不器用

宮内耀

第1話どうして君は


私は受験期で目標の学校に受かるため毎日勉強に打ちこんでいた。本番も近かったため、なおさらだ。しかし、そんな日常はすぐに崩れた。いつものように学校から帰宅するとリビングには母と父がいた。最近は父が仕事で忙しく長らくこの風景は見れていなかったが、前まで見ていたものと違った。父は私に気づくと


「話がある」

と短く一言を発した。

それから別れる経緯などをずらずらと話された。主な原因は父の浮気だったらしい。その後も話は続いたが途中から話は耳から耳は抜けて行った。いつも気難しいそうで大きかった父はなんだか小さく見えた。父は長い話を終え最後に


「ごめん」と言葉を残した。


私はその言葉に耐えられなかった。ごめんじゃすむわけがない。なぜ、なぜ。なんでこのタイミングなんだ。私はうちから溢れる感情に身を任せ、思いつく限りの罵声を父に浴びせ、泣き喚いた。

そして居心地が悪くなり家を飛びだしてした。あたりは日が沈み、薄着では少し肌寒かった。勢いで出てしまったため行く当てもなく、近くにある公園でブランコに揺られてこの後どうするかを考えていた。すたすたと人通りの少ない公園の道を自転車を押し歩く幼馴染の姿が目に入った。先ほど訳も分からず泣き飛び出してきたため、目がどの程度貼れているかわからなくて、顔を合わせたくなかった。私は揺れているブランコを静かに止め、自身は石造のごとく固まっていたのだが、幼馴染は公園の入り口に立つと左右ゆっくり見つめた。そして、ブランコに縮こまる私に気づいたのか、幼馴染はじゃりじゃりと足音を立てながら、近づいてくる。ついに幼馴染は私の前まで来るとなぜか何も言わずに隣の空いていたブランコに揺られ始めた。風の音とブランコの音が閑静な住宅街に響く、どちらも一言もしゃべらない、不思議な空気、だけど嫌な気持ちにはならなかった。それどころか、私は少しほっとした。

 幼馴染は普通の人に比べると寡黙な男の子だった。ずっとそうだった。だけど、肝心の時にはよくしゃべる子だった。

幼馴染は漕いでいたブランコを止めるとこちらの方に顔を向けた。私は反射的に顔をそむけた。


「今日うちに来る?」


と幼馴染は一言。

私は突然の提案に頭が追い付かず少し間が開き、幼馴染の方をぼーと見ていた。

幼馴染とは昔こそお泊りなどしていたが、それも小学生までだった。今は高校生である私たちにそんな提案おかしいだろう。考えに耽っているとし視線に気づいた。

幼馴染は目をそらさずにまじまじ私のかおを見ていた。ハッとしその問いに答えた。


「何言ってんの?私たちもう高校生だよ。馬鹿じゃないの」


幼馴染は顔を一瞬むっとさせたが、すぐにいつもの無表情へとかわった。


「勘違いしてるかもしれないけど、ご飯食べにくるかって意味だったんだけど」


「あ、なるほどね」


私は恥ずかしさに耳の先が熱くなるのを感じた。そして、押し固まっているとひょいっと持っていたビニール袋から菓子パンを出した。


「このパンあげる」


私の好物のクリームパン


「なんで。このパン?あんた甘いの苦手でしょう?」


「たまたま、買いたくなったんだよ」


さっきまで表情を崩さなかった幼馴染は、少し困った風な表情をしていた。


「そういうことにしておく」


私はふんっと顔を正面に向け何も見えない暗闇に包まれた公園を見て、パンの包装を破った。もぐもぐ、食べていると幼馴染はボソッと言葉を放った。


「久しぶりにさ勉強教えてよ」


「いきなりどうしたの。まさか、それが狙い?」


「いや前相談していた女の子と一緒の場所に行きたくてな」


「あーなるほどね」


以前は携帯なんかでやり取りしていたが、対面で言われると何か堪えるものがものがあった。この痛みは、両親の離婚からかはわからないが、こいつの顔を見ていると余計むかむかした。


「携帯があるのに、なんでここいるの?」


「ちょうどコンビニで買い物の帰りにいたからさ」


「夜に?買い物なんて珍しいわね。」


幼馴染は黙ってしまった。おそらく私が親と喧嘩して、家を出たのに気づいて追ってきたのだろう。


「あんたって不器用よね」


「そうかも」


幼馴染がそう答えたとき厚く塗り固められていた雲がなくなり月の光が差してきた。

幼馴染はどこか申し訳なさそうな笑顔をしていた。幼馴染の顔は月明かりに照らされ自分とは違う次元にいるのではないかと錯覚させられた。


「じゃあ帰るか」


の幼なじみの一言で私は気づいた。私は幼馴染のことを好いていたのだと、気づくにのに遅すぎたことに。

幼馴染に相談されてから私は、その子と幼馴染をくっつけようとしていたのだ。今更、そんなの嫌だ、など都合のいいことは言えない。幼馴染といる時間がこんなにも当たり前だとえる時間が、無くなるなんてよく考えてもみなかった。幼馴染に頼られるのがうれしくて、自分のことを見ようともしていなかった。幼馴染のことを不器用だと言っていたけど。一番不器用なのは自分だった。























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