第20話 We're Home Again

東京都内

慶子の運転するパジェロが晴義の家の前に到着する。

まるでお通夜のような雰囲気の車内。


則子は口からよだれをたらして寝ているが、晴義と美和は眠れていない様子だ。


慶子、サイドブレーキをひきながら

「晴義君、着いたわ。お疲れ様。今日は色々ありすぎたから、また週明け学校で話しましょう。」


「はい・・・。」


晴義の自宅を見る慶子

暗く閉ざされたままの九月家・・・


「晴義君、あなた1人暮らしだったわね。なにか食べ物買ってこようか?」


「いえ、冷蔵庫の食材、そろそろ痛んじゃうので今日は何か作ります。」


美和は慶子の言動をじっと横で黙って聞いている・・・


「じゃあ、わたしが何か作ってあげようか?疲れているでしょう?」


「作るって・・・先生、僕の家に入るのですか。」


「あたりまえでしょう。」


そのとき美和が会話に割って入る


「慶子先生、じゃあ晴義の面倒はわたしがみるので、先生は則子を家まで送ってあげてください。」


慶子、美和の顔を見つめながら


「・・・前から気になっていたことがあるの。」


驚いた表情の晴義


「え??」


美和、ただならぬ雰囲気とものすごい眼力で慶子のことを見つめる。


(それ以上、話をすすめないで!!)


慶子、美和から殺気のようなものを感じ取り、晴義との会話を慌てて中断する。


「・・・いや、ごめんなさい、じゃあ今日はわたしも疲れているから・・・これで帰るわね。」


「あ、はい・・・。」




結局、晴義だけを降ろしてその場を去る慶子の車

後部座席の則子はまだ寝たままだ



運転する慶子、後部座席に座る美和をバックミラー越しに見ながら


「・・・あなた何か隠しているわよね。」


「何をですか」


「とぼけないでよね。」


「・・・。」


「晴義くんのご両親のこと・・・何か知ってるわよね。」


少し身体が震えだす美和。


「・・・。」


「知っているのね。なら、話してちょうだい。」


「・・・。」


「わたしは今となってはあなたたちの行く末を見守る立場よ。ご両親がいないなら晴義くんのケアもしてあげないといけない。全部教えてちょうだい。」


美和、がくがくと震えながら

「でも・・・これを知ったら晴義は・・・」


「??!!、晴義くんも知らないことなの?」


美和、涙をながしながら

「晴義は・・・これを知ったら・・・きっと心が・・・」


「なに?なにがあったの??何故あなたがそれを知っているの?」





30分後

則子のアパート前


慶子の車が停まり、則子と美和が降りる。


則子、まだ寝ぼけた様子でふらふらと歩き、アパートの階段を昇っていく。


その様子を見守る慶子と美和。


「先生、じゃあ、わたしもここで。」


「自宅まで送るわよ。」


「ううん、少し頭を冷やしたいから歩きます。ここからそんなに遠くもないし。」


「そう・・・わかったわ。じゃあ、さよなら。」


「はい、ありがとうございます。あの、先生・・・さっき話したこと・・・」


「わかっているわ。」


「はい・・・お願いします。さようなら。」


美和を残してその場から走り去る慶子の車。




一般道

パジェロを運転する慶子、先ほど美和の口から聞いた晴義の両親に関する驚愕の事実をかみしめながら


「くっ、うっ、うっ・・・」


こらえていたのか、ぼろぼろと涙を流しはじめる慶子


涙で前が見えなくなり、うっかりセンターラインを越えて対向車にクラクションを鳴らされる。


慶子の心にリフレインする美和のセリフ

(晴義は・・・これを知ったら・・・きっと心が・・・)


がずっ!ごとん!

ハンドルを切り損ね、路肩に乗り上げてしまうパジェロ


慶子、車を停め、ステアリングにつっぷしながら泣き続ける

「なんてこと・・・なんてことなの・・・」




晴義の自宅


野菜の臭いをかいで、うんうんと頷きながら包丁でざく切りにし、フライパンで炒め始める晴義


(かちゃり)

リビングの明かりをつける晴義

レンチン白米と出来上がった炒め物をテーブルに置き、テレビをみながらリビングでもしゃもしゃと食べ始める・・・。


ふと、塩気が足りなかったかと思い、キッチンをふりかえり

「ねえ、塩って・・・」


しかし当然ながらキッチンには誰もいない。


「塩を足すか・・・って、僕は今誰に話しかけようとしたんだろ・・・」


キッチンでテーブルソルトの小瓶を見つける晴義。


ふと、賞味期限の記載に目が行く


「賞味期限、とっくにすぎてら・・・でも塩だし、まあいいか。」


炒め物に塩をふる晴義、

改めて塩の小瓶を見つめる。


「・・・この塩、誰が・・・いつ買ったんだろう・・・。」


ずずずずず・・・


突然、ぞわっとしたものが晴義の身体を包み込む


「え??なに??」


晴義、妙な違和感を突然感じはじめる。


空の写真立て、複数のティーカップ、別室にあるツインのベッドルーム、ドレッサー、ドレッサーの上にある女性用の化粧品類、クローゼットの中にある女性用の服やカバン、髭剃り、ライター・・・


晴義の目の前をよぎるタバコの煙・・・晴義が吸わないはずのタバコの煙・・・


あはははは・・・


どこからか聞こえてくる男女の大人の笑い声


(晴義・・・そうだ、その調子だ・・・はるよし・・・・!!)


(おかえりなさい、はるよし・・・!!)


「!!!」


突然立ち上がる晴義


「うっ、ぐふっ・・・!!」


今、口にしていたものを全部嘔吐してしまう


「ぐっ、ぐふっ、げほっ!!」


嘔吐しながら、慶子の声が晴義の脳内でリフレインしている


(お母さんに少し栄養のある食事作ってもらいなさい。)


(あ、うち、両親はいないので・・・)


(え、そうだったの。ごめんなさい。)


(いえ、いいんです・・・)


((遠くから、晴義を見つめる美和の顔・・・))


「ぐふっ、げほっ・・・!!」


床に倒れ込んでしまう晴義

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