第46話
一つ数十円の駄菓子を吟味している彼女を見ていると、ルルが小学生であることを思い出してしまう。
寧々子よりよほど大人っぽい見た目をしているため、時折忘れかけてしまうのだ。
お小遣いの範囲でどの駄菓子を買うか頭を悩ませているのが楽しいらしく、以前奢ろうとした時には軽く怒られてしまった。
「寧々子お姉ちゃん何でこの前先に帰っちゃったの?」
「ごめんね…お詫びにお菓子奢るよ」
「自分で食べる分は自分で買うよ!」
お礼をするチャンスだと思ったのだが、しっかり者の彼女はいそいそと駄菓子を店主に持って行ってしまった。
子供だから甘えれば良いのにと思うが、ルルも大人ぶりたい年頃なのかもしれない。
駄菓子屋で食料を買い込んでからは、お決まりとなった公園のベンチに並んで座る。夏休みを終えたとはいえ、まだまだ暑さは残っていた。
額に汗を滲ませながら、改めて彼女にお礼を言う。
もしルルがあの日魔女を紹介してくれなかったら、寧々子とましろはすれ違い続けて、そのまま離れ離れになっていたかもしれないのだ。
「ありがとうね…ルルちゃんが紹介してくれた魔女さんのおかげで、ましろさんと仲直りして…その…付き合えたんだ」
どこか照れくさくてはにかみながら伝えれば、ルルが嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべながら、ギュッと抱きついてくる。
「すごーい!よかったね」
「…本当にありがとう」
「寧々子お姉ちゃんだから教えたんだよ?魔女さんのことは皆に黙ってなさいってママに言われてたけど……寧々子お姉ちゃんが優しくて大好きだから、教えようって思ったの」
2人で顔を見合わせてから笑い合う。
小学生と高校生で、本来だったら交わらない二人だというのに。
世間的に見たら普通ではないから、彼女と出会えた。
そのおかげで、気を許せる友達が出来たのだ。
「恋人っていいなあ、私も欲しいなあ」
「ルルちゃんにはまだ早いんじゃ…」
「そんなことないもん」
大人っぽいため忘れてしまうが、まだこの子は小学6年生。
いずれルルも恋人が出来るのだろうが、秘かに彼女を妹のように思っている寧々子は相手を品定めしてしまうかもしれない。
彼女を悲しませる悪い相手ではないか、厳しい目で見てしまうだろう。
「もし恋人が出来たら教えてね」
「あたりまえじゃん!ダブルデートしようね」
数年後、そう遠くはない未来。
高校生になったルルと、彼女の恋人。
寧々子とましろの4人で遊びに行けば、間違いなく楽しいだろう。
明るい未来を想像するだけで、ワクワクと楽しみが膨らんでいくのだ。
一番お礼を言わなければいけない相手のもとに、ルルと一緒に足を運んでいた。
以前と同じローズヒップティーは相変わらず美味しくて、つい飲むペースを早めてしまう。
「この前は本当にありがとうございました…魔女さんのおかげです」
深々と頭を下げて、魔女にお礼を言う。
想像するだけで怖くなる、あり得たかもしれない未来。
ましろと想いを通わせ合った今だからこそ、すれ違い続ける未来を想像するだけで心臓が冷え込んでいくのだ。
お礼を言われたにも関わらず、魔女はどこか戸惑ったような表情を浮かべていた。
「…気味悪くないんですか」
「どうして…?」
「人の記憶を勝手に盗み見て…こんな力、気味が悪いって…」
声を震わせる魔女の体を、ルルが優しく抱きしめる。
すっぽりと体を包み込まれた魔女の目は、僅かに揺れているように見えた。
「何言ってんの、魔女さんのおかげって言われてるんだから素直に受け入れなよ!」
きっと、みんな同じなのだ。
側から見れば凄いと思うのに、本人はそうじゃなくて。
自分の力に、見た目にコンプレックスを抱いて前を向けない。
俯いて、必死に本当の自分を隠そうとしてしまう。
自分に自信がなくて、怖がりになってしまいがちだけど、勇気を出して顔を上げてみれば、意外とこの世界は明るいものだった。
怖いものばかりではなくて、足を踏み出してみれば信じられない程の幸福が待ちわびていた。
色々な種族が偏見の目に怯えているけれど、当人が思うほど世界は怖くないと今なら思える。
嫌なこと言う人もいるけれど、優しい人も沢山いる。
吸血鬼も猫族も、犬族も人間も、魔女さんも。
息を潜めている他の種族の人たちも、いつかみんなで笑い合えたら良いのになと、どこか夢見がちな願いを抱かずにいられないのだ。
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