリと生唾を飲む。


 ゆっくりと人差し指が付け根の方へ向かっていく感覚に、ドキドキと心音を早くさせていた。


 「寧々子、ゆっくりされるの好きじゃないでしょ」

 「…そ、そんなこと…」

 「もどかしくてやだって、前泣いてたじゃん」


 ピタリとましろの指が付け根に到着して、恐る恐るタオルから顔を上げる。


 きっと正直に言わないと、ましろは直接的な快感を与えない気でいるのだ。


 「……いじわる」

 「いいじゃん。寧々子の口から聞きたい」


 恥ずかしさで視線を彷徨わせていれば、頬に手を添えられる。

 グッと顔を近づけられて、少しでも動けば唇がくっついてしまうだろう。


 「言ってくれたら触ってあげる」

 「……本当ですか?」

 「本当」

 「……ま、ましろさんにだったら…なにされても良いです」


 恥を堪えて打ち明ければ、興奮したように唇を重ねられる。


 舌を絡め合いながら深いキスを交わしていれば、敏感な尻尾の付け根をキュッと握られる。


 堪らない快感が体に走って、寧々子は更に甘い声を漏らしていた。


 もどかしくて苦しくて、どんどん快楽の渦に呑まれていったとしても、ましろが側にいれば平気だった。

 彼女とだったら、苦しすぎる快感も受け入れられる。


 2人とも髪が半乾きにも関わらず、ベッドルームに移動して互いの体を求め合っていた。


 恋人として体を重ねられる幸せに笑みを溢れさせながら、ましろからの愛を受け入れてしまうのだ。

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