第4話 鯖の味噌煮る














「たまーに帰ったと思ったら、ほんと蜜柑はぐうたらなんだから。」

「ママ、そう言わないでよ。」




今日は長期休暇の最終日。先輩と遠出デートをして、3日目のこと。最終日くらいはたまには実家に帰ろうかとふいに立ち寄って…お小言をいただいてしまった。



「んー、快適!」

「あんたご飯は?お腹すいてない?」

「えーーーーー、と、すいた!」



親は偉大だ。どんな時でも私の心配をしてくれる。…ママだって、色々大変だろうに。それに私が上手く協力できないのはもどかしいけれど、母は強しで乗り越えてるみたい。


たまには、甘えてくれてもいいのになぁ。



「まったく。…今作るから、まちんさいよ。」

「私も手伝うよ」

「いいから。…寝てなさい、疲れてるでしょう」



ふわっと、笑う。この微笑みに私は何度も救われている。辛い時も、悲しい時も、苦しい時も、笑いなさいと。…笑う門には福来る、と。















…トントントントントン

まな板と包丁がぶつかる音。クツクツクツ、と煮える音と共に、食欲をそそる音がする。

味噌の香りがふわりと舞い、私の鼻まで届いた。スーッと吸い込むと、胃がぐぅ、と音を立てる。



お腹すいた、という感覚。研ぎ澄まされる音、匂い、想像。母の生姜を刻む指先や、グツグツ煮えて泡のたつ鍋。だんだんと火が通り……これは、鯖の味噌煮かもしれない。



見ていないのに感覚で分かるところが、やっぱりと思うところ。お米の炊けてくる音、そして……



「おっ。ねーちゃんじゃん!」

はる、おかえりなさい」

「ただいま!かーさんお腹すいたよー」

「帰ったぞー。蜜柑っ…帰ってるなら電話くらいしなさいっ…」



パパも悠も、元気だなぁ。












食卓を囲んだのは家族4人だけれど、私たちにはあと一人お姉ちゃんがいる。元気かなぁ、なんて。



「いただきます」

「いただきます」

「いただきます」

「…はい、召し上がれ」



それぞれが手を合わせ、食卓を囲む…


不定休のわたしの楽しみは、彼氏とだけ過ごすことでも友だちと愚痴り合うことでもない。

たまには家族で、そう、グルメを貪るという純粋な欲求…!

口コミサイト、雑誌、コラム。あらゆる情報から引き出したこのグルメ脳の私こそ相応しい、グルメるという行動…


外で食べるばかりじゃない。もちろん自炊だっていいのかもしれない。どんなものも、美味しいものは美味しいけれど…一番にココロとカラダを満たしてくれるのは、ママのご飯だ…。

私は全ての料理を食べ尽くし、どんな時でも必ず…胃袋を幸福に満たしたい…!









箸でふわりと身をさく。お魚の食べ方に沿って身を削ぎ、骨を取り、白いお山にバウンドさせて口へ運ぶ。


ほくほく、ふわっ…

口の中に広がるお味噌の風味、そして生姜をアクセントにさっぱりとあとを引かない優しさ。


かつかつかつっとお米を口に運び、サラダにも手を出す。

トマトのじゅうしぃさ、酸味、そしてキャベツの千切りは歯ごたえを与えてくれて甘みが…ひろがる。



暖かいお味噌汁。今日は豚肉やごぼう、人参の入った豚汁だ。そしてサツマイモの甘みまで私を包み込んでくれる。






がぶがぶっ、ジュッ…ごくんっ

ふわっとろっ、カッカッカッ…ごくん


豚汁のどっしり感、そして汁の旨味、喉に流し込む快感。魚のふわふわな身と、止まらない白米の誘惑…ごくり、ごくりと食べ干していく。



野菜の優しさ、肉のエネルギー、そして汁の温もりがからだを巡る。

魚の栄養が、味付けの優しさが、そして勢いを助長する白米よ…

キャベツのざくざくとした歯ごたえ、水分、トマトのみずみずしい酸味と甘みのハーモニーが…









がつがつがつ、ごくり!



…胃を、満ちさせたのだった。







「ふぅ…ご馳走様でした!」

「お粗末さまでした。」



家族の中で一番乗り。私はいつもそうなのだ。



「ったく、大食らいだよなあ」

「いや。パパは沢山食べる蜜柑もかわいいと思うぞ」

「…太るわよ」

「ママ言わないで…!」




にぎやかな家族の団欒。

たまにはこんな、グルメな日も良い。









『こ、今度…挨拶に、行くよっ…』

『先輩、無理しなくてもいいのに』

『無理じゃないよ…結婚するんだし』

『…え?』

『蜜柑。俺と……』

『?』

『結婚しよう』

『…っ!』









…これから、どうなることやら。

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グルメる 茶子 @hgsjn

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