第45話


 首筋に落とされるキスに、くすぐったさから身じろぎをする。


 ベッドの上でましろに覆い被さられながらキスをされるたびに、幸福感に心を震わせていた。


 歯を立てて、チュウチュウと寧々子の血を吸う姿に愛おしさがこみ上げる。


 一生懸命に血を吸う姿が可愛らしくて、気づけば笑みを零していた。


 「ふふ…」

 「どうしたの?」

 「なんだか赤ちゃんみたいで可愛いなって…」


 その言葉が癪に障ったのか、ましろは先ほどよりも強い力で肌に吸い付いてきた。

 服の裾から手を差し込まれて、もどかしい手つきで脇腹をくすぐられる。


 焦ったさに身を捩れば、ましろは更に煽るように手つきを激しくさせた。


 「んっ…ンッ…」

 「恋人に赤ちゃんはなくない?」

 

 恋人と言うワードが、じんわりと胸に響き渡る。


 長年憧れ続けた関係。

 とうとう、ましろと恋人同士になれたのだ。


 内気だった寧々子はずっとましろが自分なんかを好きになるはずがないと、彼女の背中を見つめるだけで満足していた。


 4年前の寧々子は、ましろと恋人になる未来が待っていると聞いても信じられないだろう。


 「私とましろさん、恋人同士なんですよね…」

 

 改めて言葉を噛みしめれば、胸元まで服をたくし上げられる。

 明るい室内で体を晒している状況に、凄まじい羞恥心がこみ上げてきた。


 ましろとは何度も体を重ねたにも関わらず、今更ながらに緊張している自分がいる。

 

 抑えきれずに、気づけば猫耳と尻尾を露わにしていた。


 「ま、待ってください…」

 「どうしたの?」

 「…何でか分からないんですけど…恥ずかしくて死にそうで…」


 あれだけ体を重ねたというのにいざ想いを通わせ合えば、どんな顔をすれば良いか分からない。


 行為の時の顔は変になっていないか。

 甘えるような声もうるさくないか。


 恋人相手であれば、こんなにも気になって仕方ないのだ。

 ましろの表情が見えなくなってしまったとしても、今の取り乱した姿を見られるくらいなら電気を消して欲しいと思ってしまう。


 そっと彼女の手が寧々子の頬に触れる。

 優しい手つきで撫でてくれるましろの表情は、どこか嬉しそうに緩んでいた。


 「……私の気持ち分かった?」

 「え…?」

 「初めての時…寧々子は発情期で積極的だったけど…私は恥ずかしくて頭おかしくなりそうだったの」


 全部初めてだったのに、と拗ねたように呟く姿に心臓が鷲掴みされる。

 キュンキュンと煩いくらいに高鳴って、いますぐにでもましろにキスをしたくて堪らない。


 「なにニヤニヤしてんの」

 「ましろさんが可愛くて…」

 「はあ?意味わかんないんだけど」


 悪戯をするように脇腹を擽られて、くすぐったくて笑ってしまう。

 先ほどとは違ってもどかしさはない触れ方に、自然な笑みを浮かべてしまっていた。


 「ふふっ…擽ったい…」

 「寧々子」


 名前を呼ばれて顔を上げれば、すぐ側にましろの唇がある。

 一瞬だけ軽く触れられて、そっと目を閉じれば再びキスを落とされた。


 リップ音をさせながら触れるだけのキスをされて、そっと口を開く。

 途端に彼女の熱い舌が侵入してきて、くぐもった声を上げた。


 「んっ…んっぅ」


 敏感な口内を蹂躙されて、彼女の手がゆっくりと下半身の方へと伸びていく。


 恥ずかしくて仕方ないけれど、ましろ相手であれば羞恥心を受け入れて、その先の快感を求めたくなってしまうのだ。


 好きな恋人相手であれば、どれだけ恥ずかしくても耐えられる。

 想いを通わせ合った行為は、以前のものとは比べ物にならないくらい心地よくて幸せで。


 行為は初めてではないというのに、驚くほど敏感に甘い声を上げてしまう。


 彼女の熱に翻弄されながら、ようやく恋人として体を絡ませ合える喜びに、そっと涙を零れさせていた。


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