第3章 大和ノ国編
第25話 『剛腕のミノタウロス』
☆第3章 大和ノ国編 開幕です!
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新エリアが公開され、次々とプレイヤーたちはその場に足を踏み入れていた。
開放された『森と湖』『大和ノ国』へ行くためには、草原エリアのエリアボス『剛腕のミノタウロス』を倒す必要がある。
「でもこの牛さんがかなり強いって、リサリサ言ってたしなぁ。私1人で大丈夫かな……」
不安を感じながら歩いていると、ミノタウロスが立ちはだかるダンジョンの入口に辿り着いてしまった。
周囲にはパーティーが何組か集まっており、挑戦する前に決起会をしているようだ。
「こ、今回こそ必ず勝利してみせるぞ!」
「お、おう! 次は死なないぞ!」
「や、やるぞぉ。怖いけど……」
どうやら何度か挑戦しているらしく、会話の内容からかなり苦戦を強いられているようだった。
やっぱり難易度高くてみんなパーティー組んでる……よね?
もしかすると1人で倒せちゃえるかもなんて、間違いだったかなぁ。
メンバーを集めたり、加入したりすることに面倒さを感じていると、後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ……? もしかしてルミナちゃんよね?」
振り返るとそこには【
「アルマさんッ! お久しぶりです」
「久しぶりね。第1回イベント優勝おめでとう。随分と装備がオシャレで可愛い感じになったのね」
「えへへ、ありがとうございます。たまたま入手出来たんですけど、お気に入りです」
他のパーティーは殺伐とした雰囲気であったが、私たちだけ和やかな雰囲気で会話が弾んでいた。
あれ……。
でもどうしてアルマさんは1人なんだろっ。
普段パーティーを一緒に組んでいる、キャベさん・ディル・ゴンゴンさんの姿が見当たらないことを疑問に思い、尋ねてみた。
「ハァ……。ルミナちゃん、ちょっと愚痴聞いてくれる? 実はね———」
アルマさんはそこから20分近くも3人に対しての愚痴を話し始めた。
要約すると、裁縫屋を経営していく資金のためアイテムの換金に動いている間に、新エリアが開放され、一般募集のパーティーに混じって3人ともクリアしてしまったらしい。
「さすがに怒っちゃったから、少し気まずくなっちゃって。でも1人でクリアは出来ないしどうしようかなって悩んでたのよ」
愚痴を話し終えると、スッキリしたのか顔色が明るくなったように見えた。
ん? ……ということは。
アルマさんは今1人?!
「あ、あの。アルマさん、私とパーティー組んで牛さんを攻略しませんか?」
「牛さんってミノタウロスのこと? 可愛い言い方するのね。……もちろん構わないけど【
「はい……って変でした?」
驚いた表情を見せるアルマさんだったが、すぐに微笑むように頷いてくれた。
「サポート職2人だと流石に難しいかなって……。でもせっかくだし一緒に行っちゃおっか!」
「はいっ!」
こうして私とアルマさんはパーティーを組み、2人で草原エリアのボスダンジョンへと足を踏み入れた。
***
ダンジョンは良くありがちな、薄暗い鉱山に似た雰囲気だが、道は分かりやすいように一直線になっていた。
「ここって……道中にモンスター出てこないのね?」
アルマさんの質問の通り、モンスターの姿はどこにもない。
多分だけど……あくまでもエリアボスだけが攻略対象ってことなのかな?
しばらく進んでいると、狭い道中から大きな広場のような場所に出た。
奥の方には綺麗に装飾された椅子に、身の丈と同じ大きさの斧を持った、筋肉質な毛皮を被った牛人間。ミノタウロスと思しきモンスターが、堂々と腰掛けていた。
あれが『剛腕のミノタウロス』?
偉そうな割にすごく弱そうだなぁ。
ただのモブモンスターかな?
「アルマさん、やっぱりいましたね。道中に弱いモンスター!」
私は先程の疑問に応えるかのように、笑いながらアルマさんに話した………が。
——アルマさんの様子がどうもおかしい。
かなり緊張しているせいか、震えながら青ざめた顔をしていた。
「ル……ルミナちゃん……。あれが、きっと『剛腕のミノタウロス』よ」
「えっ?!」
「だってあんなに……ものすごい殺気に、プレッシャー。間違いなくこれまで……1番強いボスモンスターよ」
アルマさんは声まで震わせながら、喉から絞り出すようにそう話した。
えっ……殺気?
プレッシャー?!
……邪竜王と比べると、子犬がきゃんきゃん吠えているくらいにしか感じないけど?
もう一度ミノタウロスと思われる牛さんを見つめるも、結果は同じだった。
「アルマさん勘違いですって。あれはきっとただの弱いモンスターですよ! 私がササっと倒してきますから」
「ちょっと待ってよルミナちゃん! あんなヤバいのは、パーティーで前衛壁職と回復必須よ」
もう、アルマさんったら冗談が好きなんだなぁ。
ただの弱い牛さんのモンスターに、前衛職と回復必須なんて。
私が数歩前に進むと牛さんは椅子から立ち上がり、ボスモンスターかのように巨大な斧を振り回した後に攻撃態勢を取り始めた。
え……そんなボスモンスターみたいな決めポーズのモーションするの?
斧を振り回し終えると、頭上には『剛腕のミノタウロス』と赤字で名前が表示されHPゲージが2本出現した。
本物の……『剛腕のミノタウロス』?
……ごめんなさぁぁぁい。
ものすごく弱そうに見えたから、へっぽこ牛さんだって勝手に決めつけてましたぁぁ。
そんな私の心境も知らず、ミノタウロスは斧を持ち上げながら猛突進で私の元へ向かってくる。
「やばっ……。えっとリサリサの情報だと序盤はともかく、中盤から隠しギミックで防御力上がるんだっけ?」
「ルミナちゃん!! 武器! 急いで武器装備して構えてッ!!!!」
何の対策も考えていなかったので、今更どう対抗しようか考えようとするも、既に遅かった。
——気付けば目の前に紅く不気味に光る両眼。
——鼻息を荒げる醜悪な牛の顔。
——頭上には切先が鈍く反射する鋼の塊。
後ろでは何を喋っているか分からない、アルマさんの鋭い声が聞こえる。
間に合わないことを悟った私は、武器を構えることなく振り下ろされた斧に左手を伸ばした。
『グォォ?』
ミノタウロスが驚きの声を上げたのも無理はない。
私は大きな斧を片手で弾き体制を崩させると同時に、そのままガラ空きになった本体に右拳を振り抜く。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ルミナちゃんやりすぎよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
突如巻き起こる暴風を必死に堪えながら、アルマさんが叫び声を上げる。
もちろん暴風が起こった理由は私にあった。
スキルも使わず、ただのパンチをしただけなのに私の拳圧により暴風が吹き荒れてしまったのだ。
ミノタウロスは先程まで腰掛けていた椅子を飛び越えてぶっ飛び、壁に激突した後に力なく崩れてしまった。
「アルマさんごめんなさい。普通にただパンチしただけなんですけど……」
「ルミナちゃんは【
「で、ですよねぇ」
確かにこのゲーム、素手で戦うプレイヤーなんて他に見たことないもんね……。
……気をつけなきゃ。
情報だともう少ししたらミノタウロスの防御力が上がるはずなので、魔法剣を装備しようとした——その時。
——ピコンッ!!
……ってあれ? この音ってまさか?
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『剛腕のミノタウロスの討伐に成功しました』
『レベルが上がりました』
『SPの指輪の効果によりSPが入手されました』
『SP獲得時に《グイデの恩恵》が発動しました』
『規定外討伐によりユニークスキルを会得しました』
『ユニークスキル——《超絶猛攻撃》』
『森と湖エリアが開放されました』
『大和ノ国エリアが開放されました』———————————————————————
え……?
討伐に成功?!
どういうこと?!
そろそろ起き上がり、再び私の元へ向かってくると思い込んでいたが……。
ミノタウロスの様子を確認すると、身体がポリゴン状になり消えていくところだった。
「え? ルミナちゃん倒し……ちゃったの?」
「……みたいです。ちょっと小突いた程度だったんですけどね」
「あはは……。ルミナちゃんかなりヤバいわね……
。ただのパンチで倒しちゃったってことは——今【STR】値っていくつなの?」
うぅ……。
これ話してもいいのかな?
でもアルマさんなら、私が間違って【STR】値に極振りになってても、きっと笑わないよね。
「私の【STR】値は———」
——この後、アルマさんは衝撃のあまり目が飛び出してしまうのではないかと心配するほど、見開いていたのは言うまでもない。
そんな中、ミノタウロスが座っていた椅子の両脇には、次の場所へと進むためのワープゾーンが2つ浮かび上がるのだった。
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【新スキル紹介】
☆《超絶猛攻撃》
⇒【ユニークスキル】
⇒常時発動可能
⇒最大HPが半減する代わりに【STR】値が2倍になる。
※会得条件
⇒『剛腕のミノタウロス』を規定外(装備なし)の状態で討伐———————————————————————
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【USO最前線攻略隊掲示板】
521:自称最強の盾使い
『速報!速報!』
522:自称最強の斧使い
『なんだね?』
523:自称最強の冒険者
『急にどうした?』
524:自称最強の盾使い
『草原エリアボス、剛腕のミノタウロスの討伐タイムが発表されてるんよ』
525:自称最強の冒険者
『いいじゃん。タイムトライアル的なの燃えるわ』
526:自称最強の焼きおにぎり
『それダンジョン入ってからのタイム?』
527:自称最強の盾使い
『いや、ボスのネームが頭上に表示されてかららしい』
528:自称最強の斧使い
『ほほう。んで1位はレイラさんのパーティー?』
529:自称最強の盾使い
『いや、レイラさんは2位で3分15秒らしい』
530:自称最強の冒険者
『レイラさんはぇぇぇ。俺、普通に10分くらいかかったってのに』
531:自称最強の斧使い
『ってことは1位はナイトロード?』
532:自称最強の盾使い
『ナイトロードはソロ攻略したらしくて、載ってなかった。パーティー組んでないとランキングには出てこないらしい』
533:自称最強の焼きおにぎり
『確認してきた。あれなに?』
534:自称最強の斧使い
『ってことは……まさか』
535:自称最強の盾使い
『そうなるよな。1位はルミナちゃんなんだよ』
536:自称最強の冒険者
『キターッ。ルミナちゃん! まさか3分切ってきたのか?』
537:自称最強の焼きおにぎり
『……5秒』
538:自称最強の冒険者
『惜しい。3分5秒か! あとちょっとだったのにな』
539:自称最強の盾使い
『違うぞ。5秒だってば』
540:自称最強の斧使い
『は?』
541:自称最強の冒険者
『え?』
542:自称最強の盾使い
『その反応が普通。しかもパーティー人数2人』
543:自称最強の冒険者
『意味がわからん……。次元がおかしい』
544:自称最強の焼きおにぎり
『本当トッププレイヤーの俺たちですら驚きだよな』
545:自称最強の斧使い
『ルミナちゃん旋風が巻き起こってるな』
546:自称最強の盾使い
『そういえば、エリア選択制だったじゃん? 後から行けるようになるらしいけど、ルミナちゃんどっち選ぶんだろな』
547:自称最強の冒険者
『森と湖じゃない? やっぱり探索すると色々出てきそうだし』
548:自称最強の斧使い
『くっそ〜。俺大和ノ国エリア選んじまった。ルミナちゃん旋風が巻き起こるのを近くで見てみたかったのに』
549:自称最強の盾使い
『まぁ、ここで見守ろうぜ。次はどんな旋風を起こしてくれるのかを』
550:自称最強の冒険者
『だな!』
551:自称最強の斧使い
『もちのろん!』
552:自称最強の焼きおにぎり
『おけ!』———————————————————————
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