約束に隠した「アイ」

鈴響聖夜

「愛」時々「哀」

「約束破ったら許さないからね!」


 何度も念を押されたから絶対に忘れられない、僕と彼女との大事な約束。それを指切りげんまんと共に心に刻み込んだ。


 それから数年経った今、あの日と同じような星空の下で彼女を待ち侘びている。


「心配しなくても、ちゃんと帰ってくるから」


 約束をした後、いつも約束を破るのは彼女の方だと思い、不安げな顔をしてしまった僕に彼女がくれた言葉。その言葉を信じて、僕はこの空の下でいつまでも君を待ち続ける。この先何十年でも。もう帰ってこないとしても。

 ふと空を見上げると、幾つもの光が流れて、僕を照らして消えていった。もしかすると今の光の中に彼女も居たのかもしれないなぁ。

 なんて思ったが、後ろから誰かに抱き着かれたせいで、そんな思考は吹き飛んでいった。


「ただいま。約束を破る天才さん」


「残念だがそれはお前なんだ」


「何言ってんの? 私は約束なんて破ったことありませーん」


 はぁと溜息をつく。彼女の久しぶりのテンションに早くも疲れてきていた。いきなり絶好調だ……チュッ


「……は?」


 彼女は僕の頬にキスをした。


「え、何その反応。傷付くわー。約束は、『私が帰ってきた時、キスをする』でしょ?」


 あれ、なんだろう。そんな約束をした記憶が……


「そんなわけあるかバカ。約束を改竄かいざんすんな」


 彼女の目は分かりやすく泳いだ。


「ソンナコト、ナイヨ……?」


「疑問形にしてもダメ」


 久しぶりに会うのに、緊張感が全くない。昔から何も変わっていなかったこの関係が愛おしく思える。一度は失いかけた彼女と居られて、とても嬉しい。


「はぁ。ちょっとこっち来い」


「はぇ?」


 彼女は今から僕がする事に気が付いただろうか。あの約束に隠した、本当の意味に。

 彼女がだんだん近付いてきて、僕らが手を伸ばせば届く距離になった時。




 僕は拳銃で彼女の胸を撃ち抜いた。




 驚く彼女に真実を伝える。


「約束は果たしたぜ。『お前の心を射抜く』って約束を」


 そして彼女は息絶えた。

 僕は彼女の携帯から警察を呼ぶ。


「人が二人……死んでいます」


 今いる場所を伝えて電話を切った後、彼女の隣に座って再び空を見上げる。ほんの少し生まれてしまった後悔を、夜の闇は奪っていってくれた。

 遠くからサイレンが聴こえてくる。




 そして僕は、自分の頭を撃ち抜いた。

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約束に隠した「アイ」 鈴響聖夜 @seiya-writer

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