ボシカテイ

僕らはあてもなく

夜の住宅街を歩いた。

ぽつりぽつりと規則的に

並んでいる街灯には

光を求めて虫たちが群がっている。


特に話すこともないのだけれど

黙っていると夜の闇に

のみ込まれてしまいそうな気がして

僕が何か喋ろうとしたとき、

彼女が突然口を開いた。


「私の家ってさ、ボシカテイなの」


ボシカテイ??

母子家庭という言葉は知っていたけれど

彼女の発した言葉と

僕の知っている母子家庭が

うまく繋がらなくて

まるで違う国の言葉みたいに聞こえる。


だって、普段の彼女は底抜けに明るくて

僕が大事にとっていた給食の牛乳を横取りしたり

クラスのいじめっ子に食ってかかったり、

なんというか、その、

全然深刻な感じには見えないのだ。


確か母親とも仲良しで

週末に一緒にパンを作ったとか

洋服を買いに行ったとか

クラスで話しているのを聞いた事がある。


テレビドラマなんかで見る

母子家庭の親子は決まって暗い顔をしていて、

普段学校で見る元気はつらつとした彼女の姿と

この母子家庭という言葉は

あまりにかけ離れている感じがした。


どうして彼女が急に

こんな事を言い出したのか、

どんな言葉をかけて欲しいのか

僕は全然わからなくて黙り込んでしまった。


彼女と僕の足音だけが聞こえる。

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家出 @Moeko116

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