第4話 エピローグ

 ◇◇◇

 

「大和、グラバー邸に着きましたよ」

 巫矢が、天浮舟の操縦席にあるモニターにグラバー邸を映し出した。

「なんか前に襲撃した時より、仰々しくないか?」

「うん。まるで要塞か砦みたいですね。まあ、前回と違って、神魂一族の存在もトップサーティーンにバレてますからね」

「そっか、あいつらは時空を超えてアパレルワールドのトップサーティーンと情報共有できるみたいだからな。まあ、派手な挨拶ともに登場するか!! ワクワクするな!」

 大和は闇裂丸を腰に差し、ダイナマイトホルダーになったショルダーベルトを担ぐとハングライダーをセッティングして、移転門に立った。

「巫矢、グラバー邸上空1千メートルあたりに移転してくれ!!」

「何やってるの? そりゃ、大和一人でもあんな砦なら制圧するぐらい簡単でしょうけど……。今回の主役は紫なのよ。私たちは速やかにミッションを遂行して、後は生き戻りした人にがっばってもらいましょ」

「生き戻りって、巫矢も気が付いていたのか……。紫の存在の希薄さに……」

「当然でしょ。英霊とご先祖様(仮)たちの執念が実って、紫の存在が確定すればいいけど……」

「カッコ仮って、神魂一族を頼った時点で確定は確約されているだろ。それより、あのグラバー邸、どうするんだ? 核シェルターみたいな地下にトップサーティーンの一人がいるぞ。今回の元凶はあいつだろ。一筋縄じゃいかないぞ!」

「大丈夫!!」

 そういうと、巫矢はサングラスのようなゴーグルを大和に投げて渡した。

「ターゲット スコープ ロック オン、目標グラバー邸、距離1万メートル、対ショック対閃光防御、エネルギー充填120%!!」

「いきなりクライマックスかよ!!」

 怒鳴る大和を無視して、懐かしいセリフを続ける巫矢

「5、4,3,2,1、 神罰の雷(しんばつのいかずち)!!!!」

「そこは波動砲じゃないのか?!」

 

 大和のツッコミも何のその、天浮舟の船首から、すさまじい光のエネルギーがグラバー邸に降り注ぐ。一瞬だった。地上に在ったすべて物が光に焼かれ蒸発して、グラバー邸のあった場所には大きなクレーターが残っただけだった。


「任務完了、それでは、出雲の神魂一族の里に帰還します」

「巫矢、何やり切ったような顔をしてるんだ。いきなり、神罰の雷って!」

「()仮じゃね、霊力を集めても、本来存在しない人間をタイムリープさせるのがやっとなのよ。紫のタイムアップはすぐそこよ」

「そう言われればそうか……、だったら、紫のところには寄らなくていいかな?」

「元凶のトップサーティーンが消し炭になった以上、歴史は変わります。紫もいつまでもこのパラレルワールドにはいられないでしょ。そのまま、次元の狭間で消えるか、元居た時代に戻れるかは、高杉さん次第です」

「高杉さん次第か~。だったら、大丈夫かな、日本のかじ取りを任せることができる一人だよ。あの人の人となりは、攘夷で欧米列強の連合艦隊を返り討ちにした時にわかっている」

「そうね、私たち以上にこの国の将来を憂いている人だもんね。あと、大和と違って女にモテるからね」

「うん。否定はしないぞ、男でも惚れるかならな」

「何よ。嫌に素直じゃない?」

「俺は巫矢と一緒に、のんびり神魂の里でのんびり過ごすのが一番だ。歴史に名を残すなんてとんでもない」

「――、こんなところで……(そのセリフは照れる)」

「どうした、巫矢、神魂の里に帰ろうぜ」

「う、うん。面舵いっぱい!! 神魂の里に全力前進!!」

 照れ隠しに巫矢は、天浮舟の舵を思いっきり回す。


◇◇◇


「高杉さん! 高杉さんって!」

 紫は声を掛けられながら肩をたたかれたので、ビクッとした。振り返れば、紫と同じように竹ぼうきと抱えている近所のおばさんに声を掛けられていた。

「えーっと、何でしょうか?」

 困惑する紫。今まで、高杉晋作の家にいたはずだ。だけど、周りを見ると、ここは靖国神社の境内。しかも、今日の奉仕作業は中止だったはずだ。私と同じように自主的に来たのか他にも同じような人が三々五々境内に散らばっていく。こんなリアルな光景、今まで見たことがあったけ、何度も参加しているはずなのに今回が始めて参加したんじゃないかと思えるほど、紫は過去の記憶は曖昧に感じたのだ。

 そんな戸惑っている紫におばさんが言ったのだ。

「高杉さんは、あの石碑のところね。なんか縁みたいなものを感じるわね。同じ苗字の偉人さんだし」

「――?」

 おばさんの言っている意味がイマイチ理解できない。それでも、言われた通り、その石碑とところに小走りでかけていく。

 その石碑には何か碑文が掘られている。こんなところに石碑なんてあったけ、そう思いながら碑文に目を走らせた。

「面白き 事もなき世を 面白く すみなすものは 大和魂」

 何でここに高杉さんの辞世の句が……、しかも紫が書き変えた下の句が書かれている。

 さらに、辞世の句がかかられた年が一九〇四年となっている。

「高杉晋作さんの命日が日ロ戦争の年、だから、靖国神社に奉られている?! 

それに、伊藤博文が高杉晋作の顕彰碑に「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し、衆目駭然として敢えて正視するものなし。これ、我が東行高杉君に非ずや」と寄せたのは一九〇九年であり、その年まで高杉さんが暴れ回っていたと時間的にすればつじつまが合い、今までの違和感が払しょくされる。

 さらに、その石碑に並んだ上座には、あの攘夷そして公武合体こそN国の進む道と最後まで信じて、開国を拒否した孝明天皇の石碑もあるのだ。石碑には次の和歌が掘られていた。

「我よりも、民のまずしきともがらに、恵ありたく 思うのみかは」

 これは宮中の炎上という災害に見舞われたときに、火災に遭ったのは私たちだけではないから、ぜひ同じ境遇の国民にも恵みがもたらされてほしいと唄ったのだ。

 こんなに民のそばにあろうとした孝明天皇は、とにかく若くして死んだはず、明治維新の志士たち特に伊藤博文や岩倉具視に、倒幕に邪魔な外国嫌いの危険思想の持ち主として暗殺されたと言う噂さえあったはず。でも、そこに書かれて説明文に死亡した年が一八八〇年と紫の知っている歴史より10年以上も長生きをしている。

 紫は自分の知っている歴史とここに書かれている史実が違うことを、雷に撃たれたように突然、理解した。それと自分のことも……。

 すべては歴史が変わっている。高杉晋作さんが死なずに生き抜いたことが原因、高杉さんが孝明天皇の暗殺を止めたんだ。それより、私は高杉さんとおのうさんとの間に生まれた女の子の子孫。もちろん、これはおのうさんが高杉さんには隠し通したこと、だから、私はこんなに歴史に詳しかったんだ。

 そうだとしたら、もし、私が薬を飲ませた後におのうさんが高杉さんとの子供を生んでいたとしたら……、今までの私は何だったの!!!!!!

 その言葉は誰にも届かない。高杉とおのうの子がいつの時点で生まれたのかは、だれも検証できないから……。


 本当に歴史が変わったの? 碑文だけじゃ真実はわからない。

 紫は隣にいたおばさんに尋ねた。

「ねえ、クデーターはどうなったんですが? 皇女の結婚は?」

「は~あっ、クデーターって? 何のことだい。皇女ってⅯ様のことかな。だったら4年ほど前にみんなに祝福されて結婚しただろ」

 おばさんの話に立ち尽くした紫。どういった経緯をたどったかは分からない。だが、確実に欧米列強からの影響下から逃れた独自のN国の歴史を紡いできたみたいだ。

 それは、国を愛し民に寄り添う孝明天皇、そして、すり替えを逃れ、孝明天皇に厳しく躾られた明治天皇、その後の大正天皇、昭和天皇、平成天皇そして令和天皇に、孝明天皇と明治天皇の生きざまが脈々と受け継がれてきたからだ。




了 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラスト プリンセス皇家の嗜み(皇国の守護者たち外伝) 天津 虹 @yfa22359

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ