第23話
体育館のライブが終わったからか、それとも花火の賑わいを聞きつけてか、殆どの生徒がグラウンドに集まっていた。
時間的にも、そろそろお開きにする頃合いだけど、定時制の文化祭は体育祭のように閉会式があるわけでもないので、誰か先生が適当な挨拶をして終わりだと思っていた。
ところが朝礼台に宮ちゃんが立ち、閉会式が始まった。
品行方正、堅物と言われる生徒会長だから、多分、形通りだけど隙の無い挨拶になるだろうと思って朝礼台を見つめる。
緊張しているのだろうか、グラウンドを見渡した宮ちゃんは大きく息を吸った。
「みなさん、夜の文化祭は楽しめましたかー?」
え?
開口一番、宮ちゃんは元気な声でそう言った。
返事を促すようにグラウンドにマイクを向けると、「はーい!」、「イェーイ!」といった声が上がった。
「初めての合同文化祭、みんなのお陰で大成功だけど、来年もやりたいですかー?」
「おー!」
「やるー」
まるで、コンサート会場のように一瞬でグラウンドの生徒達と宮ちゃんが一体になる。
よく通る声と、人目を引く身振り手振り、普段の真面目さとのギャップ。
さすが、全校生徒の信任を得て生徒会長になった人は違うなと感心する。
単なるお飾りで生徒会長になった僕とは大違いだ。
「私達は三年生だからこれが最後だけど──」
そう、僕はまだ一年残っているが、彼女達にとっては高校最後の文化祭だ。
よっぽど慕われていたのだろう、しんみりした空気になるけれど、宮ちゃんは熱く語りかけていく。
記念すべき第一回の合同文化祭に立ち会えたこと、来年以降、この行事を残る一年生、二年生が作り伝えていき、やがては歴史と伝統になっていくこと、そしてそれは、文化祭だけでなく、全日制と定時制が同じ学校の生徒として、共に学び、共に成長していく校風を育むことを訴えかける。
僕の目は、宮ちゃんの姿に釘付けになった。
彼女のどこか切実な口調は、聞き入る僕らの中で共鳴するみたいに胸に響く。
そんな願いを、恰もずっと抱いてきたかのような感覚、そして今この瞬間に、悲願を達成したことを喜び合いたいような思いにさせる。
擦れ違うだけだった僕達は、同じ時間に同じ場所に立ち、同じ言葉を共有していた。
昼と夜のあいだには、お互いを分かつ隔たりなど何も無く、確かに繋がっているのだと。
壇上の宮ちゃんと目が合った。
頷いたように見えたので、僕も頷き返す。
彼女の気遣いや配慮、その行動力には、感謝してもしきれない。
「では最後に、今回の合同文化祭の企画立案者である、定時制生徒会長の石上さんからご挨拶を」
──は?
いや、頷いたのって、そういうこと!?
拍手が湧き起こる。
僕は宮ちゃんを凄い人だと思ったけど、凄い策士の間違いではないか?
思わず宮ちゃんを睨んでしまうが、品行方正な笑みが返ってきた。
助けを求めるように志保の方を見ると、何やら期待に満ちた目を僕に向けている。
退路は完全に塞がれていた。
僕は仕方なく宮ちゃんからマイクを受け取り、ゆっくりと朝礼台に上がった。
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