ハートの国 〜来歴否認のフェアリーテール〜

愛野ニナ

第1話

 1


 ハートの国は、魔法の国

 どこもキラキラ かわいくて

 甘いお菓子もいっぱい


 ハートの国は、毎日パーティー

 いつでもとびきりオシャレして

 好きなことして楽しく過ごす


 でもね、ある日、私は知った

 ハートの国ってほんとはね……


 なんでもあると思っていたのに、

 ここには なぜか

 本当のハートがどこにもない


 みんなの心にも、

 私の心の中にも、ない


 ハートの国にはどうして

 本当のハートがないんだろう?


 ハートの国にいた私には、

 本当のハートってなにか、

 実はよくわからない


 でも、それを知ってしまったからには、

 もうここにはいられない


 だから私は、ハートの国を出ていくことにした

 外のセカイへ 本当のハートを探すためにいく


 2


 外のセカイへ来てみれば、

 どれもキラキラ かわいくて

 欲しいモノがいっぱい


 だけど……

 外のセカイはきびしくて、

 綺麗なドレスも甘いお菓子も

 働かないと手に入らない


 でもあきらめるのはイヤだから、

 いっしょうけんめい働いた

 今では私、ハートの国にいたときよりも、

 いろんなハートを手に入れた


 でも、なにかがちがう

 私が持ってるものは、

 どれもこれも

 ハートのイミテーション


 どれだけハートを集めてみても、

 本当のハートがまだ見つからない


 本当のハートはどこにあるの?

 外のセカイ、ここは

 まるで迷路のように

 私の心を惑わせる……


 3


 月夜の晩には 仕事を抜け出し、

 星降る夜には 出かけよう

 心も踊る仮面舞踏会


 ハートの国にも劣らない

 すべてがキラキラ 輝くお城

 ごちそうだっていっぱい


 ドレスに着替えて リボンを結んで

 ハートのルビーを胸に飾れば、

 私も今夜はプリンセス


 ほらね、素敵な貴公子が

 私の手をとり ダンスに誘う


 ねえ、貴方はお金もちかしら?

 本当のハートをもっているの?

 もしも、もっているのなら、

 どうか 私にくださいな


 貴公子は仮面の奥で、

 私の言葉を嘲笑う……


「本当のハートは 金では買えない

 誰かにもらうものでもない 

 それがわからない限りは永遠に 

 本当のハートに 出会うことはないだろう」


 その声、その姿、昔、どこかで知っていた

 貴公子が仮面を脱ぎ捨てると……

 私の中のかすかな記憶がよみがえる


 4


 ねえ、ハートの国って知ってる?


 わがままで着飾ってばかりのなまけ者の女の子がね、

 ある日、

 いつものように鏡を見ていると……

 鏡の中からこんな歌が聴こえてきたんだよ


 ハートの国は、あこがれの国

 夢見る少女の甘い夢

 どんな願いもかなえてくれる


 ハートの国は、毎日パーティー

 勉強も仕事もしなくていいの

 誰にも しかられたりしない


 でもね、ハートの国にずっといたいなら、

 自分のハートを捨てなきゃいけない


 だから、ハートの国には

 本当のハートがどこにもなかったんだよ


 ハートの国にずっといたくて、

 自分のハートを自ら捨てた

 その女の子は、この私


 やっと思い出せたこと

 私はもともとここに、

 この 外の世界にいたのだった


 5


「外の世界へ出て来ても、

 快楽ばかりを求めるおろかな娘は

 ハートの国こそふさわしい


 外の世界は疲れることばかり

 気ままに遊んでいたければ、

 ハートの国に戻るがいい 」


 舞踏会の貴公子はハートの国の使者だった

 鏡の向こうに ハートの国の扉が開く

 もういちど ハートを差し出せば、また……


 だけど、私には

 差し出すべきハートがあるの?

 昔、ハートの国で引き換えて、

 なくしてしまったはずなのに?


 外の世界に暮らしても、

 私はあいかわらず

 物欲だらけ おろかな娘


 それでも、日々の暮らしの中で、

 誰かを助けたり、

 誰かに助けられたりもして


 傷つくこともあったけど、

 誰かを愛して、

 誰かに愛されていた


 そんなとき

 心の奥があたたかくなったよ


 本当のハートは、

 自分の心の中で育てていくもの


 私はやっと気づいたの

 こんな私の心の中にさえも、

 確かに また、

 ハートの種が宿っている


 そして、

 ハートの魔法が、消えていく

 ガラスのお城は砕け散る

 まるで 一夜の夢のよう


 ハートの国は、誘惑の国

 鏡の中から見つめている

 いつも 弱い心を見つめている……


 でも、もうだいじょうぶ

 心に宿ったハートの種は、

 魔法なんかよりずっと強く輝きはじめていたから


 もう二度となくしたりなんてしない。

 いつか、

 本当のハートになるまで


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