第27話 エピローグ

その後、ラフェストラ帝国は旧メリケイン王国領を併呑した。正確には東側の四割だけだが。南の国境を含む二割はセントウル王国が、王都テネシアを含む西側四割は西の大国ギョフノルド帝国が獲った。


そんなラフェストラ帝国もメリケイン王国攻めで疲弊しすぎたため、さらに東の国から攻めこまれあっさりと滅亡してしまった。なお、帝国の逃亡兵や避難民の多くは西へと逃げたのだが、旧メリケイン王国領で怪死する事件が多発した。


誰かが炎姫の呪いだ、祟りだと言っていたが信じる者はいなかった。負けた国の民が辿る道など似たようなものだからである。


ホプキンス侯爵は追っ手の来ない巨大な山、ムリーマ山脈へと落ち延びることには成功した。それなりに多くの生存兵や民も一緒である。しかし、追っ手が来ないのも当然なほど危険な山である。襲いくる魔物のために一年もしないうちに生存者は一割を切ってしまった。他国に捕まり、奴隷として生かされるよりはマシな死に方だったのかも知れない。


元メリケイン王国将軍ナイトハルト家のカルノは帝国内で捨て扶持を与えられ半ば飼い殺しとなっていた。ともに王国を裏切った部下も散り散りとなり週に一度、娼館に行くことだけを楽しみに生きていた。

そんなある日、朝になっても娼婦の部屋から出てこないカルノ。それならそれで延長料金を取ればいいと放置していたが、夕方になっても出てこない。客はともかく娼婦まで出てこないのはおかしい。楼主が立ち入ってみると、両目を深々と針で貫かれ絶命している客の姿があった。娼婦の姿は見当たらない。犯人は新入りのその女に間違いないが、娼婦が客を殺したなどと知られては娼館が潰れる。

楼主は懇意にしている役人に多額の金を払いもみ消しを依頼した。役人は役人で無駄飯食いの役立たずが処分できたので嬉々として協力した。ただし、死体は処理するが死亡したこと自体は揉み消した。カルノに払われるはずの捨て扶持を自分の物にするためである。

そしてその娼婦の行方を追う者はいなくなった。カルノの元を離れた他の裏切り者が同様の死に方をする日も遠くないだろう。





メリケイン王国の滅亡から三年が過ぎた。旧王国領全土は西の大国ギョフノルド帝国が支配している。それでも時々、怪死事件は起こっていた。共通点は旧ラフェストラ帝国領出身であること。すでに帝国は滅亡しており訝る者は多かった。しかし被害者のほとんどが奴隷であるため本気で捜査をされることはなかった。




そして幾星霜。次々と支配者が変わりゆく領土。しかし『炎姫と剣奴』の物語は語り継がれていった。だいたいが口伝。時には本、時には演劇となって。中には二人とも生き残っており、ムリーマ山脈で仲良く暮らしている話もある。他にはバルドが大昔、大陸を統一していた巨大国家ダイヤモンドクリーク帝国の血を引くとする設定もあった。

なおラフェストラ帝国のように『帝国』と名乗る国はダイヤモンドクリーク帝国の末裔であることを自称していることを意味する。ダイヤモンドクリーク帝国の分裂、滅亡からゆうに二百年は経っている。実際にその血を引き継ぐ国なのかどうかはまず確かめようがないのだから。




戦乱の時代、似たような話はいくらでもあるが、アイリーンとバルドほどお互いを想い合っていたのかどうか。

惹かれ合うものの、結ばれることなく命を散らした二人。いや、結婚こそできなかったものの、その魂はきっと結ばれていたに違いない。


泡沫のように生まれては消える。

時代に翻弄された、悲運の物語。

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炎姫と剣奴 暮伊豆 @die-in-craze

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