自然の摂理 -後編-
地球は石により構成されている。土中から流出した
生き物たちは
○
この土地のヒトもまさしく森の育む生き物の一つであった。
独自の飾りを持たないという意味では、彼らはセドミネの一族よりも原始的な暮らしを営む。セドミネの住む世界では、森の民たちは互いに争わないように干渉しない掟であった。
しかし、彼らとは言葉も通じないし、初めて顔を合わせた時には威嚇されて追い払われたものである。
それから十数年後…。
「良いか!集落を堅固にするには、もっと木が必要だ」
セドミネは臣下たちに号令を下していた。森のあちこちから煙が昇っているのが見え、いくつもの集落が誕生している。
原始的だった彼らは
それは
しかし、飢えてしまっては巫女の祈りなど助けにはならない。
セドミネはそれを一つの不幸だと感じた。
「奴らは森で暮らす知恵を失ってしまった。だから、作物を育てなければ民は飢えてしまう。飢えれば他の民族から食べ物や土地を奪いに行くのだ」
「我々の王よ…」
そこに居たのはドラと跡継ぎのアラフネであった。
「愛する者達よ。いつか一族の復興を叶えるために、ここにイドたちを呼び寄せたいと思っている」
「嬉しいわ、でもイドたちは喜ぶかしら?」
その言葉にセドミネは曖昧な表情を浮かべて頷く。
確かに、かつて一族を復興させようとした彼はいない。しかし、もはや歴史は後戻りしないのだ。
オンベコや他の国主たちは強大な王国を築くであろう。強い戦士たちを育て、多くの実りを手に入れ、生み増やされた子たちはさらに王国を強くする。それに追いつかなければセドミネの王国も滅びの時を待つだけだ。
幼いアラフネに民たちを統べる技を授けるのはセドミネの使命である。より強い王となって、築き上げた王国を繁栄させるのだ。
しかし、ようやく少しの恵をもたらした稲をセドミネは冷たい目で見る。それに比べ、未だに狩猟に赴くときは生命力の満ち溢れた顔になるのだった。
そんなある日…、
星の煌めくころ、セドミネが寝ていると藁ぶきの屋根が外側から擦られるような音が聞こえる。
「なんだ…?」
焦って外に出てみるが、誰の姿も見えない。強い風が吹いただけかと思ったセドミネは床に戻ろうとする。
「ヒトならざる人の王よ」深淵から声は響いた。
「だ、誰だ!!」
セドミネは大声で怒鳴ったが、それは宙に霧散して消えた。すると、闇夜を照らすように神々しく巨大な鳥は降り立った。不思議とそれに恐怖を抱くことはなかった。
「問われればバヌスと名乗ろう。森にて太古よりヌシらと
「バヌスという名に覚えないゆえ、悪霊の類でもかまわず聞くが、それは強き国造りの作法か?」
「否」
「ならば鉄を生み出す技か?」
「否」
「ならばいかなる
「
「ワシは誰にも負けない王国を築くのだ。それこそが生きてゆく道であるぞ」
「ヒトとは因果ゆえに愚かだ。ヌシの目にも映るはず、この魂たちの美しい輝きを見よ。森にはヌシの先祖たちもおる。あまねく衆生の生き物たちはワレの中で一つとなる!」
ひときわ美しく巨大な鳥の羽は
「最初に海ありけり、よって森は生まれる。されど、ヒトは別の世界を創造しようとしておる。それは
バヌスの顔には我が子をあやすような慈悲を感じる。
「いいや断る!世の無常を嘆くよりも人の摂理を知らねばならんのだ。ワシは万世に一族を残すことが使命ならばこそ、敵と戦い抜くのだぞ!」
セドミネの目には燃え上がるような意志を感じる。その言葉に巨大な鳥も無言となって、彼に説くはずであった
「…ふふふ。それこそが衆生の真理だ。ヌシらの歩みを止める術など元よりない」
バヌスムは最後にセドミネを一睨みして、大空へ羽を伸ばして飛び立った。
この世は無常であり、それは人が自然の摂理を越えた瞬間であった。
(了)
森の民 葦池昂暁 @ashiike
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