第44話 今までありがとう、魔女見習いの私

 マリーの魔法でヒカリとシホは、呪いの魔女の館から会社に戻ってきた。


「ヒカリ!」


 エドが慌てた様子で、机の上の書類を崩しながらも駆け寄ってくる。すると、ROSEの皆がヒカリ・シホ・マリーの前にすぐに集まった。そして、ヒカリとシホは笑顔でお互いの顔を見合わせる。


「ふふふ! せーの! 私たち、魔女になれましたー!」


 ヒカリとシホは満面の笑みを浮かべながら、元気よく伝えた。すると、エドは勢いよくヒカリに抱きついてきた。


「やったー! おめでとう! よかったー! っていうか、シホもなのー?」


 ROSEの皆が喜んだ様子で騒ぎ出した。


「よかった! 本当によかった!」


 エドはヒカリを抱きしめながら嬉しそうな口調で言う。


「エドのおかげだよ」


 ヒカリは優しくそう言った。


「とにかく……よかった!」


 エドはそう言って泣きながらヒカリを抱きしめる。すごく心配していたのだろう。安心させられて本当に良かったとヒカリは思った。


「シ、シホ……。今のは……本当か?」


 リンは戸惑いながらシホに近づく。


「はい! 私もなれちゃいました!」


 シホは笑顔でリンに伝えた。すると、リンは涙を流しながらシホを抱きしめた。


「うわぁ!」


 シホはすごく驚いたようだ。


「……そっか。よかったー。よかったよお」


 リンはすごく嬉しかったのか泣きながら弱々しく言う。


「もう、リンさんが泣くと、私も涙が……」


 シホがそう言った後、シホとリンは大声で泣き始めた。シホも魔女になることができて本当によかったとヒカリは思った。




 その日の夜、魔女になったヒカリとシホのお祝いの飲み会が、寮の食堂で開かれた。


 マリーがマイクを持ってみんなの前に立つ。


「改めて! 本日、ヒカリとシホが見事、魔女になることができた! 仕事と修行の両立。そこでお互いが得たものを、評価してもらえたからだと思う。……何より、ずっと、ずっと、辛くて。……キツイのは、見ていてわかっていた。…………本当に、二人どもおめでどおおお!」


 マリーは途中から涙が溢れ出し、最終的には鼻水をたらして号泣しながら言った。そんなマリーの姿に全員が涙した。


「……今日は思いっきり楽しんでくれ!」


 マリーは涙を拭いながら言うと、手で目の辺りを押さえながら自分の席に戻っていく。よく見ると、見慣れないローブ姿の人が、マリーの席の隣に座っていた。そして、マリーが席に座ろうとした時、見慣れないローブ姿の人は、ハンカチを取り出してマリーに渡した。


「ほれ。ハンカチ」

「ありがとう……。って! なんであんたがここにいるのよ!」


 マリーが突然大声で叫んだ。その瞬間、見慣れないローブ姿の人の顔が見えた。それは、マリーが驚くのも当然の人物、呪いの魔女だった。


「げっ! 呪いの魔女! なんでここに!」


 ヒカリとシホは同時に叫んだ。


「ほっほっほっ!」


 呪いの魔女は周りの動揺も気にせず笑っていた。


「あれが呪いの魔女? 俺、初めて見た! マリーさんと同じくらい強いんでしょ? ものすごく、やばい組み合わせなんじゃ……」


 ROSEの皆も突然の呪いの魔女の登場に、動揺し始めたようだ。


「ひっひっひっ。……娘と酒飲むのに、許可がいるのかい?」


 呪いの魔女は笑みを浮かべながら言う。


「えっ! マリーさんのお母さん?」


 マリーと呪いの魔女以外の全員が、口を揃えたように発言した。


「あぁ。…………めっちゃウザいけど」


 マリーは浮かない顔をしていた。


「ひっひっひっ! 親っていうのはそういう生き物さ」


 呪いの魔女は笑いながら言った。


「血筋ってやべえな……。親子で最強と最凶の魔女かよ」


 ケンタは驚きながらつぶやいた。


「……それで、本当は何かあるんだろう?」


 マリーは呪いの魔女に問いかける。


「たまには、娘と酒飲もうってだけじゃ、不満なのかい? ……ひっひっひっ。……まぁいい。たしかに、一つ用事があるからね。…………ヒカリに『ふた』を与える」


 呪いの魔女がそう言うと会場がどよめきだした。


「は! 『二つ名』だと! ヒカリは、まだ魔女になったばかりだぞ!」


 マリーは呪いの魔女に言い放つ。


「ねぇ、エド。『ふたつな』って何?」


 ヒカリは皆が騒いでいる『ふたつな』が何なのかわからなかった。


「『二つ名』っていうのは、魔法界で認められた魔法使いだけが、名乗ることができる名称で、呪いの魔女や鬼の魔女がそれにあたるんだ! とにかく、すごい魔法使いしかもらえないもので……。えっと、だから……。と、とにかく、すごいものなんだよ! ……っていうか、俺も欲しいのに」


 エドは興奮しながら言った後、少しうらやましそうな表情をした。


「そんなにすごいものなんだ! ……でも、なんで私が?」


 ヒカリは首を傾げながら呪いの魔女を見た。


「ひっひっひっ! なんだい、全然気づいていなかったのかい? あの子の力を。……あの子は、二つ名を与えられるだけの力があるってことだよ」


 呪いの魔女はマリーに向かって言った。


「……まさか」


 マリーは理解できていない様子だった。


「ヒカリ、こっちへおいで」


 呪いの魔女はヒカリを見ると手招きをした。ヒカリは呪いの魔女の隣に移動した。


「魔女『ヒカリ』。あんたに魔法界の二つ名を与える。……その名は、『天認てんにんの魔女』!」


 呪いの魔女は力強く言った。すると、再び会場がどよめきだした。だが、ヒカリは『てんにん』と言われて意味がわからなかった。


「天認だとー!」


 ROSEの皆は天認と聞き、すごく驚いていた。


「まさか、そこまで!」


 マリーもすごく動揺しているようだ。


「『てんにん』って、そんなにすごいんですか?」


 シホがリンに質問していたので、ヒカリは耳を傾けた。


「すごいってもんじゃない! かつての伝説の魔法使いに付けられていた二つ名だ! 天空の『天』に、認めるという字の『認』で『天認』だ……。まじかよ……」


 リンは興奮した様子でシホに説明した。


「この子の力は、この世界にある全てのものと対話ができ、力を貸してもらえる力だ。……いざ、魔法を使う時には、己の体は金色の光をまとい、周囲に金色の光を放って、全てのものを味方にすることができる。……まさに、天が認めた魔法使いそのものなのさ。……ヒカリ、言ってる通りだろう?」


 呪いの魔女は力強く説明した後、ヒカリに問いかけた。


「……はい」


 ヒカリは少し驚きながら返事をする。


「……そうだったのか」


 マリーはヒカリの顔を見て驚いた様子でそう言った。


「二つ名は、名誉あるものだ。誇りに思っていいよ」


 呪いの魔女は少し笑みを浮かべながら言った。


「……はい! ありがとうございます!」


 ヒカリは呪いの魔女に深々と頭を下げた。


「すげー! ヒカリ! 天認かよ! やばすぎだろ!」


 ROSEの皆が祝福している声が聞こえた。すると、会場はそのまま飲み会の雰囲気に移っていく。それから、ヒカリは呪いの魔女とマリーの様子が気になり、こっそり見ていた。


「さて、邪魔したね。用が済んだから帰るとするか」


 呪いの魔女は帰ろうとしてゆっくりと席を立った。


「ほら」


 マリーは呪いの魔女にグラスを渡した。すると、呪いの魔女は少し驚いた様子でマリーを見る。


「せっかくだ。飲んでいけばいい」


 マリーは真剣な表情でそう言った。


「ほう。気が利くようになったじゃないかい」


 呪いの魔女は再び椅子に座り、マリーからお酒を注いでもらう。


「これでも、社長だから」


 マリーはお酒を注ぎながら言う。


「……ふふふ。……あれから、どこに行ったのかと思えば、こんな会社を作っていたなんてね」


 呪いの魔女は少し笑みを浮かべながら言った。


「あの時、母さんの言ったことが、今では理解できるようになった。…………悔しいけどね!」


 マリーは言い終わると、笑顔を浮かべながら呪いの魔女のグラスに、自分のグラスをコツンとあてた。すると、呪いの魔女は嬉しそうな表情を少しだけ見せた。


「それと……。そのババア姿はどうにかなんねえのか? そういうキャラ作りの為か?」


 マリーはお酒を飲みながら呪いの魔女に問いかける。ヒカリはどういうことなのか気になった。


「あら。こっちの方がいいかしら?」


 呪いの魔女は、突然お婆さんの姿から若い女性の姿に変わった。ヒカリはすごく驚いた。ローブで顔がよく見えなかったものの、魔女修行の時にすごくお世話になったシェリーの姿だとわかったからだ。そういうことだったのか。呪いの魔女は、シェリーの姿でずっと見守ってくれていたのか。ヒカリはそれが分かると心の中がスッキリした。


「そっちがいい。……できれば親には、若々しくいてほしいもんだからね」


 マリーはシェリーにそう言った。


「ふふふ」


 シェリーは優しい表情を浮かべて笑っていた。ヒカリはこれ以上の覗き見はよくないと思い、やめることにした。本当はシェリーに話したいことがたくさんある。だけども、こんな親子の間に割り込むほど自分は無神経ではない。いつか話す機会があれば、その時に伝えよう。たくさんの気づきをくれた感謝の気持ちを。


 その時、ヒカリはあることを思い出し、歩き出した。


「ヒカリ! 早くこっちこいよ!」


 エドが元気よくヒカリを呼びかけた。


「ちょっと、ごめん! トイレ行ってくる!」


 ヒカリはそう言って外に出た。そして、食堂の壁にもたれながら座りこみ、スマートフォンを取り出して電話をかける。


「あ! もしもし!」


 ヒカリは電話先の相手に話しかけた。


「お! 自分から電話してきたなー! 偉い! 偉い!」


 フミは元気よく電話に出た。


「ふふ。…………フミ! 私、魔女になれたよ!」


 ヒカリは少し笑った後、笑顔で元気よくそう言った。


「ほ、本当に! ……よかったー!」


 フミは嬉しそうに喜んでいるようだ。


「うん! それだけ」


 ヒカリはそう言った。


「いいんだよ。それだけでも。連絡くれたことも嬉しいんだから。……本当によく頑張りました」


 フミは優しい口調で言った。


「ありがとう。なんかね、自分の中にあったいろんな後ろ向きな気持ちが、全部なくなってスッキリしたよ! ……やっぱ、魔女を目指してよかった! ふふふ!」


 ヒカリは話しながら嬉しい気持ちが溢れ出してきた。


「……そっかー。……こんなに幸せそうな声、初めて聞いたよ。……よかった。……ごめん! 今、お客さんが多いからまた後でかけ直す!」


 フミは慌ててそう言った。


「急にごめんね! ありがとう!」


 ヒカリは忙しい中、電話をとってくれたお礼を言う。


「それじゃ、またね」

「うん。また」


 ヒカリはフミとの電話を切った。


 それから、ヒカリは夜空を見上げた。雲一つなく星が見える夜空。月の光で照らされる錦江湾。賑やかな仲間たちの声。ヒカリはゆっくりと目を閉じる。


「やっと、夢が叶った……。……でも、今はまだ夢の始まり。……これからやっと、夢見た人生を送れるんだ。……やりたいことだって、たっくさんあるんだから。……本当に、いろいろあったけど、頑張って生きてきた」


 ヒカリは言い終わると、目を閉じたまま深呼吸をする。そして、ヒカリはしっかりと目を開く。


「今までありがとう、魔女見習いの私。……これからよろしくね、魔女になった私」


 ヒカリが夢に描いた人生は、ここから始まる。

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