なぜか、赤ちゃんに好かれる人に限って……

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

あんたって、子どもには好かれるよね

「シューヤってさあ、マジで赤ん坊には好かれるよね」


 女友だちのナナイが、僕に言う。


「うん」


 ナナイの娘を抱かせてもらいながら、僕はうなずく。


 僕の家はナナイの職場から近い。

 なので、僕はこの子の保育園が決まるまでの託児所代わりになってあげていた。


 この子はおとなしく、めったなことでは泣かない。

 泣くのはせいぜい、ミルクを欲しがるときくらいだ。


「ほら、娘もなついてる」


 ナナイの娘は、ずっと僕の薬指を握りしめていた。

 終始ニコニコしている。

 

 僕は今、ナナイがおみやげに買ってくれたショートケーキを食べている。


 ときどき、ナナイの娘が手で邪魔してきた。


 自分でもそう思う。 

 僕はたしかに、子どもには好かれる。

 こども「には」。


「なのにさ、女にはそれが伝わってないよね」


 コーヒーを飲みながら、ナナイは冷酷なことを告げてきた。


「うう……」


 僕は、女性にはモテない! 悲しいくらいに!


「言わないでよ。気にしているんだから」


「ごめんね。あたしのツレを紹介してあげられればよかったんだけど、みんな所帯持ちでさ」


「気にしなくていいよ。一人には、慣れてるから」


 ナナイほどの美人クラスになると、他の女性仲間もレベルが高い。

 同時に、要求されるレベルも高くなる。


「あ、そうだ。うちの子と結婚しなよ!」


「ブーッ!」


 僕は、ケーキを吹き出しそうになった。


 それをみて、ナナイの娘がゲラゲラと笑っている。

 顔が面白からだろう。


「キミさ、そういう冗談は勘弁してよ!」


「だってさ、シューヤは、四〇を過ぎても彼女できなさそう」

 

 うう、それは否定できない。


 僕は消極的な性格だし、二四になってもまだ「彼女いない歴イコール年齢」だ。


「この子が一八になってもあんたがまだ独身だったら、結婚させてあげる」

「よしてよ。随分と先の話じゃないか」


 ナナイが、折りたたみ携帯を確認する。旦那さんかららしい。


「帰ってくるって」

「そうか」


 僕は、赤ん坊をナナイに返す。


「じゃあさ、面倒見てくれてありがと。じゃね」

「ああ。こんなんでよければいつでもいいよ」


 手を振りながら、ナナイが玄関のドアを閉める。





 それから二〇年の歳月が流れた。



 相変わらず、僕はまるでモテなかった。


 収入がそこそこの会社に転職しても、何一つ変わらない。


 こんな僕も、今では所帯持ちだ。


 スマホの画像も、妻と娘の画像を待ち受けに変えた。


 僕の隣りに写っているのは、当時赤ん坊だったナナイの娘だ。


 若いのに、どうして僕だったのか。一度妻に聞いてみた。


「これからもずっと、私の面倒を見てほしいから」

 だってさ。

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