第24話 ノスタルジー
九月家前
昨夜からの馬酔木との情事を終え、その足で九月家に到着した慶子とその愛車、ゴルフ3カブリオレ
九月家のエントランスで呼び鈴を押す慶子
インターフォンから晴義の声・・・と思いきや、則子の声が聞こえてくる。
「はーい、どな・・・あ、先生!到着されたのですね!えーっと、わたしたち、先にきてやってますので・・・」
「遅れてごめんなさい。あ、晴義くんに、わたしの車をガレージに停めさせてもらえるか、聞いてみてー」
「わかりましたーー、ねえ先輩、先生の車を・・・」
と言いかけたところで、晴義の声が聞こえてきた。
「あー、先生、ありがとうございます。車なんですが、父のガレージのキーを探すので、一旦ガレージの前に停めてもらえますか。ぎりぎり敷地内に停めれると思います。」
「りょうかいー、玄関の鍵、開いてる?」
「あ、開いてると思いますー」
九月家 玄関
たくさんの荷物を両手に持って入る慶子
どうやら掃除道具と食材のようだ。
九月家の中からは、掃除機の音や、ドタバタと物を片づけるような音が聞こえている。
「おー、やってるやってる。はーい、みんなおまたせー。」
「先生、こんにちはー、なんかすいません。気をつかってもらっちゃって。」
「いえいえ、晴義君、一人暮らし長そうだし、先日入ったとき、部屋が荒れてるのがきになっちゃって・・・」
そこに2階から降りてきた則子と美和が顔を出す。
「で、こうやって女子3人がスイーパーとして九月家にはせ参じた、というわけですね!」
「はい、そういうことーーー、で何処まで進んだ?」
「まだまだ序盤です。まずはお掃除しやすいように、場所をあけるところから・・・」
「・・・各部屋、よほど散らかっていた様子ね。」
「ええ、まあ、主に散らかっているのは晴義君のお部屋からリビング、キッチン、にかけてですかね。」
「あとのお部屋は散らかってはいないのですが、物置き小屋みたいになってたりとか。」
「・・・宅急便の荷物とか、届いたらそのままぽいと置いたりしてたので・・・すいません。」
「まあ、軽いものが多くて、女子でもなんとか片づけられるレベルよ。」
「ゴミ屋敷までとはいかなかったので、歩くこともできたり、息も吸えたわ。『G』もいなさそう。」
「最初先生から聞いたときは、Gの巣窟を想像していたんだけど、今のところ遭遇はしてないわね。」
「まあ、季節的にあまり出ない時期ではありますけどね。」
「さて、じゃあ、わたしはキッチンを掃除しつつ・・・お昼ご飯の準備をしましょう。食材も色々買ってきたわよーーー」
「おー、楽しみです。先生。」
「まっかせなさーい。」
かくして、九月家数年ぶりとなる大掃除が女子3名+男子1名でスタートした。
部屋の片隅で茶色の柔らかい小さなケースのようなものを複数見つける則子ー
美和から「あ、それ『G』の卵よ。」と言われ、パニックで嘔吐する則子ー
エロ本とエロDVDの入った箱を美和に見つけられ、パニックになる晴義ー
晴義の母親の部屋にある普段着や化粧品を見つけ、こっそり身に着けてみる美和ー
風呂場で水着姿で掃除をしている則子を見つけ、股間が血液充填MAXででかくなる晴義ー
子供服や絵本、子供玩具が保管された箱を見つけ、感慨に拭ける慶子ー
色々な私物を目にしながら、改めてこの家に家族があったんだなと感じる慶子、そして晴義・・・複雑な心境で片づけを進める美和・・・
「先生、そういえば則子にはまだ九月家の詳細を話してませんよね。」
「ええ、そういえば・・・まだね。」
「まあ、晴義に両親がいないことは知ってるし、あの子よけいな詮索をしない気性だから・・・。両親がいない深い理由までは聞いてこないのね」
「でもまあ、いつかは話すことになるでしょうね。このままルーデンスとの関わりが続くのなら・・・。」
則子、掃除機をかけていて、美和と慶子の会話が耳に入っていない。
「いいなあ、広いなあ、先輩の家・・・わたしんちなんか母子家庭でアパート暮らしだし・・・お風呂も広かったなあ・・・」
則子、掃除機を止め、改めて廊下や天井を眺める。
「先輩と結婚すれば・・・この家に住めるのかな。」
つい、ぼそりと呟く
「ええええっ!」
則子の背後で驚きの声があがった!
振り返ると割と近くに晴義がいた!
真っ赤な顔で硬直している晴義。則子の呟きを聞いてしまったようだ!
(ちっ、しまった・・・)
則子、瞬間的に時の瞳を発動する!
左目がギン!と青白く光り、スキだらけの晴義の時間軸を戻しにかかる!
晴義、身体の動きを止め、白く輝いたまま硬直しているが、なかなか晴義の時間軸が戻ろうという気配を見せない。
「つ、強くなりましたわねえ、先輩!時の瞳に翻弄されないとは!!」
則子、左目におもいきり力をいれる!
手をのばし、時間軸をつかんでねじるような仕草!
「ぐっ、ぐぐぐ・・・わたしだって、強くなったんだからああああっ!」
則子の左目がさらに強く、青白く光った!
晴義の身体が徐々に後ずさるような動きを見せ、なんとか則子が余計な一言を呟いた前の時間軸に晴義を戻すことに成功する。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・も、戻った・・・か?」
時の瞳から解放され、動きを取り戻した晴義
「ん・・・あれ、則子・・・汗だくで・・・どうしたの。」
「はぁ、はぁ、見ればわかるでしょ!先輩の家の掃除です!!」
「あ、う、うん、そうだよね。ありがとう。いや、あまりにも汗だくだったので・・・ごめんごめん。」
バツが悪くなった様子で、どこかへいってしまう晴義。
「はあ、はぁ、はぁ、なんとか・・・ごまかせた・・・。」
則子、首に巻いたタオルで汗を拭きながら振り返る。
「美和先輩・・・ありがとうございます。」
物影から美和が出てくる。どうやら時間巫女の力で則子の時の瞳をブーストしてあげた模様。
「あぶなかったわねー」
「はい、晴義先輩がスキだらけだったので、うまくいきましたが、それでももう・・・すごい抵抗力でした。無意識であれだけの力があるなんて・・・。」
「そうね、晴義・・・かなり成長したようね・・・。」
こうして、なんだかんだとありながらも、九月家の大掃除はてきぱきと進んでいった。
そして昼食・・・
「いただきまーす!」
テーブルには主にレンチンの食材が並べられた。
冷蔵庫で傷みかけていた野菜類は慶子の手で火を通され、炒め物となってふるまわれた。
「調理器具が何が使えるかわからなかったので・・・とりあえず冷凍もの多いけど、まあ、いいわよね。」
「いえいえ、全然・・・先生、ほんとうにありがとうございます。」
晴義の顔に久しぶりに笑顔が戻ってきた。
それを見て、さらに笑顔になる女子3人
九月家が失っていた家族団らんの空気がしばし流れた。
夕方近く・・・
なんとなく片付けが収まってきた様子の九月家内
ぎぎぎ・・・
こっそりと晴義の父、九月二郎が使っていたと思われる書斎のドアを開け、中に入る慶子
落ち着いた雰囲気の、どっしりとした立派な机には大きな水晶の文鎮と、高級そうなペン、そしてインク類が並んでいた。
慶子が目を見張ったのは、机の傍らに古いマッキントッシュが置かれていた点だった。
「カラークラシックⅡ・・・趣味のいいお父様だったのね。」
少し離れたところに放置気味で置かれたマッキントッシュにも気付く。
「げ、SE30・・・かなりつわものね。」
当時は所有すること自体が珍しかっただろう、モノクロマックの高級機が静かに眠っていた。
「・・・ちょっと待って。」
慶子、書斎の脇からただならぬ空気を感じる。
別の作業部屋を発見したのだ。
そこにはパソコン専用の机があり、タワー型のマッキントッシュが置かれていた。
「ま、マッキントッシュ パワーPC8100・・・・・・」
当時、パワーPCが出て間もないころの最高級機があったのだ。
「わ、わたしも持ってたわ、これ・・・」
自分と同じPCを所有していた九月二郎にシンパシーを感じはじめる慶子。
「これは・・・80?いや、100AVのほうか・・・」
慶子は好奇心から電源ボタンを推してしまう。
が、電源は入らない。
「そうよね、長年の放置で内臓バッテリーが干上がっているもんね・・・」
PCの脇にビデオボードらしきカードが埃をかぶって放置されていた。
「ん??あれ、なにこれ、ラディウスのビデオボードじゃない。なんで抜いてあるんだろ・・・。」
慶子は興味が止まらなくなり、思わずPCケースを開けて中を見ようとする。
「ヌーバス(ニューバス)マックの終焉を飾るにふさわしいこの筐体・・・!!」
コインを使い、ケースネジをはずす。
ケースを開けてみて、慶子が思わず声をあげる。
「うはっ、G3カードをヌーバスに挿してG3化したのね。わたしと同じことやってるわ!なっつかしーー!!」
鼻息がさらに荒くなる慶子。
マザボをスマホの明かりで照らして見る。
「よかった、バッテリーからの腐食は無いようね。こうなると機動させたくなるわね、えーと替えの内臓バッテリーは・・・スペア・・・スペアないのかしら。」
デスクの机や近くの戸棚をあさり始める慶子
いくつか機材の入った箱を見つけ、そのラベルを見て驚く。
「げ、ま、まさか・・・」
慶子、作業部屋を飛び出して、書斎脇に放置されていたSE30に飛びつくと、工具箱にあった六角レンチでSE30のケースを開け、マザボを引き出した。
「ら、ラディウス ロケット アクセラレーター・・・、負けた、負けたわ・・・」
「先生」
「はいいいっ!!」
気が付くと、横に晴義が立っていた。
「な、何かしら!!??」
「それはこちらのセリフですよ・・・先生、何をしているんですか?」
「い、いや、ちょっと、お父様のお部屋のお片付けを・・・と・・・」
「ここはもうさっき美和が掃除を終えたと言ってましたよ・・・。どちらかというと、散らかしているようにも見えますけど。」
「あ、あ、そう・・・かもしれないけど、えーと、いや、お父様、いいご趣味だったのね・・・って、色々と置いてあるものに興味が・・・」
「先生、パソコンヲタクだったのですか。」
「いや、まあ、その、パソコンというか、メカ全般というか・・・」
晴義、ポケットから鍵を出して慶子に見せる。
「これ、ガレージのキーです。さっき発見しました。」
「あ、そうか、ガレージ・・・わたしの車を停める話ね。」
「たぶん、父の車があるんじゃないかと思います。」
晴義、さらに2つの鍵を慶子にわたした。車の鍵のようだ。
「え、お父様の車・・・」
「僕の記憶・・・いや、今の時間軸には父が車を所有していた光景が出てこないのですが、鍵があるってことは、何かしらの車がガレージに眠っている可能性があり・・・」
慶子、晴義のコメント最中に書斎を飛び出し、どどどどどとガレージのほうに向かった。
ガレージの扉をあけ、手探りで電灯のスイッチを探す慶子
「スイッチ・・・スイッチ、スイッチ、スイッチ・・・あった!」
パチン!と音がして、ガレージ内が明るくなった。
そこに現れた2台の車の姿!!
1台は黒いブラックテール、リトラクタブルヘッドライトのスポーツクーペ、
もう1台は丸目4灯、今となっては小型に見える2ドアのクーペ
「せ、セリカXX(ダブルエックス)と、いすずベレットGTR・・・」
慶子、ガレージ正面の機械式シャッターを開けるスイッチを見つけ、押してみたが、シャッターのモーターがうんうんうなるだけで、開かなかった。
「長年開けてなかったから・・・しょうがないか。えーと。」
慶子はガレージの戸棚から556を見つけ、脚立を使ってシャッターの駆動チェーンやワイヤー部分に556をぶしゅぶしゅとかけた。
ガレージ内を走り回る慶子の様子をポカーンという表情で見ている晴義。
「よし、これで開けば、儲けもの!!」
慶子、脚立から飛び降り
「晴義くん、シャッターのスイッチ、もう一度入れてみて!」
「え、あ、はい・・・」
晴義がスイッチを入れると、慶子はシャッターの取っ手に手を差し込み、思いきり踏ん張った。
「ひ、ら、け、えええええっ!」
ぎしっ、ずり、ずり、ずり、ずりっ!!
金属がこすれる音がして、重いシャッターがずりずりとあがっていく!
「やったああ!」
ギシッ、キシッ、ガラ、ガラガラガラ・・・
恐らく十数年ぶりだろうか、ガレージの扉が開き、傾きかけた西日が差し込んでくる。
鈍い陽光に照らされる2台の旧車達。
慶子の鼻息が更に荒くなる。
「うわあ、埃かぶってるけど、ボディワークは悪くないわね。ていうか綺麗に保存されてる・・・雨風からも逃れられているから、錆もほとんどないだろうし・・・」
晴義はやや呆れ顔で慶子を見ている。
「セリカはほぼほぼノーマルかしら。いや、ワタナベホイール履いてるわ。インチアップしてるし。」
慶子、勝手に車の鍵をあけ、ボンネットを開く。
「前期型の2800だけど・・・ターボが追加されているわ・・・これはワンオフかしら、タワーバーが入ってる・・・バッテリーは当然だめね・・・。オイル漏れは・・・たぶん無さそう。うう、ケーブル類はサードパーティ制になってて、ボディは丁寧にアーシングしている。ラジエターはHKS制のをフレーム曲げてむりやり換装・・・」
タイヤハウスを覗き込む慶子
「暗くてよく見えないけど、どうやら足回りもHKSっぽい!」
続いてベレットのボンネットを開ける
「こっちは・・・ノーマル?いや、違う。エンジン降ろした形跡あるわ・・・うう、1800のエンジンにスワップされてる・・・キャブはツインのソレックスキャブなので、ちゃんとSOHCからDOHCに改造もされてるっぽい・・・いや、もしかして117のDOHCをスワップしたのか・・・!!」
慶子、ボンネットにつっこんでいた顔をあげるとガレージ脇にあるエンジンクレーンやアーク溶接機、数々の工具類の存在に気付く。
「まいった・・・まいりました・・・。」
へなへなとガレージの床に座り込む慶子
顔と手が少しオイルで汚れている。
慶子が何にそう興奮するのか、よくわからないで見ている晴義。
いつのまにかガレージに集まってきた美和と則子もややあきれ顔で慶子の様子を見つめていた。
慶子、そんな周囲からの目線を気にもせず立ち上がると晴義に向かって
「晴義くん・・・」
「は、はい・・・」
「この子たち、わたしにレストアさせてちょうだい。」
「れ、レストア?」
「是非、走らせたいのよ!」
「あ、あはは・・・」
2時間後
すっかり掃除を終えた九月家
そのリビング
慶子が作った夕食を囲みながら、団らんしている3人の女子と晴義。
「先生のお料理美味しいーです。」
「あたりまえです!元主婦ですからね!!」
「そういえば先生って彼氏さん、いないんですか?」
「え、ええ、まあ・・・」
昨夜の馬酔木との情事を思い出し、少し顔が赤くなる慶子
「一応、未亡人ですから、そんなすぐに再婚も考えてませんので・・・」
慶子の挙動の変化にすかさず気付き、怪訝な顔で見つめる則子
「そうなんですか、へえ・・・」
晴義が口を開く
「先生、みんな・・・本当に今日はありがとう。なんだか久しぶりに家庭の温かさを思い出した・・・ような気分になれました。これで父や・・・母のことはなんとかふっきれそうな気がします。僕も大人にならなきゃいけない。そんな気分になれました。」
「晴義・・・」
ほっとした様子の慶子と美和
晴義の両親がいない詳しい事情を知らないので、少しきょとんとしている則子
「あと・・・大学進学ももう・・・諦めようとおもって。」
「え?」
「まだ早いですよ、先輩!諦めないでください。」
「いや、もう受験とか、そんな気分になれなくて。偏差値もぎりぎりだし・・・生まれを呪うつもりはないけど、僕は時の瞳の継承者として、何か他にやらないことが出来たような気もしたんです。なので・・・」
美和が切ない顔で言う
「受験はしようよ。晴義、進学相談もしたんでしょ。うちの学校からならどこか行けるって」
「大学に行ったところで、ルーデンスから追いかけられる生活は変わらないだろううし。ならいっそ火中の栗拾ってみようかなって、そんな気分になったんです。そうしたら気持ちもなんだか楽になって・・・。」
「・・・。」
何も言えないでいる3人の女子
「これからもなんだかんだと1人でやっていかないといけないし、貯えも心配だから、バイトもしないといけなくなる時が来るかもしれないので、大学進学なんてもう・・・」
慶子が口を開く
「晴義くん・・・ごめんなさい。色々とわたしが巻き込んでしまったせいよね。」
「いえ、たぶん、いつかこうなる運命だったんです。美和も僕のこと、だいぶ前からお婆さんと一緒に見ていてくれたんだね。僕の両親、そして育ててくれたもう1人の母さんも・・・僕だけ何も知らないでここまで来たんだ。だから、だから・・・」
涙が出そうになっているのをこらえている晴義
その様子を見ている3人の女子、特に則子は晴義の両親消失についてまだ事情通ではないせいなのか、もらい涙が激しい。
則子の心の声
(ううう、先輩、かわいそう・・・助けてあげたい・・・イコール、この家に住みたい・・・広いお部屋・・・高い天井・・・でかいテレビ・・・綺麗なお風呂・・・・・・あれ?)
慶子が口を開く
「晴義くん・・・あなたのその気持ち、とても立派だと思うわ。わたし、大学に受かったときから一人暮らし生活をはじめたの。つまり今の晴義くんとそう変わらない年齢といえば、年齢だったわね。だからあなたもこれからきっと生活できるはずよ。お金の面は・・・心配ごと多いだろうけど、ルーデンスと関わり続けるならばわたしがサポートするわ。だから心配しないで!」
「先生、でも・・・」
「わたし、こう見えても小金持ちなのよ。」
則子が食いつく
「え、そうなんですか。いや、車複数もってたり、なんかそんな気がしてはいましたが・・・」
「ついでにいうと、妹はもっと大金持ちよ。」
「やっぱそうですか・・・」
「なんかそんな気がしてました。」
「ルーデンスと闘う以上、妹も今以上に協力してくれるはずよ。声をかけとくわね。」
「晴義、小学校のときのようにうちにときどき遊びにきなよ!疲れたときは夕飯ごちそうするからさ!」
「先輩、わたしはお金の面ではなんにもできないかもですが、またお掃除なら手伝えますので、いつでも呼んでくださいね!」
晴義、こぼれ出てしまった涙を拭きながら
「ありがとう・・・先生、みんな・・・ほんとうにありがとう・・・」
夕食後
帰宅しはじめる女子3人
大量に出たゴミを一旦庭に積んでいる晴義と慶子
「先生、じゃあ、わたしたちはこれでー」
「はーい、また学校でねー」
「ありがとう、美和、則子ー」
「まったねー」
「先輩、さようなら」
ゴミを片付け、晴義に声をかける慶子
「ふー、あらかた片付いたから、わたしも帰るわね。」
「ありがとうございました、先生。」
「あ、そうだ。ねえ、車のレストアの件なんだけど」
「あ、はい。」
「車検証借りていってもいいかしら。公道走らせるのに、車検通さないといけないので。」
「そうなんですね、わかりました。じゃあ、持ってきますので。」
「あ、いや、どうせわたしが車検通すと思って、もうわたしの車に積んであるの。」
「さすが、行動が早いですね・・・。」
「じゃ、今日はこの辺で・・・またね、晴義くん。」
「はい、さようなら、先生・・・。」
数十分後 慶子の家
晴義から借りた2台の車の車検証に目を通す慶子
「こ、こんなことって・・・あるの」
車検証を見て、何かに気付いた慶子
手が震えだし、思わず持っていた車検証を床に落とす。
晴義との出逢い、美和から聞いた晴義の父、九月二郎と檍美和の祖母、檍依葡との出逢い、椿坂正和との別れ・・・
色々なシーンが慶子の頭の中でリフレインしはじめる。
美和のセリフが聞こえてくる
(時間軸がもたらした出逢い・・・)
「どういうこと・・・何もかも・・・繋がっていくというの??」
同時刻
馬酔木の研究棟
同、馬酔木の部屋
ノートパソコンを開き、何者かと会話している馬酔木
「お金は例の口座に振り込んだわよ。色々準備してくれるのよね。」
「ええ、まあ、振り込み確認後に・・・やっておきますよ。・・・どうですか、今度また食事でも」
「・・・もうわたしを姉と同じように扱おうったって、無駄よ。」
「・・・相変わらずお堅いですねぇ・・・、あ、1つ忠告を」
「なにかしら。」
「まとめた資料ですが・・・僕も調べたんですが、ちょっと怖いですね。」
「へえー、そうなの。」
「思っていたより、ちょっとしたミステリーです。」
「ふーん、じゃあ、その資料を見るのを楽しみにしているわ。」
「やっぱりあなたのような綺麗な女性が深入りするような案件ではないと思いますけど。お金だって十分持ってそうですし。」
「あなたには関係ない話よ。」
「ま、そう言われるとは思いましたが・・・気をつけてくださいね。」
「・・・ありがとう。じゃあ、これで。」
会話画面を閉じる馬酔木
「やれやれ、なんかキナ臭くなってきたもんだな・・・」
馬酔木、タバコを吸いながらパソコンを操作し、WEBの検索画面に何か文字をうちこむ
「これも時間軸がもたらした出逢い・・・ですかね。」
パソコンの画面に現れた古いニュース記事
<MH660便 消息不明 インド洋に墜落か>
馬酔木、灰皿でねじり消したタバコをまじまじと見つめながら
「時間は・・・僕らに何をさようってんでしょうね。」
カサンドラ・アイズ @BNR34_RB26DETT
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