第26話 洋館

 あれから俺たちは夜道を馬車で小一時間揺られていた。

 その間も三人で手軽なコイントスで遊びながら楽しんでいると、前の方から声が聞こえた。

 

 

「お待たせいたしました。こちらがその物件でございます」


 馬車の外を見ると、今までいた闘技場や店が多く並ぶ活気づいた街からは全く想像できない、閑散とした場所だった。

 周りにはちらほらと他の物件があり、綺麗に整えられた木々が生い茂り、きちんと整備された砂利道もある。

 入り口にはしっかりとした鉄の門があり、周りを外壁が囲う中に平屋の洋風の館があった。




「あら、見てみればなかなか悪くないじゃない!」


 カーヤは物件販売所での態度が嘘のように変わり、馬車から降りて洋館を眺めると、目の前の建物に満足している様子だった。


「でも、暗いのでちょっと不気味に見えますね~」


 リリアは馬車の中で明かりの着いていない夜の洋館に少し怯えている様子だった。


 無理もない、あたりにはぽつぽつと街灯が少しあるだけで、洋館の敷地内は全て真っ暗。

 綺麗に見える建物だがまるでお化け屋敷の様だ。


「まぁ住めば都っていうだろ。入ってみようぜ」


 俺は洋館に入ろうと馬車を降りて門に近づくと、物件販売所のおっさんが引き留めてきた。


「あぁ大変申し訳ございません。こちらの物件は内見が不可でございまして、ここで売り切りという形になってしまいます……」


「あぁそうなのか、うーん……」


 汗を拭きながらそう話すおっさんだったが、この物件は同じ価格帯の物より圧倒的に見栄えがいい。

 もしここでこの物件を断れば、間違いなくカーヤが文句を言うと思った俺は、断らずにそのまま代金98000ペリスを支払った。


「誠にありがとうございます~! それでは、良い暮らしを~!」


 俺が支払うや否や、おっさんは俺に洋館のカギを放り投げそそくさと馬車で帰って行ってしまった。




「なんなのあのおっさん! お金払ったら即撤収!? 接客がなってないわね~!」


「お前はいつの間にクレーマーになったんだ」


 門の前で文句が止まらないカーヤだったが、実際は早く家に入りたそうにそわそわと耳を動かしながら小さく跳ねていた。



「よし! そんなことより、俺たちの初めての家だ! 開けるぞ!」


 念のため洋館に意識を向け未来予知をしたが、数十秒の間に映ったのはただただ静かに佇む洋館しかなかったので、俺は門に鍵をゆっくりと差し込んだ。



――ガチャリ。ギィィィィ……



 ゆっくりと入り口の鉄の門を開くと、そこにはこじんまりとした庭が全容を現した。


「わ~! なかなかいいじゃない! この庭でバーベキューとかも出来そうよ~!」


 庭でくるくると回り踊るカーヤはとても楽しそうだ。

 しかしリリアの様子が何かおかしい。

 門の外からこちらに入ってこようとしないのだ。


「どうした? この物件気に入らなかったか?」


「い、いえ……とても素敵なお屋敷だと思います。……けど、何か鳥肌のようなものが……」


 リリアは両腕を擦りながらぷるぷるとしている。


 確かに今夜は少し肌寒い。

 俺の未来予知には何も映らなかったが、何かあるのだろうか。

 俺は少し注意を払いながら、洋館の入口へと足を進めた。




「よし、開けるぞ」


「もったいぶらないで早く開けなさいよ!」


 俺の横でそう急かすカーヤだったが、俺はリリアの様子を見て少しビビっていた。

 ゆっくりと鍵を回しドアを開けると、そこには綺麗な絨毯が敷かれ、入り口の脇には花瓶に花が添えられていた。

 両脇には二つの廊下が横に繋がっており、それぞれ扉が3つずつの合計6部屋あるようだ。


「な、なんだ。綺麗な建物じゃないか」


 俺が安心したその直後だった。



――パリィン!



「な、なによ!」


「きゃあ!」


 入り口の脇にあった花瓶が急に割れ、中の一輪の花と水が床に散乱した。


「きょ、京谷気を付けなさいよ! 危ないでしょ!」


「い、いや俺じゃねぇよ! リリアか!?」


「わ、私でもありませんよ!」


 俺は再び未来予知をしたが、何も映らない。

 俺とリリアは恐る恐る洋館の廊下を右に進み、最初の部屋へとやってきた。


 カーヤは少し平気そうにズカズカと奥へと入っていった。



 ここはキッチンだろうか、明かりをつけ確認しようと手前のスイッチに手を伸ばす。



――カチッ



「あれ? 壊れてるのか?」


「ちょっと~。見えないわよ。早く電気つけなさい」


 カーヤが真っ暗の部屋の中で手探りで進む中、俺は確かに押したはずのスイッチを何回か押した。

 しかし電気が付く気配は一向にしなかった。


「カーヤ! スイッチが壊れてる。電気がつかん」


「え~!? あのおっさんに文句言ってやる!」


 カーヤが振り向きながらそう言った瞬間、厨房の壁にかかっていたフライパンが宙を舞い、カーヤの後頭部に向かって飛んできた。


「カーヤ危ない!」



――ガイィン! ガランガラン……



 俺は咄嗟に短剣を投擲でフライパン目掛けて投げると、命中したフライパンは床に大きな音を立てながら落ちた。


「な、なによこれ! どういうこと!?」


「わからん! フライパンが急にカーヤの方へ飛んでいったんだ!」


「こ、怖いです~!」


 リリアはしゃがみ込み、目を閉じ耳を手で蓋をしてしまった。

 俺たちがビビっていると、厨房の様々な器具が動きはじめ、俺たちの方へ向かって勢いよく飛んできた。



「「「ギイイィィヤァァァァァ!」」」



 俺たち三人は大絶叫を上げながら部屋を大急ぎで出るや否や、出口へと猛ダッシュした。



――バタァン!



「はぁ、はぁ……一体何だったんだ今のは!?」


「わかんないわよ! 誰か魔法使いでもいるっていうの!?」


「や、やっぱりこの館何か変です~!」



 洋館の入り口を閉め、扉の前で息を切らす。

 俺たちは何が起こったのか全く理解できず、庭の中で呆然としていた。


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