その血脈、絶やす勿れ
カゼタ
第1話 神々の楽園(仮)
天国は今朝も快晴で、燦々と太陽が輝いている。
中心部に程近いとある農場では、ハローワークからの紹介状を持った、まさに死にたてホヤホヤの新人が、おろしたての作業着に着替え、ホンワカした雰囲気の農場主へと挨拶をしているところであった。
「は、はじめまして‼︎ つい3日前に死んで、右も左も分からないままでこちらにお世話になる事になりました、田中雄二と申します!よろしくお願いします‼︎」
3日前、高校生の職業体験で農家を選んだ雄二君は、不運な偶然が重なって、陥没した畑の穴に滑落、その上にトラクターが降ってきての逝去だったそうだ。諸々の事情を書いた履歴書を手渡しながらの自己紹介である。
「やぁ、よくいらっしゃった!私はこのアルカディア農場をやっている、ルキウスって者です、どうぞよろしく!」
受け取った履歴書を読みながら、人好きのする笑みを浮かべて、農場主のルキウスが挨拶を返す。
「オレは2000年前に死んでから、ずっとこの天国で農場をやっていてね。生きていた頃の記憶は大分薄れてしまったが、ルキウスって名前の、何処かの貴族…だった気がしているが、あんまり自信が無い。まぁ、天国歴長いから、色々な説明もしてあげるよ。まずは中で、茶でも飲もうや。」
招き入れられた農場の母屋は小ぢんまりしているが、よく整頓されており、焼かれたパンの良い匂いが漂っていた。ダイニングには4人用のテーブルと椅子が置かれ、ティーセットとパンが2人分用意されていた。
「朝食はまだだろう?ニホンジンも、現代は朝食もパン派が多いと聞いたが、パンでもかまわないかね?」
やたらと下界の現代事情に詳しい、元ローマ貴族っぽい農場主に面食らいながらも、雄二はお言葉に甘えた。実際のところ、天国では飲食など全く必要では無いが、生前の習慣として、食事を楽しむ者は多いらしい。食事の間、ルキウスの語る天国事情にしばし耳を傾けるのだった。
「うーん、まずは天国の成り立ちから話をしようか。ニホンジンなら理解が早いと思うけど、神様っていうのは無数に居てね?全部人間が想像・創造したものなんだけれども、グローバル化の波が神々にも押し寄せてきてね…今、我々がいるこの天国って、極楽浄土とかパライソとか、そういう概念のごった煮みたいなものなんだ。」
雄二少年も、八百万の神々についてなどの話は、人並みには聞いたことがあるが、神々のグローバル化については初耳であった。
「こうなるまで、神々の世界でも2回、世界大戦が起こって大変だったみたい…
戦いのアホらしさに嫌気がさして、やがて神々はまとまって、まずは円卓会議を持って、平和にまとまってやっていきましょう!という事を確認したんだってさ。
…すんごい勢いで食べるねぇ…あ、お茶のおかわり要る?パンもあるよ!」
パンが美味い。何だこれは?塩パン?美味い。遠慮なくおかわりをもらう事にした。
「…うん、よし。えっと、纏まった神々は、いろんな取り決めをしたんだけど、天国と地獄の連携をして一元管理をする事と、それぞれの知識を持ち寄って智慧を高める事、何処かに集まって暮らす事を決めたんだ。
神様って我が強いから、かなり難航したんだけど、なんとか天国地獄一元管理システムの開発と、知識の殿堂の建設を果たしたんだ。ただまぁ、住む所が決まらなくてね…みんなそれぞれ、地元に思い入れがあるからねぇ…そこで、一年に一度、ニホンのイズモってところで、全員集まって会議しよう!って事にしたんだってさ!ニホンの神様達は、毎回オモテナシで大変らしいよ、同情しちゃうなぁ…各地の神々も、神話毎にグループや会議を作ってるみたいだね。大会議はニホンでやるから議長は天照大神さんが勤めていて、天国の管理人もあの人という事になっているよ。多分、ユージ君も死んだ直後、もの凄い美人さんと面接したよね?そう、あの人が天照大神さんだよ。」
そうなのだ。死んだ後、暫く意識がブラックアウトしていたのだが、突然意識が回復し、応接室みたいな所で、ビシッとスーツを着こなした、仕事出来る系のメガネ美女が目の前に居て、大層驚いたものである。でも、書類の山を崩しちゃったり、ちょっと舌足らずな喋り方に、ドジっ娘属性もある事にも、少し萌えながら話をしていたのだ。流石日本の最高神であった。
「ある時の全体会議で、ビッグバンを起こして世界を創造した、本当の意味の「神」の存在とその捜索を、北欧神話連合の「オーディン」様が提唱して、初の地球の神々の総力を挙げて取り組んだら、なんと5年がかりでマジもんの神様を、宇宙の片隅で発見したんだ!お祭り騒ぎだったよ、あの時は…
ただ、世界創造で力を使い果たして、今では御隠居老人のようなお姿でね…神々の円卓としては、是非とも最上位に戴くべきだ、との声が出たから、今の神々の円卓会議の、名誉議長として君臨してもらっているんだ。お名前は無いので、我々はただ、神さま、と呼んでいてね。名前が欲しいと最近おっしゃったみたいだから、天国と神々で公募して、来年の会議で決めるそうだよ!」
なんだか神々のノリが軽い。まぁ、厳格で融通が効かないよりは、100倍マシだ。
朝食にしては、いささかヘビーな話を聞いた雄二少年は、それから農場内の施設案内に連れられていった。その道中では、天国での暮らし方についてのレクチャーも含まれており、明日からの天国生活のため、真剣な眼差しで話を聞くのであった。
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