第27話 『ランカー召集』

 ——『大和ノ国』の出入りが不可になってから二日後。


 運営からは何の告知もなく、プレイヤー達は困惑した状態に陥っていた。


 私も探索できそうな場所を探してみたが、NPCが多いただの街でしかなくレベルも上がらずスキルも入手できない状態に困り果てていた。


 そんな中、一つのメッセージが私の元に届く。


 ———————————————————————

【送信者:アルマ】


 ルミナちゃん。私の裁縫屋がついに完成したの!


『大和ノ国』の奥に建っているお城付近の、大通り沿いにできたからぜひ遊びに来てね。


 プレゼント準備して待ってまーす!———————————————————————



 アルマさん、ついにお店出せたんだ!


 これといってすることもなかったので、すぐにアルマさんのお店へと向かうことにした。




 ——アルマさんのお店。


 木材を中心に組み上げられた建物は、見た目こそ質素な雰囲気だったが、ある種お館とも言えるまでにどっしりとした存在感を放っていた。


 可愛いアンティークのお店っぽい雰囲気だなぁ。


 そんな風に思いながら入り口の扉を開くと、ベルの音が鳴り響く。私の来店に気付いたアルマさんは抱きつくように飛んできた。


「ルミナちゃーん! 来てくれたっ!」

「わわっ! ……アルマさんのお店素敵です。念願の出店おめでとうございます」

「うん、ありがとうね!」


 店内には色々な衣類や小物類が綺麗に展示されており、奥には試着室まで準備されていた。


 アルマさんによると、プレイヤーだけでなくNPCまで買い物が出来るようになっているらしい。


「あっ、そうだ。ルミナちゃんこっちこっち!」


 アルマさんに呼ばれて、中央のカウンターまで移動すると丁寧に包装されたものを手渡しされる。


 もしかして……これって?


 早く開けてみたい……そんな表情をしていると、アルマさんはにっこりと微笑んで答えてくれた。


「これはルミナちゃんへのプレゼントよ。開けてみて開けてみて!」


 プレゼントという言葉に高揚しつつ、包みを開けると——中には桃色をベースに白色の花柄を組み合わせた可愛らしい浴衣が入っていた。


 帯はアクセントを持たせるために、すみれの花のような薄紫色になっている。


「サイズもルミナちゃんに合わせてあるから、ぴったりのはずよ! 良かったら着てみてね」


 あまりの嬉しさに、目から雫が自然と滴り落ちる。


「ちょっ、ルミナちゃん?!」

「あっ……嬉しくて。勝手に涙が……。アルマさん本当にありがとうございますっ」

「私はルミナちゃんの味方だよって話したでしょ? これでお兄さんのハートをグッと掴んでね」


 アルマさん、本当にいい人すぎるっ……。

 私も何か手伝えることがあったら手伝いたいな。


 そう思いつつ、アルマさんに奥の試着室へと連れられ浴衣に着替えることにした。



 ***



「うわぁ。素敵! ルミナちゃんめちゃくちゃ似合ってるわ!」


 浴衣に着替え終えた私に向けて、アルマさんが鼻息を荒くしながらそう告げる。


 自分で言うのも恥ずかしいけど、確かにものすごく私に似合っていた。

 ただ———。



「ただ……胸元はちょっとだけはだけちゃうかぁ。ルミナちゃんおっきいと思ってたけど、想像以上だったわ……」


 そう言われまじまじと見られると、さすがに私も恥ずかしくなり、顔を紅くしながら、両腕で胸元を隠した。


「あまり見ないでくださ——」

 ——チリンチリンッ!


 私が話している途中で、来客を示すベルの音が鳴り響く。

 2人揃って振り向くと、そこには鎧を装備した1人の武将のような男の姿があった。


 プレイヤー?

 ううん、それともNPCかも?


 見た目では判断し辛かったが、私の抱いた疑問はすぐに解消されることとなった。


「拙者は『大和ノ国』大将軍筆頭近衛武士団の団長を務めておる、近藤と申す。ルミナ殿とやらは、其方であるか?」

「えっ、は、はいっ!」


 近藤と名乗るNPCは私を名指しすると、このエリア——『大和ノ国』の主人である大将軍が代表のプレイヤー数人に召集をかけていると話してきた。


「ルミナ殿を城まで案内するよう、我が主人より仰せつかっておるのだ。すまないが来てもらおうぞ」


 これって……クエスト?

 でもクエストのログは出てないし。

 クエストの前のイベント?!


 何やら雲行きが怪しい方向に向き始めていることに違和感を覚えながら、頭の片隅にはお兄ちゃんが話していた【エリアクエスト】の存在がチラついていた。


「分かりました。私を大将軍のところへ連れて行ってください」


 今まで立ち入ることが不可能だったお城の中に入ることができる。


 現状の打開策が見える可能性を抱きつつ、単純にお城の中を探検してみたいという気持ちがチラついていた。


 アルマさんと別れを済ませると、私は近藤さんに案内されながらお城へと向かうこととなった。



 ***



 ——お城って中はこんな風になってるんだ。


 少し薄暗く感じる廊下を歩きながら、細部までこだわって造られていることに驚きつつ、閉ざされた最も広い部屋の前まで通される。


「『大和ノ国』領主兼大将軍閣下の御前なり。大将軍筆頭近衛武士団団長、近藤参ります」

「入れ!!」


 中から野太い声が聞こえたかと思うと、襖がゆっくりと開かれる。


 ——何百人もの人が入れそうな和室。

 奥には先程の野太い声の主が座っている。

 ……頭は丁髷に、口周りには立派な武将髭が整えられており、いかにも大将軍といった風格のある人物だった。


 相対するように座っているのは、お兄ちゃんともう一人知らない猫耳に尻尾の生えたプレイヤーだった。


「ほぉ、美しいなルミナ殿よ。我が呼び掛けに応じてよう来てくれた。其方もまずは足を崩して良いので掛けてはくれぬか?」


 私はゆっくりとお兄ちゃんの隣まで移動し、準備されていた座布団の上に座る。


「ナイトロード殿、にゃん太郎殿……そしてルミナ殿。今日この場に集まってくれたこと、改めて深く感謝を述べさせてもらおう。そして我が望みを聞き入れて欲しい———」



 大将軍は冒頭でそう話すと、一方的に長々と語り始める。


 それはもう本当に長々と……。

 全校朝礼での校長先生の話が短く感じる程に。


 うう……。

 浴衣着てるし、正座してるから足痺れそう。

 ……話長くない?


 更には退屈すぎて、何度か欠伸が出そうになる。



 ——大将軍が言うには『大和ノ国』は現在大戦中。


 小国に分類される『大和ノ国』は、他の勢力全てに狙われることになってしまい、近々攻撃を受けてしまうことが分かっているらしい。


 現在の勢力ではとても迎え撃てないので、プレイヤー全員に『大和ノ国』を守る為に協力して欲しいとのことだった。


 更には大将軍の娘である姫が数日前から行方不明になっているという。

 すぐにでも探し出したいが、国は緊急事態に備えているため探すことが出来ていないらしい。




 これって……お兄ちゃんの話してた【エリアクエスト】の流れになってる?!


 隣に座るお兄ちゃんの表情もまさしく、想像通りと言わんばかりだった。



「——英気を養うため、今夜は城でご馳走を準備させよう。自慢の温泉もあるので良かったら皆で入るといい」


 今夜はお城のご馳走を食べれるんだっ!

 ……って、ううん。それより温泉を……皆で?


 隣を見ると、にゃん太郎さんが何か期待したかのような輝く瞳でで私の浴衣姿を見つめてくる。その一点は明らかに胸元に向けられていた。


 その隣でお兄ちゃんは形容し難い形相で、にゃん太郎さんを睨みつけていた。


 やばい……。

 にゃん太郎さんの目が、えちえちだっ……。

 このままじゃお兄ちゃんにコロされちゃうよ。


「あ、あの将軍様。私、温泉は遠慮しときます」


 私の辞退に、にゃん太郎さんはがくりと肩を落とし、お兄ちゃんは当然だと言うように腕組みしながら深く頷いていた。


 将軍様も自慢の温泉に入らないという選択に驚いた様子だった。

 私が代案で美しい城内を探索したいと申し出ると、じっくりと堪能するようにと許可が下りたのだった。



「それでは解散としよう。皆、明日の朝再び集まってくれ」


 最後に将軍様からそう告げられ、私たちはその場を解散したのだった。



 ***



「——なぁ、ルミナ。城内を探索するなら地下を探した方が良い。兄ちゃんも一緒に行こうか?」


 解散になると同時に、お兄ちゃんからそう話されたが、私は1人で探索することにした。


 城内の温泉……すごく気持ち良いらしいし、せっかくだからお兄ちゃんにはゆっくりして欲しいしっ。


 私はお兄ちゃんの助言通り、地下に向けての入り口を探していた。


「そうは言っても中々見当たらないよね……。どこかに分かりやすく目印があればいいんだけど……」


 独り言のように呟くと、お札がびっしりと貼られたあからさまに怪しそうな部屋が一つ見つかった。


 怪しいっ……怪しすぎるよこれ。

 ……絶対この部屋の中に何かあるよね?


 ゆっくりと襖を開くと、そこは真っ暗な四畳ほどの和室になっていた。


 机も椅子も、座布団も何も敷かれていない不気味な部屋。


 よく目を凝らすと、床に敷かれた一部分の畳にのみ異常なほどのお札が貼り付けられていた。

 その畳だけ他の部分より明らかに古びており、あえて残されていることに特別な意味を感じる。


「ここ絶対に変だよっ……。もぉ、お化けとか怖くて嫌なのにっ……」


 呪われそうな不気味さに身震いしつつ、確実に何かがあると信じ、ゆっくりと全てのお札を剥がしていく。


 呪われませんように……。

 お化け出ませんようにっ!


 お札を剥がし終えると、古びた畳は簡単に取り外せるようになっており、そこから地下へと伸びる腐りかけの木造の階段が露わになった。



 ——そう。この地下へと続く階段こそ『大和ノ国』唯一の高難易度探索ダンジョン。その入り口となっていたのだった。






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にゃん太郎さんは第1回イベントの9位の人物です!

詳細は第19話をご覧ください。

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トップランカーのお兄ちゃんと一緒に遊びたいゲーム初心者の巨乳妹は、付与術師なのに攻撃力に極振りしちゃってます! 月夜美かぐや @kaguya00tukuyomi

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