第34話


 柔らかいベッドでうつ伏せに横たわりながら、必死に両手で口元を覆っていた。

 背中には僅かな重みと、彼女の柔らかい肌の感触が伝わっている。


 うなじを何度も舐め上げられる感覚。

 熱い吐息が肌に触れるたびに、さらに体に熱が灯っていく。

 

 「んっ……にゃぁ、あぅ」


 舌がうなじから首筋へと移動して、犬歯が肌を貫く。

 同時に尻尾の付け根をギュッと握り込まれたため、痛みよりも快感が体を駆け巡っていた。


 「…ッンッ、んんっ…」


 吸血行為の最中に、ましろが際どい場所に触れるせいで猫耳と尻尾を露わにしてしまっていた。


 尻尾の付け根を指でなぞられたり、手で軽く握られて擦られるたびに、ビクビクと体を跳ねさせてしまう。


 性感帯のそこを触られるだけで、寧々子は目をとろんと蕩けさせて、心地よさから甘い声を漏らしてしまうのだ。


 「…ふぅっ…ンッ…にゃァッ…」


 猫耳に指を入れられれば、もどかしさと同時に背中がゾクゾクしてくる。

 赤く火照っているであろう体を、ましろに見られている状況が恥ずかしくて堪らない。

 

 何とか声を押さえようとするが、快感に慣れていない体は我慢がきかないのだ。

 

 「ネコちゃん気持ちいい?」


 返事が出来ずに必死に頷けば、血を吸っていた側と反対の首筋にキスを落とされる。 

 今度はただ吸いつくだけで、どこか物足りなさを感じていた。


 「……キスマークだらけだね」

 

 食事のためとはいえ、寧々子の体はどんどん彼女による痕が刻み込まれている。


 なくなるよりも先に新しいものが付けられてしまうため、彼女の証である痕はずっと寧々子の体に残り続けるのだ。


 ゆっくりと上体を起こして、ふわふわとした思考の中で声を漏らす。


 「……私も付けたいです」

 「いいよ」


 着ていたTシャツを脱いで、ましろがブラだけを身に着けた姿になる。

 前の黒色のものとは対照的に、今日はまっしろなレースのブラだ。


 くっきりと浮かび上がった谷間は相変わらず煽情的で、目のやりどころに困ってしまう。


 「どうぞ?」


 どこか挑発するような彼女に釣られて、左の鎖骨上にキスを落とす。

 白い肌に吸い付くが、薄く赤くなるばかりで中々色濃く残すことが出来ない。


 「あれ…?んっ…ンッ…」


 リップ音をさせながら何度も吸い付くが、一向に上手くつけられない。


 「もっと強く吸わないと。唇を肌に密着させて、吸い付く感じ」

 「ん……んぅ………あ、できた」


 同じよう寧々子のものである証が付けられて、顔を綻ばせる。

 色濃く痕の残ったそこを指でなぞっていれば、パジャマのボタンを外されていることに気づいた。


 「ましろ先輩…」


 一つ、また二つと外されて、とうとう一番下までボタンを外されてしまう。


 羽織っているだけの状態であるパジャマをストンと肩から外されれば、彼女と同じようにブラだけを纏った姿になった。


 黒色の下着を見られて恥ずかしいのに、以前に比べれば慣れてきた自分がいる。


 「…わたしだけ脱がされるのも不公平でしょ?」


 二人きりの室内。

 ベッドの上で下着姿でいるなんて、まるで恋人同士のようだ。


 「ネコちゃんって黒色の下着付けるんだ」

 「お気に入りの形で色違いを買いに行ったら、この色しか残ってなくて…」

 「可愛いね」


 黒髪のましろが白色の下着で、白髪の寧々子が黒色の下着。

 白黒のコントラストがより一層際立っているように感じた。


 ベッドにゆっくりと押し倒されて、ましろが寧々子の鎖骨あたりに顔を埋める。


 先ほど寧々子が付けた場所と同じ所にキスマークをつけてから、ましろの舌は下半身側へ向かっていった。


 僅かな胸のふくらみにリップ音と共にキスを落とされれば、羞恥心でおかしくなりそうだった。


 ドキドキと胸を高鳴らせていれば、ましろはそっと寧々子の柔らかな胸もとに顔を埋めてしまう。

 

 「……このままシちゃう?」

 「……っ何をですか」


 寧々子の問いに、ましろはすぐに答えなかった。

 言葉の続きをジッとまっていれば、室内にスマートフォンの着信音が鳴り響く。


 「あ……」

 「ネコちゃんのスマホからだ。出なよ」


 ベッドサイドに置いていたスマートフォンを渡されて、震える手で受け取る。

 画面を見れば、着信相手は姉の寧々香からだった。


 「もしもし、お姉ちゃん?ど、どうしたの」

 『夏休み入った最初の週にさ、いつもの6人組と寧々子の7人でバーベキュー行かない?ましろにも聞いてみてほしいの』


 ちらりとましろを見やれば、先ほど脱ぎ捨てたTシャツを既に着直してしまっている。

 寧々子の肩にも、そっと脱いだパジャマを掛けてくれていた。


 「あの、今度お姉ちゃんがみんなでバーベキューに行かないかって…」

 「いいよ、行こっか」


 いまだに胸をドキドキさせながら、電話越しに姉に返事をする。

 声がうわずっていないか、それが酷く心配だった。


 「おねえちゃん?ましろ先輩も一緒に行くって」

 『まじ?やった。日帰りで、バーベキューのセットとかも向こうで借りられるらしくてさあ 』


 それから一言二言会話をして、電話を切る。

 あんなことがあった直後のせいで、ろくにましろの目を見ることができない。

 

  「……バーベキュー楽しみだね」  


 パジャマのボタンを止めながら、必死に頷いて見せる。

 服を着てしまったため、先程の雰囲気はなくなってしまっていた。


 一体ましろは何をシようと言っていたのか。


 もし、あの時姉から電話が掛かってこなくて。

 寧々子が頷いていたとしたら、二人の関係は何か変わっていたのだろうかと、過ぎたことなのにそればかり考えてしまうのだ。

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