「誰でもいい」から「この人がいい」になるまでのお話。

※事前にレビューで知っていても影響は小さいと思いますが、念のため、途中の回で明かされる設定のネタバレを含んでいます。


人と関係を深めることに逡巡があり、「『恋』ができる気はしないから、せめて『ときめき』を教えてくれる人なら、誰でもいい」という縋るような思いを抱えていた女の子が、「『恋』を教えてくれた、この人がいい」と思えるようになるまでの物語です。
人間関係に面倒を抱える自分をそれでも「好き」と肯定してもらえること、そんな相手を徐々に理解していくことに喜びを見いだし、受け取ったものと同じ想いを自分からも返すようになっていくプロセスは、少し懐かしい時代の青春アイドル映画のようでもあります。

物語の大部分は、彼女に恋をする男の子の言葉で語られているのですが、回を追うごとに彼がどんどん格好良くて素敵な人に見えてくるのも見どころです。
男子に語り手を委ねながらも、「ヒロインから彼がどう見えているか?」という視点を常に持って丁寧に綴ることでクリアになっていく彼の印象の変化は、作者の筆の魔法にかかったような感覚があります。

ライトな青春ラブコメのような文体はテンポが良く、普通に読み進めようとすると、スピーディーに読んでしまう(読めてしまう)ところです。
ただ、個人的にはその読む勢いを気持ち抑えめにして、一つ一つの会話と心理描写を「文庫一冊分の恋愛小説」のように味わって読むことをオススメしたいです。