#29(最終話) おかしな二人





 月曜日の朝


 いつものように駅で降りて改札を抜けると、八木が待っていた。



『おはよう、八木。 お待たせ』


「おはよう! えへへ」


 俺から声を掛けた。



 二人並んで歩き出す。

 でも腕は組まない。


 学校までの道、八木は終始笑顔で楽しそうだけど、以前よりも落ち着いている。



 二人で歩いていると、以前、八木が熱出してダウンしていた場所を通り過ぎた。

 あれからもう3か月近く経っていた。


 あの時から季節も変わり、最近は肌寒くなりはじめている。


『八木、あれから急に熱出したりしてないか?』


「うん、大丈夫だよ」


『そっか、しんどくなったら無理するなよ』


「ふふふ、ありがと」







 学校に着いても八木の3組まで並んで歩いて、そこで別れて自分のクラスに向かった。


 教室に入ると桑原が居たので、少しだけ話した。


 桑原は「良かったね。 これでカンナちゃんも少しは落ち着いてくれるかな?」と言っていた。


『そうだといいんだけどね』と返事した。







 お昼時間になり、いつもの様に八木が弁当を持って現れた。


 隣の席のイスを俺の机の横に持って来て、座って弁当を広げる。


 二人で手を合わせて「頂きます」と言って食べ始めた。


「そういえば」


『うん?』


「栗山くんはどうして食事前に手を合わせて「頂きます」をちゃんと言うんです? 男の子だと珍しいですよね?」


『うん、まぁ八木と一緒だよ。 弁当作ってくれたかーちゃんに感謝してるんだよ』


「そうでしたか。 そうですよね、感謝するのは大切ですよね」


『そうだな』


 この日もから揚げと玉子焼きを交換した。





 弁当を食べ終わった後も、そのまま二人でお喋りを続けた。



「だから、二人は欲しいんですよ!」


『別に二人でも一人でもいいよ。健康だったら』


「いえいえいえいえ、いくら栗山くんでも、そこは譲れませんよ!」


『八木、声でかい。もっと静かにしてくれ』


「もう!そうやってすぐごまかそうとするんだから!」


『はいはい』


「キィィィ!またそうやって軽くあしらって!」


 八木が騒ぎ出したせいで、桑原がやってきた。


「なに大騒ぎしてんの? またケンカ?」


『いや、バカな八木が一人で騒いでるだけだ』


「あ!あ!あ!またバカって言った! バカって言った方のがバカなんですからね!栗山くんのがバカなんですからね!」


 八木がぎゃんぎゃん吠えてるので、桑原は小声で俺に聞いてきた。


「カンナちゃん、ナニを興奮してるの?」


『いや、二人で将来の家族計画の話ししてたら、意見の相違があって・・・』


「え!?家族計画!?」


『まぁ子供の数だな』


「・・・・栗山・・・冷静ね・・・あんただけだわ、カンナちゃんの相手出来るの。 二人ともお似合いだわ」


『桑原、今お前、なにげに俺のことディスったな? バカの八木ならまだしも、俺はまともだろ!』


「いや、あんたも十分おかしい。 うん、カンナちゃんも栗山も、二人ともおかしいね」


『おい八木!今の聞いたか! 桑原が俺たちのこと頭おかしいとか言ってるぞ!』


「アカネちゃん・・・アカネちゃんはきっと寂しいんだね。 アカネちゃんはきっと私達が羨ましいんだよね。 アカネちゃんも早く恋を見つけるんだよ? そしたらきっとハッピーになれるからね?」


「なんかカンナちゃんにこんなこと言われると、無性にムカつくんだけど」





 桑原は、俺と八木のことをお似合いだと言ってくれた。

 それがちょっとだけ嬉しかった。


 八木が以前に比べ落ち着いてくれつつも、以前と同じようにバカなこと言うのも嬉しかった。



 八木のせいで、色々なことに巻き込まれて大変だったけど、でもこれからの時間も八木と一緒に居られると思うと、それは幸せなことなんだと思えた。











 お終い。









 ※※※※※※※※※※㍍※※※※※※※※※※


 しぶとく最後までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

 最初の数話書いてた頃は、シリアスな話にするつもりだったんですけど、気が付いたらコメディ寄りに引っ張られてました。 決定的だったのは、「呼び捨てするなら苗字じゃなくて名前で呼んで!カンナって呼んで!」という台詞を思いついてしまった時でした。ここから完全に方向性が決まってしまいました。


 でも自分としては、面白おかしく書けたので、満足です。

 特にお気に入りの台詞は『コイツは彼女なんかじゃない。ただの八木だ』です。


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 続いて新作公開開始します。

 タイトルは「恋してはいけない人に恋した。」

 明日朝7時より公開開始します。

 今度こそシリアスなお話しです。

 ぜひ一読してみて下さい。


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例え勝てはしない勝負でも バネ屋 @baneya0513

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