サンリオタイムネットワールド

好きだった妹が死んだ。母から連絡があった。葬式には出なかった。妹が死んだのが信じられなかったからだ。葬式に出ろと親から言われたが、無視をした。親からも親戚中からも恨まれているだろうから、もう地元には帰れない。母からの電話に今更は出られない。三ヶ月経ったけど、妹が死んだのは未だに信じられなかった。

大学に入って地元を出るまでは、いつも妹とテレビゲームをして遊んでいた。仲が良かった。妹の部屋は小さかった。妹の部屋にあるのはおさがりのゲーム機で、思い返せば最新のゲーム機を遊ばせてあげなかったのは可哀想だった。妹はキティちゃんが好きだった。おじにもらったWindows95にはサンリオのゲームが入っていて、交互に何度も何度も遊んだ。大人になってからはさすがに遊ばなかったけど、子供の頃の妹にはもっとサンリオのゲームを遊ばせてあげたかった。クリアできなかった「サンリオタイムネット」というゲームボーイカラーのゲームがあった。何時間やっても次にどこへ進めばいいの分からず、最後は諦めたけど、最初からやれば進めるんじゃないかと、何度もやり直した。ふと、サンリオタイムネットを遊べば忘れている妹との思い出に再会できる気がした。ゲームを遊んでいるうちに色んなことを思い出せるかもしれない。そうだ、サンリオタイムネットを遊ぼう。

今はもう、ゲームボーイカラーと、サンリオタイムネットのソフトは手元になかった。だからネットで探した。すぐに注文する。次の日、サンリオタイムネットは届かなかった。配送状況を見てみるが、まだ配送されていない。早く妹に会いたかった。夜はサンリオタイムネットの夢を見て眠った。さらに次の日、仕事中もちらちらとスマホで配送状況を確認していた。確認するたび配送されていないのを見ては、まだなのかとあせった。夕方近くになって、今日はもう配送されないだろうと諦めかけていたとき、画面に「本日配送しました」の文字を見て、なんとも言えない高揚感があった。一日中スマホを確認して、待ちきれなくなっていた。次の日は土曜だった。待ちきれずに朝早く起きてしまい、掃除をしたり体操をしたりして届くのを待った。十一時頃にようやく宅配業者がやってきて。それなりに大きいダンボールを置いていった。ついにサンリオタイムネットが遊べる。ダンボールを開けるとゲームボーイカラーとパッケージに入っていないむきだしのソフトが梱包されていた。中古だったからパッケージに入っていないのは仕方ない。ゲームーボーイカラーの梱包を外して、背面の電池ポケットが空なのを見て、しまったと思った。最近のゲーム機に慣れすぎて忘れていたが、ゲームボーイカラーは電池で動くのだ。部屋の中に電池はあっただろうか。すでに待ちきれずにそわそわしていたのに、ここに来てまだ遊べないかもしれないという不安でいらいらしはじめた。電子機器を放り込んでいる箱を押入れの中から引っ張り出し、ひっくり返して中を探すが、電池はなかった。ちくしょう、コンビニに行くしかないのか。スニーカーを履いて小走りでコンビニに行き、電池だけをひっつかんでレジを通し、すぐに部屋に戻ってきた。これでサンリオタイムネットが遊べる。ふと、起動しないのではないかという不安が一瞬頭をよぎった。ゲームボーイカラーもソフトも中古なのだ、動作確認はしっかりされていたのだろうか。大丈夫、遊べるはず。そう自分に言い聞かせ、電池をセットし、カセットを奥まで差し込んで、慎重に電源ボタンをスライドさせる。ディスプレイに通電するプツっという音がして、任天堂のバグッたロゴが表示される。あせるな、大丈夫だ。カセットを取り外してふーと息を吹きかける。もう一度カセットをゆっくり差し込んで、ついてくれとお願いしながら電源ボタンをスライドさせる。すると任天堂のロゴがゆっくり現れて表示される。サンリオタイムネットの開発会社であるイマジニアのロゴが画面に映る。やった、これでサンリオタイムネットが遊べる。ゲームの中に妹が待っているのだ。

主人公には妹の名前を付けた。遊んでいる内に昔遊んだ記憶を思い出す。そうだ、「ときのはしら」とよばれる時間軸を修復をして、過去と未来を元に戻すというストーリーだ。「ときのはしら」を修復すれば妹が死なない未来を、正しい未来を取り戻せると思えてきた。「ときのはしら」を修復するためには「ときのかけら」と呼ばれるモンスターを捕まえて収集する必要がある。モンスターはそこかしこに登場し、妹におそいかかる。時々、キキララやけろけろけろっぴといったサンリオのキャラクターが登場しては妹の前に立ちふさがり、彼/彼女らはまるでサンリオのキャラクターとは思えないモンスターたちを使役して、妹の進行の邪魔をした。モンスターが現れたら捕まえる、すでに捕まえたモンスターなら倒す。そうして「ときのかけら」を集めながらストーリーを進める。そういえば、妹が遊んでいたときにめんどうなレベル上げを手伝ってあげたことがあった。妹は習い事をしていて、夕飯になるまで帰ってこない日があった。そういう時に、ストーリーは進めないように気をつけながらコツコツとレベル上げをしていた。

忘れられた大陸。聞いたことのある地名を目にする。そうだ、妹と二人でその先に行けずに詰まったのだ。ここにいけば何かがある。妹は正しい、未来にたどり着くはず。

必死にゲームを遊び続けた。夕方近くになったけど、昼食を食べていないことを忘れるぐらい、集中した。妹が正しい未来に行けるかどうか、命がかかっていることだったので、食事をしていないことなんてどうでも良かった。そうして、妹は忘れられた大陸に辿り着き。そう、時のはしご。時のはしごを登れば未来に行けるのだ。妹は正しい未来に行くことができる。妹は時のはしごを登る。そうして妹は未来に行った。


奇妙だった。見覚えがある、光景だった。スマホで日付を見ると三ヶ月前のあの日だった。そうして、スマホが鳴って、母から連絡があり、妹が死んだことを告げられた。

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電脳蒸気怪奇譚 牧野大寧 @maquiwo

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