第26話 『大和ノ国』
☆今回はほのぼのだけど、尊い日常話です!
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「ルミナちゃん、あれ見て!」
『剛腕のミノタウロス』討伐後、アルマさんが指さす方向を見つめる。
そこには牛さんが座っていた椅子の両端に大きな魔法陣のようなものが、1つずつ浮かび上がっていた。
「何かの魔法っ?」
「ううん。これはワープ出来るってことだよ」
そう答えてくれるアルマさんに腕を引かれ、とりあえず左側の魔法陣へと移動してみる。
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『転移の魔法陣を感知しました』
『転移先は森と湖エリアです』
『一度足を踏み入れると、もう一つのエリアには当分移動することはできません』
『森と湖のエリアを選択しますか?』
【▶︎YES / NO】———————————————————————
どうやら、どちらか片方しか選択できないらしい。
「アルマさんどうしよう。私、お兄ちゃんがどっちにしたのか聞いてないよ」
ここで選択を間違えてしまうと、お兄ちゃんとしばらく一緒に遊べなくなってしまう。
……それだけは絶対に嫌だった。
「私は裁縫屋を『大和ノ国』で開こうと思うから、そっちに行くつもりだけど……。これってパーティーメンバーは、同じ所にしか行けないみたいね」
「えっ?!」
衝撃の事実に泣きそうになりながら、反応してしまった。
どうしよう、どうしよう……。
お兄ちゃんのことだから、色々探索するのに『森と湖』?
それとも『大和ノ国』に行くかなぁ。
熱でうなされそうなくらい悩むも、分かるはずもない。
アルマさんはそんな私を放置して、何やら操作をしていた。
——そして。
「よしルミナちゃん! 一緒に『大和ノ国』エリアに行こ!」
「えぇっ?!」
「いいからいいから!」
「だってお兄ちゃんと一緒じゃないと……」
「絶対に大丈夫だから!」
私の言い分は聞き入れてもらえず、ほぼ強制的に反対側の魔法陣の上に乗せられた。
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『転移の魔法陣を感知しました』
『転移先は大和ノ国エリアです』
『一度足を踏み入れると、もう一つのエリアには当分移動することはできません』
『大和ノ国エリアを選択しますか?』
【▶︎YES / NO】———————————————————————
「ルミナちゃんYESだよ!」
私が最後まで渋っていると、アルマさんが追い討ちをかけてきた。
悩みに悩んだ結果『大和ノ国』を選択すると、ワープが眩しく青色に輝きを放ち包まれた。
——数秒後。
眩しさに目を閉じていたが、辺りに人の賑わう声が聞こえてきたのでゆっくりと開く。
「わぁ……。和の世界だっ!」
目の前には大きく開けた中央の道に、両サイドに綺麗に立ち並ぶ様々なお店。
行き交うNPCは揃いも揃って和服を着ている。
中には鎧を纏い、馬で駆ける武士の姿もあった。
「まるで、戦国時代の城下町の風景を映し出したみたいね」
アルマさんも話の世界に見惚れながら、ボソッとそう呟いていた。
色々見て回りたいけど、それより………。
「アルマさん、さっき大和ノ国エリアで大丈夫って話してたのって———」
私がここまで話すと、途中で割り込むように別の声が聞こえてきた。
「おっ、いたいた!」
前方で夕陽に照らされながら手を振る人物が1人。
逆光でただの黒いシルエットにしか見えないが、私にはそれが誰なのか容易に判断することができた。
——私の大好きな……お兄ちゃんッ!
「お兄ちゃん、どうしてここにっ?」
さも偶然だね……的な雰囲気を装ってみたけど、一緒のエリアを選択できていたことに、ものすごくホッとしていた。
「実はアルマさんから連絡が来たんだ。新エリアはどっちを選択したんだってね」
「アルマさんが……?」
……ハッ!
そういえばアルマさん、ワープする前に色々操作してた!
大丈夫って話してたのも、もしかして……?
私がアルマさんの方へ振り向くと、彼女はわざとらしく話し始めた。
「あー……そういえば、私これから用事あったんだ。急でごめんね、ルミナちゃん!」
そしてゆっくり私の元へ近づいてきて……。
「デート楽しんでね! お店出したら真っ先に連絡するからまた遊びに来てね」
そう耳元で告げて去って行ってしまった。
アルマさん……ありがとうございますぅぅぅぅ。
お兄ちゃんと一緒でよかったよぉぉぉぉぉ。
「さて、実はすでに色々とリサーチ済みだからな。美味しい甘味処があるんだけど、一緒に行くか?」
「うん! 一緒に行くっ!」
お兄ちゃんの隣で歩けることに喜びを感じながら、活気付く『大和ノ国』を堪能するためウキウキした気持ちになっていた。
***
目的地までの間街を散策していた私たちは、途中で和服のレンタルをしているお店を見つけた。
普段和服を着る機会は早々ないので、着替えを済ませて甘味処に来ていた。
「んじゃ、オススメの『宵のお茶会セット』を2つね」
NPCの店員にそう告げるお兄ちゃん。
和服姿超かっこいい……やばいよ!!
私変じゃないかな? 髪とか乱れてない?
一応和服に合うようにまとめた髪をお団子にしてみた。気にしながら前髪を少し触っていると、お兄ちゃんは私に笑いかけてくれる。
「ルミナの和服姿、それにお団子髪型も可愛いな。すっごく似合ってるよ」
「お、おおおお兄ちゃんも……か、かかかっこいいよ……」
うーーっ! カミカミ……。
もっと普通に言いたいのにー!
可愛いなんて直接言われると照れちゃうので、あからさまに
——しばらくして、NPCの店員が『宵のお茶会セット』をお盆に乗せて持って来た。
「どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとうございます」
テーブルに置かれたお皿には、華やかな和菓子が4つ並べられており、隣には三色団子が串に付いた状態で添えられていた。
その隣には湯呑みが置かれ、香ばしいほうじ茶の香りが漂ってきた。
「ささ、食べようか!」
「うん! いただきまーすっ」
まずは三色団子の桃色の部分をひと口。
口に含むとモチッとした柔らかい食感と、しっかり弾むような弾力が入り混じり口の中で甘みがふわっと広がる。
「んんっ、美味しいっ!」
「だろ〜? 江戸時代から続く、とある老舗の和菓子屋さんの味を再現してるらしいよ」
なるほどッ! 美味しいのにも納得だよね。
しかもVR世界ならカロリーも気にせずいっぱい食べれるし、最高っ!
桃色に続き白色のお団子もパクパク食べ終えた私の串には、最後に緑色のよもぎのお団子が残っていた。
うっ……。
よもぎ苦いから苦手なんだよね。
お兄ちゃんの方をソッと見ると、ちょうど桃色のお団子を齧っているところだった。
むむっ……。
桃色いいなぁ。
……なんて思いながら唇を固く閉じ軽く動かしていると、お兄ちゃんは食べかけの串を突き出して来た。
「ルミナはよもぎ苦手だもんな。それは兄ちゃんが食べるから、こっちの桃色食べなよ!」
——目の前には食べかけの桃色団子。
これって……。
か、間接キスになっちゃうよっ?
しかもお兄ちゃん、あーんってしてくれてる!?
——こんなの食べるしかないよっ!!!
「あーん……はむっ。んんんー美味しいっ(色んな意味で)」
「だろ〜。んじゃそのよもぎの団子、兄ちゃんに頂戴」
そのまま渡せば良いものの、お兄ちゃんに対抗すべく苦手なよもぎをひと口齧った。
苦いけど……。
でもお兄ちゃんも私と間接キスだもんね!
これで私のこと少しでも意識してくれるかなっ?
「はい、お兄ちゃん。あーんっ!」
さすがのお兄ちゃんもこれには恥ずかしさを感じたらしく、顔を赤らめながらパクりとかぶりついて来た。
「うん。美味い! ルミナの味がするよ!」
「———ッ!!!」
そんなストレートに私の味って言わないでぇ。
お兄ちゃんを照れさせるのに成功したと思ったのに、まさかのカウンターパンチが私の鼓動に炸裂する。
もう恥ずかしさでどうにかなってしまうくらい……。
心臓の音は鳴り止むことなく、ひたすら大きな音を響かせていた。
***
——お互いに顔を赤くしながら和菓子を食べ終えると、まだほんのりと温かいほうじ茶を啜りながらお兄ちゃんが静かに言葉を発した。
「ここってさ、温泉街もあるんだってさ」
「温泉ッ?! 入ってみたいかも!」
これだけ美味な和菓子が味わえるなら、温泉もきっと気持ちいいに違いない……そう思っていた。
ただ、お兄ちゃんは違うことを考えていたようで少し目に影を宿しているように見えた。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ん……いや、ごめんな。……ルミナはさ、この『大和ノ国』をどう思う?」
お兄ちゃんの唐突な質問に、理解が追い付かず反応するのに間が空いてしまった。
『大和ノ国』がどうって言われても……。
何かを答えるために窓を眺めると、空はすっかりと暗くなっているのに対し、街灯で明るく照らされた街はプレイヤーやNPCたちでお祭り騒ぎのように賑わっていた。
「私は……すごく素敵なところだと思うよ?」
「——だよな。でも素敵すぎるんだよ」
お兄ちゃんが含みを持たせた言い方をするので、気になってしまう。
私がどうしても聞きたいと告げると、お兄ちゃんはあくまでも想定の話だと語ってくれた。
「実はβテストで解放されてたのは『森エリア』だけなんだ。『湖』も『大和ノ国』もなかった」
そうだったんだ……。
「『森』は探索系のエリア。多分『湖』はβテスターたちを飽きさせないために、追加したんだと考えられるから同じ探索系だろうな。情報量が多いからこそ、ベテラン勢のほとんどは『森と湖』のエリアを選択してるんだ」
なるほど……。
確かに情報があれば、探索してレアなものを手に入れることも簡単にできるもんね。
でも、あれ……?
『森と湖』が探索系なら『大和ノ国』は?
ここでようやく、お兄ちゃんの考えていることが少し分かって来た気がした。
「そう。『大和ノ国』は探索できる場所がほとんどない。それに情報が少なすぎる。その割にNPCの数は異常に多いし。運営に何か別の意図があって作られたんじゃないかって考えてるんだ」
「……でも何かって?」
お兄ちゃんは机に肘をつき両手を握りながら息を大きく吸い込むと、ゆっくりと息を吐き出すのと同時に話した。
「大規模クエスト。それも『大和ノ国』を選択したプレイヤー全員を巻き込むほどの——【エリアクエスト】が来るんじゃないかってね」
プレイヤー全員を巻き込んだクエスト!
さすがにお兄ちゃんの考えすぎじゃないかなぁ?
この時の私はそうとしか考えれなかった。
——でも数日後。
まるでお兄ちゃんの話していた【エリアクエスト】という突飛な話が、正しいと言わんばかりの出来事が起こっていた。
『大和ノ国』へのワープが完全に閉ざされ、新たにプレイヤーが入ることも、私たちが出ることも出来なくなってしまったのだ。
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