第23話 『ルミナ、竜になる!?』

 うーん……。

 本当にどうやって倒せばいいのかなぁ。


 邪竜王が放ったエネルギー砲は、私の背後の地平線にまで続く一直線上の距離を、焼け野原に一変させてしまう程の破壊力。


 更には私の攻撃力すら諸共しない、圧倒的な防御力に攻めあぐねていた。


「状態異常はどうかなぁ? ——《パラライズ・ショット》」


 麻痺なんて効くはずないよね。……なんて考えながらとりあえず使ってみたけど、予想通り全く効き目はなかった。


『フハハハハ! コザカしいマネばかりスルやつだな。コノオレサマのマエにはスベテがムイミなのだ』


 段々と調子に乗ってきたのか、私のことを指差ししてにまでコケにしてきた。


 むぅー。

 さすがに怒っちゃうよ……?

 私にだってちょっとだけ考えがあるんだもんね!


「ねぇねぇ、偽物のドラゴンさん。口からピカーッてするの連続で出来ないの?」

『フンッ! デキルにキマッておろうが。オレサマにフカノウはナイのだ!』

「よかったぁ。じゃあ本気出してそのピカピカ攻撃してきちゃってもいいよ? 全部受け切ってあげるからふふんっ!」


 完全に挑発とも取れる発言に、邪竜王もイラッとしたらしい。


『イイだろう。サキホドの《ハメツコウセン》を

 キサマにオモうゾンブンアビせてくれるわ!』


 再び口元に集約される、紫色に輝く閃光。空間が歪むほどの高密度のエネルギーが数秒の溜めの後放出された。


「——《不滅乃要塞イモータルフォートレス》!」


 10秒間受けるダメージを完全に無効にする上に、ダメージ量は最大HP以上に加算して回復させるチートスキル。


 いかに邪竜王の《破滅光線》が強力でも、今の私には通用しない。


「ふっふっふーー。痛くも痒くもないよー?」

『バッ……バカなっ!! だが、ツギのコウゲキで!』


 先程までの余裕の雰囲気とは打って変わり、焦りを見せながら連続で《破滅光線》を放ってくる。


 そろそろ……10秒かな?


「ここでもう一回! ——《不滅乃要塞イモータルフォートレス》」


 更に10秒間無敵+HP上限無視の回復状態になる。

 これを合計6回繰り返したところで、邪竜王の《破滅光線》がようやくクールタイムで一時的に使えなくなった。


『ナゼだ……。ナゼダメージがトオらないんだ!』

「いーっぱい回復させてくれてありがとっ!」


 自分の画面左端に表示された、完全に見切れているHPゲージの状態をチラッと確認してみる。


 ———————————————————————

【HP:616,580 / 600】———————————————————————



 よしっ。

 ……これなら次の作戦に移れそうだね。


『ち、ちくじょぉぉぉぉぉぉぉ!! ならば、キサマをマルノミにしてヤルわ!!』


 邪竜王はほとんど不意打ちに等しい速度で急接近してきたかと思うと、私を飲み込むべく大きな口を開けた。


 切先がギザギザになっている鋭い牙。生臭い悪臭が漂う口内液。そして先の見えない真っ暗な洞窟に見える食道の入口が視界に飛び込んでくる。


 あっ……。

 食べられ……ちゃう?


 ——そのまま私は反応することなく、邪竜王の大きな口に包まれてしまった。



 ***



「……いててて。作戦は成功かな」


 口から丸呑みにされた私が辿り着いた先は、もちろん胃の中だった。


 ……あっ。

 作戦成功ってどういう事って?


「だって外側からダメージが通りにくいなら、中から攻撃すればいいんだよっ」


 誰に見られてる訳でもないのに、何故か一人で得意げに話してしまっていた。


 ただ一つ誤算があり、胃の中では胃酸により、微量の継続ダメージと初期装備である防具の耐久値が削られていた。


 HPは余力がかなりあるので大丈夫そうだが、防具が剥がされると下着姿にされてしまう。


「私が邪竜王を倒すのが先か……下着姿にされちゃうのが先かだね。ぜーったい負けないんだから!」


 唯一の救いは新しい魔法剣——『黒竜乃煌剣(N)』に、特殊効果【永劫不滅】が付与されていたことだった。この効果により魔法剣の耐久値は全く減っていなかった。


 さすがに胃の中で武器まで無くなってしまったら、お手上げだもんね。


「よし、いっくよー! えいっ。えいえいっ!!」


 右手で強く魔法剣を握りしめ、胃の壁をひたすら削り続ける。


 痛々しいダメージエフェクトが演出されたことで、内側からの攻撃はかなり有効であることが確認できた。


 よしっ……この調子でガンガン削っちゃうよ!


 ………。


 ………。


 ………。









 ———約1時間後。


「えいっ! ……ハァハァ。防具の耐久値がもう限界だよ……」


 ほとんど休むことなく、ひたすら魔法剣を振り続けていたので腕も重くなってきていたが、邪竜王が倒れる様子は未だにない。


 ただ、体内にいても苦しみもがいている様子が分かるほど、邪竜王の叫び声が響いていた。


「もうそろそろいい加減にしてよねッ————」


 さすがに気力も尽きそうだというところで———来てくれました!


 私の大好きな通知音!


 ———————————————————————

『新しくスキルを会得しました』

『ユニークスキル——《防御貫通》』



 ☆《防御貫通》

 ⇒相手の防御力を無視して攻撃を行う。

 ⇒使用可能回数:5回 / 1日———————————————————————



 これ使えば、最後の一押しできるかも!

 もう出し惜しみをしてる場合じゃないよね。


 私は《防御貫通》を発動させ、胃の壁のダメージを与え続けた同じ場所に、今度は《ルミナ・スラッシュⅡ》を撃ち込んだ。


 ———————————————————————

『スキル《ルミナ・スラッシュⅡ》が強化されました』

『新たに《ルミナ・スラッシュIII》を会得しました』



 ☆《ルミナ・スラッシュIII》

 ⇒【ルミナ専用スキル】

 ⇒威力・飛距離・範囲が更に大幅UP

 ⇒一回のスキルで斬撃が三連撃に変化

 ⇒新たに状態異常『出血』を付与


 ※『出血』について

 ⇒防御力を低下させると同時に、継続ダメージを与える。———————————————————————



「嬉しい強化きたぁ! よーっし、せっかくだし使っちゃおっと——《ルミナ・スラッシュIII》!」


 これまでのⅡの時とは、次元の違う破壊力の斬撃が三発も放たれ、生々しくも強烈なダメージエフェクトが加わる。


 良く見ると肉壁に小さく光が漏れ出ていた。


 これってもしかして……。

 外の光?!

 ———それなら、突き破っちゃえ!


 再び渾身の力を込めて《ルミナ・スラッシュIII》を放つと、ついに邪竜王のお腹が爆散し、外の世界に戻って来れた。どうやらすっかり夕陽は沈んでしまったらしい。


「ぷはぁー。外の空気は美味しいなぁ」


 苦しみのたうち回っていた邪竜王を他所に、深呼吸をしながらHPゲージをすぐに確認すると、残りゲージは1本の約半分。


 かなり削れたけど、まだ遠いなぁ……。


 ここからどう攻めるかを考えていると、今まで傍観するだけだった白竜姫が近くに寄ってきた。


『実力差がかけ離れて過ぎている中、よくここまで弱らせてくれましたね。後は貴女にこのスキルを授けましょう。竜王として使いこなして見せなさい』


 クエスト報酬にはスキルなんてなかったけど、まさかのスキルが手に入るんだ!


 嬉しい誤算に胸を躍らせつつ、会得出来たスキルの確認をしてみる。


 ———————————————————————

『白竜姫ホワイトパールより新しいスキルが伝授されました』

『ユニークスキル《ドラゴンフォース》がユニークスキル《竜王乃覇気》に強化されました』

『新しいスキルを会得しました』

『オリジナルスキル《モード:竜王》』




 ☆《竜王乃覇気》

 ⇒【ユニークスキル】※称号:ドラゴンスレイヤーを保有しながら竜王の資格を持つ者が、超絶高難易度クエスト(白竜姫クエスト)で邪竜王に一定のダメージ量を与える事で会得できる、事実上オリジナルスキル。

 ⇒HPとMPを除いた、最も高いステータス値を常時5倍にする。




 ☆《モード:竜王》

 ⇒【ルミナ専用スキル】

 ⇒竜王の姿を再現し付与する。

 ⇒モード形態時は竜にまつわるスキル以外は全て使用不可となり、専用スキルが与えられる。

 ⇒HP・MPゲージは専用ゲージに変化する。

 ⇒HPがゼロになるか、自身で解除、もしくは10分が経過すれば元の姿に戻る。

 ⇒使用可能回数:10分 / 1日



 ☆《竜王乃断罪》

 ⇒モード形態時の専用スキル

 ⇒巨大な地震を起こす範囲攻撃。揺れによる状態異常眩暈を30%の確率で付与。

 ⇒ダメージ量は【STR】値の10倍。

 ⇒再使用時間:2分 / モード形態中

 ※状態異常眩暈:効果時間中は左右上下が逆転した状態での行動となる。



 ☆《竜星軍》

 ⇒天より星の如き輝きの閃光を降らせる超広範囲攻撃。

 ⇒ダメージ量は【STR】値の50倍。

 ⇒再使用時間:5分 / モード形態中



 ☆《壊滅乃竜砲ブレス

 ⇒口から高エネルギーの閃光放つ超絶必殺技。

 ⇒効果範囲は一直線上。

 ⇒ダメージ量は【STR】値の100倍。

 ⇒使用可能回数:1回 / モード形態中———————————————————————



 こんな時に私はまたまた、とんでもないスキルを会得してしまったらしい。


「モード付与ってことは《ゴーレムマスター》と同じだよね? 邪竜王さんとの最終局面だし、使ってみよっと」


 ——《モード:竜王》!


 身体が白い輝きに包まれると同時に熱くなり、気が付くと視界の位置が一気に高くなる。


 鋭い爪に、巨木の様な四肢。

 長く立派な尻尾に、空へ向けて大きく広がる翼。

 白銀の鱗に覆われた美しい姿に、思わず口角が上がるとチラつく牙。


「がおーーッ!」


 ついついテンションが上がってしまい、ドラゴンが吠える声真似を可愛くしてしまった。


 そんな私の姿に気付くことなく、邪竜王さんはお腹を攻撃された痛みでまだのたうち回っているのだった。

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