第2話 会議は準備が肝心要

元高校生で天国の新人、田中雄二君が、2000年先輩にあたるルキウス氏から天国レクチャーを受けている頃…


2週間後に「神々の円卓」会議を控えたここ、出雲の地では、その準備にあらゆる日本の神々が奔走していた。神在月の集まりを世界規模にしてしまったこの会議は、会期もそのままひと月一杯使う事になるため、その間の居住環境や饗応、エンターテイメントの提供まで、ありとあらゆる種類の神々が存在する日本でなければ、開催は不可能とまで言われている。


特に昨今、神々の世界では日本のサブカルチャーが徐々に浸透し始めており、それぞれの沼にハマった神がお忍びで秋葉原へと出かける事はしょっちゅうであり、続々と引き篭もりニート神が出来上がりつつあるらしい。各地の神会から、悲鳴のような助けを求める声が毎年、円卓議長たる天照大神には届いているのであった。


何故か?彼女には実績があるのだ。10年前、弟神たる須佐之男命が、某アニメの沼に堕ちた。可愛らしい魔法少女モノであり、姉である自身も嫌いではなかったため、一緒に鑑賞する事もよくあった。一時期は、関連グッズを集めたりもしたものだ。つくづく、地元・日本の神で良かったと思うくらいには、彼女も少しハマっていた。


ところが、5年前…そのアニメは惜しまれつつも最終回を迎え、制作会社は解散、続編の可能性も無くなった。姉の良き補佐役として、円卓会議の会期最終日の凶報に、彼は議場から失踪。捜索の結果、渋谷のハロウィンパーティーに、魔法少女の仮装で、漢泣きに泣きながら参加している光景を、八咫烏を通じて円卓会議に生中継されてしまうと言う事態に、神々は大爆笑し、彼女は激怒。そのまま八咫烏に回収させて、議場で世にも恐ろしいお説教をかまして、無事に弟神は更生したのであった。


ちなみに、その時の渋谷のハロウィンパーティー、神々が楽しそうだと目をつけたため、円卓会議最終日は、彼らも人間に混じってパーティーを楽しむと言うのが、恒例の打ち上げとなったのだった。


以上の経過から、天照大神は引き篭もりニート神への対処についてのエキスパートと認識されて、ひっきりなしに世界中から講演の依頼が来ているのであった。まぁ、本神が日本最初の引き篭もりニート神であったハズなのだが…故に依頼が来たら、昔自分を引っ張り出した、脱引きこもりのエキスパート・天鈿女命を派遣する事にしている。


今回の円卓会議の議題は、2本の大きな議題が俎上に上がる事になっている。親睦の深まってきた世界の神々が住む「神界」の統一と、今年度アニメの覇権決定である。


「神界」の統一、といっても、簡単な話ではない。あらゆる知識を総動員しても、中々解決策が出てこないのだ。しかし今回、原初の神が、やっと会議で話が出来るまでに回復したために、少しでも進展が望めるかもしれない。神も知識の提供に同意して下さった。現在、円卓会議議長・天照大神は、原初の神とコタツで会議に向けての打ち合わせ中であった。


「そなたの子ども達が作った文化は、何故ワシの好みにドンピシャなんじゃ。コタツとミカンとドテラとか…考え出したヤツを神にしてやろう、うん。」

ニコニコと、とんでもない事を言っているが、この爺さんがこの世で最もエラいのは間違いなく、そして話を聞いている天照大神も、生真面目ドジっ子な性格であった。


「分かりましたわ。ちょっと弟神に調べさせて、会社ごと神への昇格を検討してー」

天照大神は、最近導入された神界のスマホをサッと取り出した。


「あー、お嬢さんや、その、お茶目な爺さんの冗談じゃからな?と言うか、そういやコタツ神もミカンの神もドテラ神も居るんじゃったな、お嬢さんの神会では…」

あらゆるものに神々が宿るという文化には、最初は驚いたものだ。みな、力は弱いが人間と共に生きていく優しさを備えた、善い神々ばかりなのだ。


「…すみません…すぐに真面目に考える癖が、抜けませんもので…」

天照大神は少し凹んだが、すぐに居住まいを正して、本題に入った。


「それでは、ご提供いただけたデータについて、2週間後の円卓会議での資料として、世界の神々と共有させて頂きますわ。神界の大変革が可能かどうか、皆で知恵を出し合ってみたいと思います。本当に、ご協力頂き、感謝いたします。」

深々と礼をする天照大神に対して、鷹揚に原初の神は頷き、にこやかにこう言った。


「まだ本調子ではないワシには、この資料分の情報を思い出すのだけで限界じゃ。そなたらの知恵に、期待しておるぞ?それと、今年の覇権アニメは、是非とも無職転ー」

「それでは妾はこれにてお暇致しますわ。エンターテイメントは、天鈿女命が担当ですので、どうかそちらとやりとりをお願いいたします!」


弟神の事件後、アニメとは距離を置いた天照大神は、アニメ等エンターテイメント一切を天鈿女命に丸投げしていた。帰り際はちょっと原初の神へ失礼だったかもしれないが、寛大なお方だから大丈夫であろう。


自身の神殿(オフィス兼住居)へ向かいながら、とりあえず今日も弟神と酒を飲もうと決めたのだった。

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その血脈、絶やす勿れ カゼタ @kazeta2199

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