第21話 The Boy from Singapore

1年前

九月晴義の自宅



旅行に出発しようとしている九月一家


車に荷物を積み込んでいる晴義と母親らしき女性の姿が玄関先に見える。


その様子を路地に駐車中の車内から見ている人影がいる。


ルーデンスのメンバ、アチョークとバラン、プラカシュだ。


「九月晴義、17歳の誕生日の記念旅行か。」


「そんなところだろう。」


「まだ『時の瞳』を開眼していないとか」


「なんでそんなやつの相手をするんだっけ?」


「おまえ、相変わらずオペの書類見てないな。」


「見たよ。『ブラジル式』にやるってやつだろ?いや、俺が知りたいのは奴の素質だよ。」


「その素質を即すための施策だろうて。文句があるならジュリアに言ってくれ。」


プラカシュ、九月家から出ていく車を見ながら


「・・・父親の姿がないな。」


「おまえ、ほんとに資料見たのか?」


「3年前に『病死』しているんだってば。」


「ああ、『病死』ね・・・そうか・・・それで、思うんだけど」


「なんだ。」


「ジュリアって、どこの生まれなんだ?見るからにインド人じゃないよな。」


「・・・余計な詮索はしないことだな。」


晴義の車の後をつけるように発進するアチョークらの車




日光 東照宮前の駐車場


檍美和の家族と合流している様子の九月家


美和の両親と祖母の姿が見える。

車を降りて談笑している様子を遠くから1眼レフのカメラで見ているアチョークら


バランの携帯電話が鳴り、誰かと応答をはじめる。


バラン、電話を切って

「おい、ジュリアがこっちに向かってるってよ。」


「え、本当か」


「自分で見届けたいそうだ。」


「なんだよ。俺たちがデバることもなかったか。」


「九月晴義の様子も見たいんだろう。」


「まあ、そんだけ九月家にこだわりがあるんだな。」


「いや、こだわらなきゃいけないんだろう・・・。」




同、駐車場

黒いワゴン車から降りるジュリア

待ち構えていたアチョークらと合流する。




日光 東照宮 境内

檍一家と九月晴義、晴義の母親が歩いている。


見ざる言わざる聞かざるの前で話をしている美和。

「この見ざる聞かざる言わざるは、赤子の猿から大人の猿になるまでを時間経過とともに順を追って表していて・・・」


感心しながら美和の話を聞いている晴義。

「へえ・・・」



国内、海外の観光客でごったがえす東照宮境内

檍、九月一家らの横を通り過ぎるジュリアら一行


「!!!」


すれ違いざま、ただならぬ殺気を感じ、振り返る美和。

遅れて振り返る美和の祖母、檍依葡(あおきいぶ)。


多くの観光客にまぎれ、ジュリアらの姿がかき消えていく・・・




夜 同、日光市内のホテル

浴衣姿でホテル庭園を歩いている晴義の母


庭園の茂みから現れるジュリア、その後ろにバランの姿

ジュリアの左目が光っている・・・


晴義の母、ハッとなるが、時の瞳にとらえられ、一瞬動きを失う。


周囲はモノトーンの色合いになるが、晴義の母は色合いを保ったままだ。


晴義の母の左目が光る!

時の瞳を発動させ、やや遅れて動き出すが


(バスッ!バスッ!)


バランがサイレンサー付きの銃で晴義の母の身体に2発銃弾を打ち込む。


どさり・・・


芝生の上に倒れる晴義の母


「・・・!!!!、母さんっ!!」


異変を感じ取り、倒れた母親を見つけ、かけよる晴義を物影から見ているジュリアたち。


真っ青な顔で母親に呼びかけている晴義をじっと見つめているジュリア・・・。


晴義、大声を出しながら助けを呼ぶが、庭園が広すぎて誰も気づいていない。

慌ててロビーの方向に駆け出す晴義。

それを確認して、物影からジュリアたちが出てくる。


左目を光らせ、周囲の時間軸を操作しながら倒れている晴義の母に近づくジュリア。


晴義の母、口から血を吐き出しながら少し身体を起こすと、ジュリアと目が合う。


何を思う2人・・・無言で見つめあう。


晴義の母、左目が再び青白く輝きだす。

自らの身体に起こった変化を時間軸の操作で元に戻し始める!!


ジュリア、無言で右目を赤く光らせ、晴義の母のクロノス・アイのパワーを凌駕する!!


双方の時の瞳が作用する中、色彩を持っていた晴義の母の身体から色味が消え、モノトーンの背景と同じ色合いになる。


どさり・・・力尽き、再び地面に倒れる晴義の母親。


「・・・。」


ジュリア、無言で合図をアチョークに送ると、左目を青く光らせたアチョークが晴義の母を抱きかかえ、時間軸の狭間に消えていく・・・


ジュリアも左目を青く輝かせながら時間の狭間に消えていこうとすると、


「!!!」


自分を見ている視線に気が付くジュリア


庭園の東屋で、呆然と立ち尽くしている檍美和。

どうやら事の一部始終を見ていた様子だった。


「・・・。」


ジュリア、美和に一瞬気をとられたが、背を向けると時間軸の狭間へと消えていった・・・。


晴義の母親が別の時間軸に消えてしまった庭園

そこに担架をかついだホテルの従業員を連れてくる晴義


既にその場に存在しない母親の姿に気づき、周囲を慌てて探し回る晴義。

立ち尽くしたまま何もできず、晴義の様子を東屋から見ている美和。

美和の傍に祖母の依葡が寄り添うように現れると、美和はその場に倒れ込んでしまう・・・






現在


伊豆からの帰り道、晴義を自宅へと送り届けた慶子の車の中



運転する慶子、バックミラーに映る美和を見ながら

「・・・あなた何か隠しているわよね。」


「何をですか」


「とぼけないでよね。」


「・・・。」


「晴義くんのご両親のこと・・・何か知ってるわよね。」


すこし身体が震えだす美和。

「・・・。」


「知っているのね。なら、話してちょうだい。」




1年前

晴義の母がルーデンスによって別の時間軸に消された後、祖母の檍依葡から九月晴義の出生の秘密を伝えられる檍美和。


「これから話すことは時間巫女として彼らをいつしかサポートするであろう、おまえのサガでもあるの。少し残酷な話だけど聞いておきなさい。」




1943年


当時を回想する檍依葡の声

「わたしの祖父はアメリカでマンハッタン計画と平行して進められていた別の計画・・・通称『ブルックリン』と呼ばれていた計画に参加していたの。それは統一場理論の実験だったわ。」


ニューヨーク ブルックリンに本部を置く研究施設

そこで働いている科学者たち


「瞬間的に膨大な電磁フィールドを発生させ、大型の艦船を肉眼からステルスさせる軍事的実験・・・フィラデルフィアのドックに停泊中の駆逐艦でそれは試されたの。」


クローズドされた巨大なドックに停泊中の駆逐艦を包み込む閃光、そして電磁フィールド・・・

激しく明滅する青白い光とピンク色の光の中、歪んだ空間が出現し、その中に消えていく駆逐艦


「駆逐艦が人々の目の前から見えなくなったとき、実験は成功したか・・・に見えたわ。」


歪んだ空間から異様な形で出現する駆逐艦。

長手方向の半分は正常な形を残し、半分は少し溶解している。


「でも、見えなくなったのではなく、実験で発生したエネルギーによって別の時間軸に移動し、消えてしまったように見えただけだったの。その理由はあなたなら解るわよね。」


溶解した駆逐艦の中

乗組員たちが悲鳴をあげながら、ドアや壁に同化していく・・・!!


「実験は失敗し、恐ろしい結果を招いたわ。駆逐艦は時間軸の狭間で半分溶解し、乗っていた船員たちは時間ゾンビとなってしまった・・・。」


ドック内で溶解した面を下に半分転覆したような格好になった駆逐艦

そこから逃げ出そうとしている生存者に時間ゾンビとなった乗組員が襲い掛かっている。


「実験は一部の研究者からリークされたけど、実験内容があまりにも突飛だったので、都市伝説的に扱われたわ。半ば滑稽な取り上げられ方をしたおかげでその悲惨な実験結果は闇に葬られた・・・。」


当時の新聞が道端に落ちている。

通行人に踏みつけられ、風でとんでいく新聞・・・


「この実験の結果をうけ、計画はとん挫し、関わっていた科学者のほとんどは別の計画に移動していったわ。」





1954年


檍依葡の声


「わたしの父と数名のメンバが祖父からブルックリン計画を引き継ぎ、細々と研究を続けていたの。わたしは父の下で助手を務めていたわ。」


小さな研究施設で働く科学者たち

そのメンバの中に「MASUKI」のネームタグをつけた科学者の姿がある。


「研究の中心は超伝導をいかに常温に近いところで発生させるかだったの。でも、当時の技術力ではそれは至難の業だった・・・」


「実験は失敗に次ぐ失敗・・・わたしも危うく命を落としかけたことがあったわ。」


大型の超伝導コイルが傾き、檍依葡らが見守る方に倒れてくる。

危うく下敷きになりかける檍依葡を助ける「MASUKI」というネームタグをつけた人物の姿


「ある日、父の助手を務めていた馬酔木という日系人の発案で超伝導コイル稼働中に発生する『特殊な物質』を採取するテストを進めていたの。」


青白い光からピンク色の光を放ち始める超伝導コイル


「・・・その最中、研究中の超伝導コイルが暴走し、研究所は爆発、溶解したの。」


爆発する研究施設


「わたしはその日、たまたま別館の資料棟にいて、被害を免れた・・・。いえ、たぶん父らがわたしのいない時を見計らって、危険なテストに挑んだと思うわ。」


溶解する研究所の外で倒れている檍依葡、バリアのようなものに包まれている。

時間巫女として覚醒した檍依葡・・・




現在


伊豆からの帰り道、晴義を自宅へと送り届けた慶子の車の中


真っ青な顔で檍依葡から聞いた話の内容を慶子に伝えている檍美和。


「祖母の父は時間軸の狭間に消え、研究内容も同時にその事故の爆発で消滅したかと思っていたらしいのです。あの男性が現れるまでは・・・。」


「あの男性?」


慶子が核心に迫る

「その男って・・・まさか・・・」


美和がとうとう口にする

「そう、九月二郎、九月晴義のお父様です。」


「・・・・・!!!」





1978年

シンガポール



超伝導コイルのブループリントを壁に貼り付けて見ている男たちがいる。


美和の声

「当時、時の瞳に覚醒していたと思われる晴義の父、九月二郎はシンガポールに渡り住んでいたブルックリン計画のメンバに会ったの。そこから超伝導コイルの存在を知ったわ。」


シンガポールの酒場で密会する九月二郎とブルックリン計画の元メンバ


「常温超伝導の技術は世界中で今でも模索されています。シンガポール政府は研究の最先端にいた彼らを引き受けた。その中で九月二郎は当時の研究者から時の瞳・・・クロノス・アイの効果を聞き出したの。」


超伝導コイルの挙動と共鳴するかのような輝きを見せる九月二郎の左目


「自分の持っている能力と似た効果を機械的に誘発できる超伝導コイルと共鳴させることで、時間軸をコントロールすることを思いついたの。もちろん、最初は私利私欲のためだったと思うわ。時間軸を自由に操れることで、何でも手に入る・・・と・・・」



現在

慶子の車の中


慶子が質問する


「待って、そもそも何故、あなたのお婆様と晴義くんの父親は知り合いなわけ?」


「祖母が米軍の空襲で死にかけたとき・・・それを救ったのが晴義の父だと聞かされています・・・。」



東京空襲・・・

焼夷弾がもたらした炎の海の中、時間軸をコントロールして、檍依葡を救い出す若き九月二郎の姿



「・・・!!」


則子の自殺を晴義が救うシーンを回想する慶子


「それもあなたのお婆様が・・・時間巫女だった故の・・・時間軸がもたらした出逢い・・・」


「そうかもしれません・・・!!それ故に祖母、そしてわたしは九月家の行く末を見てしまうことになったのです・・・!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る