第43話 二人の魔女
ヒカリとリカは魔界樹の森から大広間に帰ってきた。
「……戻ってきた」
リカは安心した様子で言った。
「ヒカリ!」
「リカ!」
ヒカリは声のする方を向くと、マリーともう一人魔女が駆け寄ってくるのがわかった。駆け寄ったマリーは、すぐにヒカリを優しく抱きしめた。
「ヒカリ。大丈夫か?」
マリーはすごく心配したような口調で言った。
「…………はぁ。……ギリギリ」
ヒカリは頑張って笑顔で返事をすると、マリーはヒカリの笑顔に安心したようだった。
「最終試験を終えた二人に、一人ずつ魔女試験の結果を伝えるかの……」
呪いの魔女はそう言った。
「まずは、あんたから」
呪いの魔女はあぐらをかいて座っているリカを指差した。
「魔女見習い『リカ』。あんたの魔女試験の結果は…………不合格」
呪いの魔女はリカに結果を告げた。リカは落ち込む様子もなく、機嫌が悪そうな感じだった。
「ほっほっほ。なぜ不合格なのかは理解しているようじゃの」
呪いの魔女は笑いながら言った。
「そんなのわかってるわよ!」
リカは呪いの魔女に怒った様子で言い放つ。
「どうせ理由など言うつもりはないけどね。ひっひっひっ!」
呪いの魔女は少し楽しんでいるようにも見えた。
すると、呪いの魔女は座り込んでいるヒカリの方を向いた。
「次は、あんたね」
呪いの魔女がそう言うと周りの空気が一瞬で重たくなった感じがした。
「魔女見習い『ヒカリ』。あんたの魔女試験の結果は……………………」
呪いの魔女は真剣な表情でヒカリを見つめた。ヒカリはいよいよだと思い緊張して、急に呼吸ができなくなった。すると、呪いの魔女は突然見たこともないほどの優しい笑みを浮かべた。
「『合格』だよ」
ヒカリはその言葉に驚いた。
「や、やったわね! ヒカリ!」
マリーは嬉しそうにはしゃいだ。
「へへ。なんだろう。よくわかんなくて…………。えっと……。あーもう、なんだろう……。……涙しか出ないです」
ヒカリは座ったまま天井を見上げ、こわばった表情で涙を流し始めた。自分が魔女試験に合格したという事実がまだよく理解できない。すると、しだいに合格したという事実が理解できてきて、急に体が震えだした。
「…………うぅ。……やったあ。……合格できたよお」
ヒカリは天井を見上げたまま号泣した。マリーはそんなヒカリを優しく抱きしめる。
「本当によく頑張った……。これはね、本当にすごいことなんだよ。ヒカリ……」
マリーも震えながら言った。それからヒカリはしばらくの間、泣き続けた。ずっと長い間、魔女試験合格だけを目標に過ごしてきた。自分が掲げた目標を達成できた喜びは言葉にならない程、大きかった。
「合格者はこっちへおいで。あんたはもう帰りな」
呪いの魔女はヒカリに対して近くに来るよう言い、リカに対しては帰るように言った。すると、リカは体が痛いのか、少し震えながらゆっくりとヒカリの方へ歩いてくる。そして、リカはヒカリのそばにしゃがみ込んだ。
「……ヒカリのおかげで助かったし、自分に足りないものもわかった。……この恩は、いつか必ず返す」
リカはヒカリの目を見て真剣な表情で言った。
「そっか。……うん! 楽しみにしてるね!」
ヒカリは笑顔でそう言った。
「それじゃ、またね! いててて!」
リカはゆっくりと立ち上がろうとしながら言うが、体の痛みが原因なのかよろけてしまう。すると、突然リカの師匠が現れ、よろけたリカを支えた。リカの師匠は、リカと同じ暗い紫色の帽子とローブ、白のワンピースに茶色いブーツを身につけた長い金髪の女性だった。
「ティファ!」
リカは師匠を見てそう言った。すると、リカの師匠がヒカリを見て笑みを浮かべる。
「私はティファ、この子に魔法を教えている魔女よ。この子を助けてくれて、本当にありがとう。魔女試験を合格するなんて、さすがはマリーの弟子ね! ふふ」
ティファは笑顔でそう言った。
「マリーも元気そうでよかったわ」
ティファはマリーに視線を移して言う。
「あぁ。ティファも元気そうで何より」
マリーは少し笑みを浮かべながら言った。
「……それじゃ、私たちはもう帰らなきゃね」
ティファはリカの顔を覗き込む。
「あの! えっと! …………ほ、本当にありがとう! 落ち着いたら、あんたのとこに遊びに行くから!」
リカは少し照れながらも笑顔でそう言った。その後、リカとティファは去っていった。
「いい友達ができたね」
マリーは落ち着いた口調で言った。
「はい。すごくいい子です。もしかすると、あの子のおかげで、試験を合格できたのかもしれないです」
ヒカリは真剣な表情で言った。
「よーし!」
ヒカリは元気よくそう言うと、どうにか頑張って立ち上がった。
「大丈夫か?」
マリーは心配していた。
「あと少しだから頑張ります!」
ヒカリは元気よく笑顔でそう言い、呪いの魔女のもとへとゆっくり歩き出す。そして、呪いの魔女の目の前に立った。
「魔女見習い『ヒカリ』! 魔女見習いとしての期間、困難な修行や試験を乗り越え、魔女に必要なものを全て持っていると判断し、あんたを魔女にする! 覚悟はできてるかい? ……なんて、聞かない」
呪いの魔女はそれを言い終わると、ヒカリの胸の位置にある魔女玉に人差し指で触れ、そのままヒカリの胸の中まで押し込んだ。押し込む際中、綺麗な白い光が放たれた。そして、光が消えると魔女玉も無くなっていた。
「おめでとう。これであんたは魔女さ」
呪いの魔女は笑みを浮かべながら言った。
「……魔女になったんだ。私」
ヒカリはついに魔女になることができた。ずっと、なりたかった魔女になれた。夢が叶うってこんな気持ちなのか。思っていたよりも実感がない。ただ、たどり着いた達成感だけが、じわじわと溢れ出してくる。すると、喜びの気持ちが高まり自然と笑顔に変わっていく。そして、夢が叶った今思うことは、結局この一つだけだった。頑張ってきて本当に良かったと。ヒカリはマリーのもとへとゆっくり歩いていく。
「さて…………」
呪いの魔女は何かを話し始めた。
「マリー! あんたのとこの前回落ちた魔女見習いを、ここに呼びな!」
呪いの魔女はマリーにそう言った。
「……はいはい。そういうことね。……わかったよ」
マリーは何かを察してか素直に返事をし、何かの魔法を発動させる。すると突然、目の前にシホが現れた。
「こちらの用紙にお名前と連絡先を……。って、あれー! ここどこ?」
シホは会社の制服姿で、手にはペンと受付の用紙を持っていた。おそらく、接客中だったようだ。すると、シホは呪いの魔女を見つけて驚く。
「ぎゃああああ! 呪いの魔女ー!」
シホは大声で叫んだ。
「そんなに驚くんじゃないよ」
呪いの魔女はそう言った。
「あ! マリーさんとヒカリちゃん! ってことは、ここは呪いの魔女の館ですか?」
シホは少しずつ頭の中を整理しているようだった。すると、シホはヒカリの顔を見て、何かを思い出したかのように、心配そうな表情になった。ヒカリは、シホが魔女試験の結果を心配しているのだと察した。
「シホさん! 私、魔女になれました!」
ヒカリはシホに元気よく言った。
「ほ、ほ、本当にー? よかったー!」
シホはすごく驚いた様子を見せた後、嬉しそうな表情のまま力が抜けたのか、その場に座り込んだ。
「シホ! 呪いの魔女はあんたに用があるんだとさ!」
マリーはシホに向かってそう言った。
「えっ! 私に?」
シホは驚きながら呪いの魔女を見る。
「元気にしてたかい? 魔女見習い『シホ』」
呪いの魔女はそう言った。
「えぇ。……まぁ」
シホは少し構えながら言う。
「実はね、あんたは前回合格にしてもよかったんだ」
呪いの魔女はそう言った。
「えっ!」
シホは驚いた様子で言った。
「だけどあの時、あんたには迷いがあったね。……そんな状態じゃ、魔女にしたくなかった。だから不合格にした。……でも、もうその迷いは無くなっているみたいだから、あんたが望むなら魔女にしてやるけど、どうする?」
呪いの魔女は問いかける。
「えっ…………。でも、今さら、魔女になんて……。都合が良すぎかなって……」
シホは下を向いて言う。
「シホ!」
マリーは大声で叫んだ。
「はいっ!」
シホは驚きながら元気よく返事をした。
「……あんたの夢なんでしょ? 魔女になるのは。……本当になりたいものなんだから、遠慮なんてするもんじゃないよ」
マリーは優しい表情を浮かべて言った。すると、シホは少し考えているような表情を見せた後、勢いよく立ち上がり呪いの魔女を見つめた。
「私を魔女にしてください!」
シホは深く頭を下げて力強く言った。ヒカリはシホが素直に魔女になることを望んだので、すごく嬉しかった。
「魔女玉は胸のところにあるようだね」
呪いの魔女はつぶやいた。
「えっ! いつの間に!」
シホは自分が魔女玉を持っていることに驚いている様子だった。どう考えてもマリーがやったとしか思えないので、ヒカリはすぐに納得した。
そして、呪いの魔女はヒカリの時と同様にシホの胸に魔女玉を押し込む。すると、しばらく白い光が放たれた後、徐々に光がおさまっていった。
「あんたもこれで魔女さ。ひっひっひっ! これにて魔女試験を終了する!」
呪いの魔女は大声で力強く言い、長かった魔女試験が終了した。
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