物件選び

第25話 物件選び

「優勝おめでとうございます。こちら賞金の10万ペリスでございます」


 受付でたんまりとお金の入った茶色い袋を手に持つと、その重さに俺は思わずよろめいた。


「や、やったわね京谷! あたしたち大金持ちよ!」


「これで豪邸が買えるのでしょうか!?」


「お、おい大声でやめろ」


 大金を前に大はしゃぎする二人は、俺が制止しても全く聞く耳を持たなかった。

 この金で豪邸を買えるのはこの世界の相場次第といったところだ。

 一度不動産屋に行ってみるのも悪くはないだろう。


 俺たちはデカい袋を大事に抱えながらリヴァイアサンの水上ロデオ闘技場を後にした。



▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



「えぇぇぇぇぇぇ!? 足りないのぉぉぉ!?」


 俺たちは夜になった街を、その足で物件販売をしてる店にやって来ていた。

 店に入り豪邸の値段を聞くや否や、カーヤが店の中で大声を上げた。


「おいカーヤうるさいぞ。豪邸なんだ、そんなに安くは買えないだろう」


「だ、だってぇ! 10万よ!? 10万ペリスもあたしたち持ってるのよ!? なんでそれで足りないっていうのよ~!」


 机をバンバンと叩くカーヤだったが、カーヤが今欲している物件は大きな庭付きの二階建てでそれはさぞ豪華な建物だった。

 なんと庭には池までついている代物だ。



「お、お嬢様、大変申し訳ございません。こちらの物件は大変人気でございまして、価格が高騰しております。もしよろしければですが、こちらの物件でしたらご予算にあうかと……」


 小太りの禿げたおっさんは、指で魔法陣から映し出されているモニターの中の一つを紹介した。


「こちらでしたらご家族三人でも快適に暮らせるかと……」


「だ、誰がご家族三人よ! 違うわ!」


 カーヤは顔を赤くしながら禿げ頭に平手打ちを決めツッコんでいた。


 一方でリリアはなぜか子供用コーナーに案内され、オオカミ人間のぬいぐるみを持たされていた。


「ほ~らお嬢ちゃん、オオカミはお好き? あたしは大好きよ!」



――アオーーン!



 そう雄たけびを上げながら子供をあやすように案内しているのは獣人のお姉さんだった。

 種族はオオカミのように見える。


「私別に子供じゃないんですけど……」


 リリアは不貞腐れながらそう言っていたが、俺もツッコみ始めるとキリがないのであちらはお姉さんに任せておくことにした。



「どれどれ……」


 俺はおっさんに紹介された物件を見てみると、そこそこ広めで小さな庭もついている。

 残念ながら平屋だが、俺たち三人が別々の部屋を持てるだけの数もある。

 そして住宅街とは少し離れた場所で、周りに建物も少なく快適そうな場所だった。


「なかなかいいんじゃないか? 値段も98000ぺリスだ。丁度足りるじゃないか」


 同じ価格帯の他の物件よりも見た目が良く、まるで調整されたかのようにピッタリの価格のそれは、今の俺たちに最適のように見えた。


「なんでよ~! あたしは豪邸がいいの! 三階建てで庭に噴水も欲しいの!」


「アホか!? いくらかかると思ってんだ! 最初の噴水無いバージョンでも70万ペリスだぞ!」


 カーヤの飛びぬけた理想に俺は驚愕した。

 もし噴水付きで三階建てになんてなったら一体いくらになってしまうのだろうか。



「あ、それでしたらこちらの物件がおすすめで……」


 俺の心を読んだかのようにおっさんが嬉しそうに示す物件は、300万ペリスとの表記がされていた。


「お前も乗るな! そんな金ねぇわ! その98000ペリスのでいいから、案内してくれ!」


「か、かしこまりました~!」


 おっさんはそそくさと馬車の手配を始めるが、カーヤはいまだに納得いっていない様子だった。




「京谷さん、決まりましたか?」


 なぜか獣化したリリアが疲れた様子で、ヨロヨロとこちらへと歩み寄ってきた。

 リリアは会話しているうちに自分が獣化できるということを話してしまい、オオカミお姉さんにもみくちゃにされていたらしい。



「あ、あぁ。今物件を見に行くところだ。なかなかいい所だと思うz――」


「リリアちゃ~ん! もっとこっちで遊びましょ~!」


 俺が言い終わる前に、オオカミお姉さんがリリアにタックルして抱きしめてきた。

 俺はモフモフと撫でまわされるリリアが助けを求めるのを諦め見守る中、馬車の用意が終わるのを待った。


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