第24話 『攻撃特化すぎる付与術師』

「がおーーッ!!」


 再び棒読みのような拙さの滲み出た咆哮を真似てみる。

 私の中ではかなり上手く真似出来てると思うけど、どうかな?


 2回目の咆哮でようやく邪竜王も何が起こっているのか理解できたらしく、竜王の姿を付与した私に対峙してきた。


『クソッ……キサマがシンのリュウオウだとイウのか……。オイ、キサマハナシをキイテいるのか!!』


 何か一生懸命に喋っているらしいが、竜王形態の操作の難しさに夢中で聞こえるはずもない。


 うわぁ……。

 操作に慣れるのに時間かかりそう。

 これ難しすぎるよっ!

 ……今はスキルを使うので精一杯かな。



 使える専用スキルは3つ。

《竜王乃断罪》《竜星軍》

 ……そして《壊滅乃竜砲ブレス


 効果を確認する限りどれもかなり強そうだけど……。



 せっかくだし、1番派手で強そうな《壊滅乃竜砲ブレス》を使っちゃおっと!


「ふふふっ! いくよッ、ニセモノのドラゴンさん! ——《壊滅乃竜砲ブレス》!」



 スキル名を唱えると、勝手に大きく口が開かれ白銀色の高エネルギーが集約されていく。


 それは眩しすぎるほどに煌めき、自分でも目を閉じてしまうほど輝きを放つ。


 全てを破壊するかの如く振動する空気は、竜の国そのものを揺らしているかのようだった。


『な……なんだそのデタラメなチカラは。アリ……エナイッ……。これがリュウオウのシンのチカラか』

「残念だけど、私は竜王じゃないよ? お兄ちゃんのことが大好きなただの【付与術師エンチャンター】だから!」

『オ、オニィ——?!』


 困惑した表情の邪竜王へ向けて、溜め込んだエネルギー咆を全力で開放する。


 あらゆるものが白銀の閃光に包み込まれたかと思うと、言葉を発する機会すらなく目の前に存在していたはずの邪竜王の身体を、跡形もなく滅却させてしまった。



 ——やがて少しずつ白銀の閃光が収まりを見せると、周囲は立ち込める湯気と静寂の空間へと姿が変わってしまっていたのだった。



 ***



 う……うわぁ。

 これ、私がやっちゃったんだよね?


《壊滅乃竜砲ブレス》があまりの高威力かつ高熱だったらしく、一直線上に全ての草木が消し飛び、地面はエグれてマグマ溜まりが出来てしまっていたのだ。


 普通ここまでなるものなの……?!


 自分でもあまりに非常識すぎるかもと思い、少し計算してみることにした。


 えっと、私の装備込みの【STR】値は45,000で。

《竜王乃覇気》で常時5倍だから225,000?!

 ……《壊滅乃竜砲》は100倍の威力だから2,250,000!!!!


「ひゃー……数字の桁増えたぁ。これでお兄ちゃんやすごいβテスターの人たちに、少しでも追いつけたかなぁ」


 そう呟きながら、不慣れな竜王形態のままだと動き辛いのでモードを解除する。


 ——さすがにこれだけ国をめちゃくちゃに壊しちゃったら、白竜姫に怒られたりするのかな……?


 後方に構えている白竜姫の方へ、恐る恐る振り返ってみると………。


『ありがとうございます。新たな竜王様の誕生に我々竜族一同、心より感謝と歓迎致します』


 よ、よかったぁ。

 どうやら大丈夫みたい。


 白竜姫が優しく感謝を伝えてくれると、目の前にクエストクリアのポップが表示された。


 ———————————————————————

『邪竜王カオスロードドラゴンを討伐しました』

『超絶高難易度クエスト【真の竜王たる資格者】をクリアしました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『SP獲得時に《グイデの恩恵》が発動しました』

『クエスト報酬によりユニークレア素材アイテム【竜王の聖魂】を入手しました』

『クエスト報酬によりユニーク装備シリーズ【竜王乃神衣】等を入手しました』

『クエスト報酬によりSP10,000を獲得しました』

『SP獲得時に《グイデの恩恵》が発動しました』———————————————————————



「クエストクリアは嬉しいけど、またまた通知がいっぱい来すぎだよーっ!!」



 とりあえず上から確認していくことにする。


 まずは……うん、レベルが10上がった!


「むむむっ。思ったより上がってない……」


 推奨レベル8,000のクエストを、レベル25でクリアしたのにショックすぎる結果だよ。


 うぅ……気を取り直して次ッ……。

 次はユニークレア素材アイテム【竜王の聖魂】。

 これってもしかして……?


 ———————————————————————

【竜王の聖魂】

 ⇒『黒竜乃煌剣(N)』の最終進化用アイテム。

 ⇒新たな効果と能力が付与される。———————————————————————


 やっぱり!

 予想通り私が求めていたレア素材アイテム。

 ——魔法剣の進化用素材ッ!


 ローズマリーさんにお願いして、進化させてもらおうと思ったが、どうやらアイテムとして使用するだけで新装備に進化できるらしい。


「もちろん、使用するよね!」


 ———————————————————————

『新装備を入手しました』


 新装備名称:【竜王乃煌魔剣(N)】

 ⇒特殊能力【永劫不滅】【装備成長】を付与。

 ⇒装備時【STR】値30%上昇。ただし竜王シリーズとセットで装備した際は【STR】値60%上昇。


 ※【永劫不滅】

 ⇒装備が破壊されない。


 ※【装備成長】

 ⇒装備を使用し続けることで、ランクと性能が向上する。『N⇒HN⇒R⇒SR⇒SSR⇒UR⇒LR』の7段階となっている。———————————————————————



 魔法剣の切先が漆黒色なのは変わらないが、刀身のクリスタルがより洗練されたかのように、七色に輝きを放っているように見える。


「ますます綺麗になったし、使い続ければ、更に成長していくんだぁ。それに——竜王シリーズ装備って、今回の報酬で入手できた『【竜王乃神衣】等』って書かれてた装備のことだよね?」


 ———————————————————————

【竜王シリーズ装備一覧】

 全装備時追加で【STR】値+150%


《頭装備》

【竜王乃髪飾】

 ⇒特殊能力【永劫不滅】

 ⇒装備時【STR】値+30%


《体装備》

【竜王乃神衣】

 ⇒特殊能力【永劫不滅】

 ⇒装備時【STR】値+30%


《腕装備》

【竜王乃腕輪】

 ⇒特殊能力【永劫不滅】

 ⇒ 装備時【STR】値+30%


《腰装備》

【竜王乃調帯】

 ⇒特殊能力【永劫不滅】

 ⇒ 装備時【STR】値+30%


《足装備》

【竜王乃天靴】

 ⇒特殊能力【永劫不滅】

 ⇒ 装備時【STR】値+30% ———————————————————————



 名前から連想すると威厳のある見た目になってしまうが、実際に装備してみると……。


「か、かわいいっ!」


 白を基調にしたフリルやレースで飾られた、ワンピースタイプの服。


 お気に入りのポイントは、腕の部分の袖口でフリルが広がっており、お花を演出しているかのような造りになっているところだった。


「今まで初期装備で我慢してたから、これはものすごく嬉しい! 可愛くてオシャレで強いなんてもーっ最高ッ!」


 一人でテンションが上がり興奮していると、普段あまり聞き覚えのない目覚まし時計のような通知音が鳴り響いた。


 えっと……これはフレンドからメッセージが届いた通知音??


 すぐに確認してみると、送り主はリサリサだった。


「あれ……。リサリサから? 何だろ?」


 ———————————————————————

【送信者:リサリサ】


 やっほー、ルミナ!

 新しいエリアが開放されたから、一緒に行きたいなって思ったんだけど……忙しいよね?


 草原エリアボスの『剛腕のミノタウロス』なんだけど、初見だと厳しいかなって思って、練習ついでにパーティーに参加してみたんだけど……めちゃくちゃ強かったよ(汗)


 フィールドに隠しギミックがあって、中盤からかなり高い防御になるの。火力足りないとHP減らせなくて、逆に倒されちゃった。


 また有効な攻略法を見つけたら、情報共有するね!———————————————————————



 そっかぁ。

 夕方から『森と湖のエリア』と『大和ノ国エリア』の開放だったから、もう開放されてるんだ!


 リサリサが苦戦するほどのエリアボス——『剛腕のミノタウロス』かぁ。

 結構難易度高そうだけど、ワクワクするよね。


 楽しい気持ちになってきたところで、もう一つ追加でメッセージが届いた。


「ま、また? リサリサ送ってきすぎだよ———っておにぃちゃんんんんんん?!」


 まさかの差出人はお兄ちゃんからで、あまりの嬉しさに飛びつく勢いでポップされたメッセージを見ようと、前のめりになってしまった。


「うへへぇ。お兄ちゃん私のこと心配して送ってくれたのかなぁ……なになにっ? ——『ルミナへ。今何時だと思ってるんだ。母さんが早くご飯食べろって怒ってるぞ……』………ひぃぃぃぃぃ!!』


 慌てて時間を確認すると20時を過ぎてしまっていた。


「あわわわ……。とりあえず急いでログアウトしなきゃ……。ってあれ? ———これどこから元のエリアに戻ればいいのよぉぉぉぉぉ!」


 ………いいのよぉぉぉぉ!


 ………いいのよぉぉぉ!


 ………いいのよぉぉ!



 周囲にこだます自分の声を聞きながら、慌てて草原エリアへ戻る道を模索する。





 ——まだ正式サービスが始まってほんの1週間ちょっと。正直ここまでハマっちゃうと思わなかったけど……。



 強くなってきたし、これからはもっとお兄ちゃんと一緒に遊べちゃうよね!




 これはトップランカーのお兄ちゃんのことが大好きで大好きでたまらない私が、どうしても一緒に遊んで欲しくて、付与術師を選択したのに初心者すぎて攻撃力に特化しすぎちゃう……そんなお話。



 ——私の冒険はまだ始まったばかり!




【第2章 (終)】


 ———————————————————————

【ステータス】


 ルミナ[Level:35]


 HP:334,560/800 (《不滅乃要塞》により蓄積中)

 MP:1,600/1,600


 ▷STR:【132,000】

 ⇒実数値(装備+スキル補正):【2,376,000】


 ▷VIT:【1】▷INT:【1】

 ▷DEX:【1】▷AGI:【1】▷CRI:【1】


【保有ステータスポイント】

 ▷【0】———————————————————————





 その頃……最前線では……。

 ———————————————————————

【USO最前線攻略隊掲示板】



 340:自称最強の冒険者

『おつ。草原エリアボス鬼強かった』


 341:自称最強の盾使い

『まじ強いよな。壁役と回復必須だし、攻撃職も結構強くないと押し切れないわ』


 342:自称最強の斧使い

『最速攻略者は【剣聖ソードマスター】のレイラハートさんのパーティーらしい!』


 343:自称最強のポテチ

『いいなぁ。レイラさんとパーティー組めたら余裕だろうな』


 344:自称最強の冒険者

『レイラさんっていうか【剣聖ソードマスター】のスキルがチート級の強さだもんな』


 345:自称最強の情報屋

『そのレイラさん、ステータス公開してたよ』


 346:自称最強の盾使い

『まじ?』


 347:自称最強の斧使い

『気になる!!』


 348:自称最強のポテチ

『【STR】いくつなんだろ!』


 349:自称最強の情報屋

『レベルは2,000に到達。【STR】値は装備とスキル込みで12,000らしい』


 350:自称最強の盾使い

『ヤバすぎる!』


 351:自称最強の斧使い

『そんなの勝てるやついねぇぇぇぇぇ』


 352:自称最強の冒険者

『まさしく最強の物理攻撃力だな』


 353:自称最強のポテチ

『いやまてよ、ナイトロードがいるじゃん?』


 354:自称最強の情報屋

『多分ナイトロードは【AGI】に多めに振ってると思う。装備値の補正後は分からないけど、純粋なステータスはレイラハートさんのが上かな』


 355:自称最強の盾使い

『クールビューティーだし、たまらないってファンも多いしな』


 356:自称最強の冒険者

『最速のナイトロード。物理最強のレイラハート。魔法最強のリコピンか』


 357:自称最強のポテチ

『白銀の女王は?』


 358:自称最強の斧使い

『白銀の女王って……【付与術師エンチャンター】のルミナちゃんか』


 359:自称最強の情報屋

『あの子に関しては不明すぎる。そもそも【付与術師エンチャンター】って弱すぎてソロ無理だからパーティー必須だし、パーティー組むからパーティーメンバーを補助するためのスキルしか手に入らないはずなのに』


 360:自称最強の盾使い

『もしかしてステータス振り間違えてるとか?』


 361:自称最強の斧使い

『ありえそう……。まぁルミナちゃん可愛いし胸大きいからな。俺は断然ルミナちゃんのファンだわ』


 362:自称最強の盾使い

『いや斧使い、お前この前はリコピンのファンって言ってたじゃん!』


 363:自称最強の情報屋

『ここで情報屋からの新情報。どうやらギルドの実装が近々されるらしい。第2回イベントはギルド対抗戦と予想』


 364:自称最強のポテチ

『いいね。第1回の上位者……ってかベテラン勢は、大体ギルド創るはずだよな』


 365:自称最強の冒険者

『今からどこに入るか考えとかないとな』———————————————————————







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