第19話 超伝導コイル「No.4」

伊豆から東京への帰り道

高速道路


車を運転している慶子、助手席の晴義、後部座席の則子、美和の4人が時間銃検収を振り返って話をしている。


「実弾ってすごいですね。」


「何発撃っても、慣れないイメージがあります。」


「・・・あまり慣れたくもない気がまだするけどね。」


「慣れないのはもう仕方がないわ。でも、パンピーよりは銃の撃ち方、実弾のすごさを嫌というほど味わったはず。あとは現場で覚えるしかないわね。」


「現場・・・」


「それも嫌と言えば嫌なんですが・・・。」


「ええ、闘いたくない・・・。」


「ていうか高校生で銃扱ってるし、わたしたち。」(笑)


皆の会話を黙って聞いている晴義に話しかける美和


「晴義、考えこんじゃってるけど」


晴義、愛想笑いをしながら

「・・・うん、いや、もう大学進学とかそういうことを普通に、真剣に考えて準備しなきゃいけない時期なのに、いつのまにかこんなことになっちゃって、このあと、僕の人生どうなるんだろうって。」


それを聞いてはっとなる慶子。何も言葉が出ない・・・。


「わたしはこう見えても受験勉強してますもんね。」


「美和はいいよ。もともと頭いいし。僕なんかなんの素質もない、なんのとりえもない人間だし」


「てか、先輩たち、うちの高校って大学付属だからエスカレーター式で大学合格約束されているんじゃないんでしたっけ?」


「それは一握りの生徒ね。ストレートであがれるのは全体の3割ぐらいの人数よ。」


「あれ、そうでしたっけ。」


「うちの学校の場合はそうね。」


「やば、わたしも勉強しないと!!」


「・・・。」


晴義、桜子に燃やされて灰になっていく1億円の札束のシーンを回想しながら


「僕には両親がいないから、そろそろ貯えの心配しなきゃいけないし。このまま既定の大学に上がる余裕ないかもしれないし、上がれるかどうか僕の頭じゃわからないし・・・そうすると別の国立大学の進学とか大学行くのを諦めて就職先とか考えないといけないし・・・。」


「ないし、ないし、だらけですね。不安ですよね・・・」


晴義の両親がいないことにどうもひっかかりを感じ続けている慶子。

それを黙って聞いている美和。まるで両親の話題に触れないようにしているかのように・・・。


「ねえ、晴義君、あなたのご両親なんだけど」


思わず慶子が口火を切ってしまった。どうにも気になってしまったのだ。


「は、はい・・・。」


「あなたのご両親って・・・」

と、その先を言いかけたとき、美和の首が小さく横に揺れるのを見逃さなかった。


(聞いてはいけない!)そんな空気をとっさにつかんだ慶子、

と、次の瞬間!


「!!」

「!!!!」


慶子、晴義、則子が恐ろしい殺気に気づいた!!


車で疾走しているはずの高速道路から見える周囲の景色がモノトーンになっている。

高速で走っていたはずの車も対向車含め、全部スローモーションのような動きを見せている。


晴義が叫ぶ


「先生?!」


慶子、車を止め、車外にでて空を見上げる。


「くっ、罠に飛び込んでしまった・・・か!?」


則子がうんざりした表情で言う。

「またあいつらでしょうか。」


気が付くと慶子の車上空に不安定そうな動きをする超伝導コイルが不気味な音をたてながら浮かんでいた。


(ルルルルルルルルル・・・)


コイル側面には「4」の数字が見え、青白い光に混じって、怪しげなピンク色の光を放っていた。


晴義、すでに左目が青く光っている。

「超伝導コイル・・・??」


「しかもあれ、不安定そうな動きをしているわ!」


美和が声をあげる。


「先生、車を止めると、前の車に追突します!」


超伝導コイルが生み出すクロノス・アイの効果で時間軸が逆行しているので ゆるゆるとではあるが、前を走っていた車たちが後退してきていた。


「そっか、時間の流れに逆らっているだけで、物体は動いているんだっけ。・・・晴義くん、路肩に車とめてちょうだい。」


「はい?いや、先生、僕、車の免許もってない・・・しかもオートマじゃない・・・」


「わたしがやりますっ!」


則子、晴義を押しのけパジェロに乗り込むと、ガコガコとマニュアルのギアを入れつつ、流れてきた車を避けながら器用に路肩に車を留めた。


「な・・・」


「あはは、お父さんの車、キャンプ場とかでときどき運転してたの。」


「む、無免許運転・・・」


「わたしたちがここを通るのをわかってて、コイルを仕掛けておいたのね。」


上空のコイル、ピンク色の光の量が多くなっていく。

則子、不安そうに慶子に聞く。


「あのコイル、不良品ですか?」


「そう、中にはああいうのが混じってるのよ。まあ、あれはあれで使い道あるのよね。」


「?」


上空のコイル、不安定な動きのまま徐々にその回転と高度をおとしはじめる。


「コイルの効果が終わるわ。」


「いけない、時間が戻る。みんな、道路中央から離れて!車に轢かれるわよ!」


「先生、こ、コイルが・・・・」


「え?」


見ると、上空のコイル、青白い光が消え、ピンク色の光だけを放つようになっていた。


慶子、血相を替えて

「いけない、コイルが暴走しはじめてる。フィラデルフィア現象が起こるわ!」


「暴走??」


「フェラで?なんですって?」


「美和先輩ってば、いやだぁー」


「ひょっとしてこれが別の使い道ってやつですか?!」


「そういうこと!!いいからここから離れて!走って逃げるわよ!」


「に、逃げるってどこへ・・・!!」


バシッ!


パニックになった晴義たちに頭上のコイルから、ピンク色の稲妻のような電撃が落ち、地面を這う!


「あわわわっ!」


「に、逃げるもなにも・・・!!」


いつしか慶子らの周囲はピンク色のフィールドで覆われ、まるでその中に閉じ込められているかのようになっていた。


「やばい、これはやばいわ・・・」


「なにがですか」


「わたしたち、時間軸の狭間で磨り潰されるかも。」


「え?」


「・・・このままだと、わたしたち時間ゾンビになるわ」


「うえっ!?」


慶子からゾンビのキーワードを聞いた則子、過去の闘いを思い出したか、急に悶絶しはじめる。

「ちょ、ちょっと待ってください、先生。わたし、ゾンビになるのですか?」


「ええ、このままだと、まずい・・・」


「おええっ!」


「の、則子?!」


「見ないで!お、おえええっ!」


色々想像してしまった則子、突然嘔吐をしはじめる。

左目を輝かせながら過去ののゾンビ戦のときのように、嘔吐しては吐しゃ物を戻すというお約束のパニックに陥る則子。


「おええっ、いやっ、おえっ!うっぷ、いや、これ、見ないで、先輩!助け、おえっ!いっ!」


「よ、横荻さん・・・!!」(苦笑)


「則子が使い物にならなくなった・・・どうする!?うっ、くっ!!」


超伝導コイルが生み出す電磁フィールド内の気圧が下がり、耳をおさえる慶子たち。

風が舞い、足がふらつき始める4人。


シャリン!!

突然美和が神楽鈴を持ち出して、鳴らし始めた。


「みんな、落ち着いて!時の瞳を全開してみて!時間軸の狭間を安定化できるかもしれないわ!」


「や、やってみるっ・・・!」


晴義の左目に青く強い光が宿る!


「くっ、くううっ!」


「則子も参戦しなさいっ!」


「うっぷ、う、ううっ、い、いけない・・・吐いてる場合じゃ・・・」


則子の左目にも青く強い光が宿る!


「・・・ないわよね!」


きいん!と鋭い音が走ったかと思うと青い光がフィールド内に広がり、コイルが発するピンク色の光と電撃を一瞬凌駕したかのように見えた。


シャリン!

美和が神楽鈴を鳴らすと神楽鈴がぴりぴりと帯電したかのように、小さな電撃を発しはじめる。


ピンク色の電撃が美和の鈴に集まっていき、青色の電撃で中和されていくかのような動きを見せる。


それを見て慶子

「さ、さすが、時間巫女ね・・・時の瞳の力をブーストさせ、フィラデルフィア現象を中和するとは・・・」


「いえ、せ、先生、そろそろ・・・限界です!時間稼ぎしているだけです!なんとかこのやばいフィールドから出る策を・・・早く・・・!」


「策って言っても・・・」


「・・・HM弾はないのですか??!!」


「HM・・・って、ああ、えーっと、あれね!」


「ヘイゲマスニウム弾!」


がばっ!と例の秘密道具入りアタッシュケースをあける慶子

がちゃがちゃとケースの内蓋をあけ、銀色のカートリッジ弾を取り出す。

弾の側面には「HM」と刻印されている。


「虎の子の一発か・・・!!」


晴義、美和にむかって

「美和!!慶子先生は・・・何をするつもりなんだ?」


美和、冷や汗混じりの笑顔で

「見てなさい、あの弾で暴走したコイルを安定させるのよ!」


上空でピンク色に光り続ける超伝導コイルを恨めしそうに見上げる慶子。

ふと、慶子の夫、椿坂正和からこの弾を預かったときの様子を思い出す。


「正和さん・・・」


汗だくで叫ぶ晴義と美和、そして則子

「先生、なんだかわかりませんが、早く!」

「い、急いで・・・も、もう、もちません・・・」


慶子、HM弾をグロック17のマガジンに装填する。


「これを正和さんから預かったとき、まさかわたしが使うとは思っても・・・みなかったわ!」


上空のコイルに向かって時間銃をかまえる慶子!

まさに撃たんとしたその時!

フィールド内で起こった暴風によって飛ばされた道路標識の金属板が慶子の身体を直撃する!!


「ああっ!」


頭をかかえる慶子

だが金属板は慶子に当たらずに宙で止まり、逆の方向へと戻っていく!


「せ、先生・・・!!」


「・・・晴義くん!?」


晴義が必死の形相で時の瞳の効果で看板の動きを止めていた!

ずるずると慶子から離れていく宙に浮いた看板。


腕をのばして、必死で時間軸の流れを制御している晴義!

「は、は や く・・・」


はっ!!

慶子、晴義のその行動を見て、遠い記憶がフラッシュバックする!


それは慶子の死を阻止しようとする慶子の夫、椿坂正和の姿だった。


(慶子・・・!!)


正和と晴義の姿がオーヴァーラップする!


「ま、正和さん・・・」


慶子、あふれ出てきた涙をあわててぬぐい、時間銃の照準を上空のコイルに向ける!


「わたしたちを・・・守って!!」


バン!!


銃声が響き渡り、コイルに向かって飛んでいくHM弾!


弾はコイルに当たる寸前で破裂し、キラキラとした金属粉が空中に舞った!





インド チェンナイ


その様子を中継で見ているルーデンスたち


「ほほー。」




アチョーク邸


同じく、中継でその様子を見ているアチョーク


「ちっ・・・くそっ・・・!!」


思わず舌打ちをし、机を蹴り飛ばすアチョーク。





高速道路上


上空の超伝導コイルにまとわりつくような動きをするHM(ヘイゲマスニウム)。

キラキラと輝きながら、渦を巻く。


HM弾をうけた超伝導コイル、ピンク色の輝きから、正常色となる青い色の輝きに変化していくが、完全には青色の輝きに移行しないでいる。

しかしながら時空の狭間は安定化の傾向を見せ、気圧の変動とピンク色の電撃は落ち着きをみせはじめた。


おっかなびっくりで上空のコイルを見ている晴義と美和。

「お、おさまった・・・か?」


上空のコイル、ぎゅるるる・・・と鈍い音をたてながら再びピンク色の輝きが、青い輝きを凌駕しはじめる。


慶子、時間銃のマガジンを変えながら

「収まってはいない・・・ようね」


「先生、HM弾はまだあるのですか?」


「いえ、今ので最後よ。」


「えっ・・・?ど、どうなるのですか・・・」


「大丈夫、見て。」


上空のコイル、稼働温度が上昇したようで、回転が鈍り始める。


「そっか、常温では稼働時間が短いから・・・」


「ええ、そろそろ落ちるわ。周囲の時間も戻るわよ。気をつけて!」


上空のコイル、力を失うように回転を弱め、高度が下がってくる。


その時!コイルの落下地点に後輪をスライドさせながら飛び込んでくる大型トラック!


コイル、落下用のクッションを展開しながら、そのトラックの荷台にドスン!と落下する。


「!!!!」


慶子ら、トラックを慌てて避けながら運転席の人物と一瞬目が合う。

トラックの助手席に左目を青く光らせたエジル、運転席には葛桐壮太(くずきりそうた)が座っている。


「・・・・!!」


お互い、無言のままで数秒向き合っていたそのとき!


パパパパパン!


葛桐、狂った表情でいきなりサブマシンガンを晴義らに乱射する!


晴義、銃口を向けられた瞬間に時の瞳を開眼させ、弾の動きを制御するのみに留まらず、イッキに葛桐がトラックを止める直前まで時間軸を逆行させる!!


「パパパパん・・・・っ!!・・・と、あれ?」


シーン・・・


晴義らと無言で向き合っている運転席の葛桐。拍子抜けした表情。


葛桐、確かに乱射したはずのサブマシンガンを手で触りながら


「・・・・・・俺たち今、別の時間軸に送られた?」


助手席のエジルが少し呆れ顔で答える

「九月くんにやられたわよ。」


モノトーンのままの周囲の背景を見渡して

「すごいな、九月晴義くん。きみ、銃口を見た瞬間に反応したよね。」


晴義、無言のまま

「・・・。」


「エジル、やっぱりこいつら成長しちゃってるよ。これから面倒だよ。」


エジル、晴義らに向かって


「こんなことしたくなかったんだけど、昨日あなたたちの仲間っぽい人がわたしたちの犬を殺したの。これはそれの報復です。」


小さく舌打ちする慶子

「桜子ね・・・余計なことを」


珍しく怒る晴義

「そ、その人は僕らの仲間じゃありません!それに犬のことなんて僕らは知りません!あなたちは僕らのことを仲間にしようとしていたんじゃないんですか?」


エジル、悲しそうな顔で

「ちょっともう難しくなったかも。ごめんなさい。」


「じゃあ、どうしろと?」


「無理やり従ってもらうしかないわ。もしくは・・・殺されるか。」


「・・・。」


慶子が間に入る

「うそね。殺しはしないでしょ。わたしたちの力がほしいはず。」


「どうかしら。」


「殺すならいつでも殺せたでしょ。」


「・・・いずれにせよ、仲間になる選択肢がなくなったのは、悲しい結果よね。九月くん、スリーカラも残念がっていたわ。」


「スリーカラ・・・」


昨夜、湖畔でスリーカラと遭遇したシーンを思い出す晴義


則子、左目を光らせながら会話に入ってくる

「ちょっとー、コイルが落ちて時間の流れせき止めてるのわたしたちなんですけど!」


美和も無言で神楽鈴を用い、則子のクロノス・アイをブーストさせている様子!


エジル、申し訳なさそうな顔で

「こりゃ失礼。ではみなさん、またどこかで逢いましょう・・・。」


ぎゅるるる!葛桐がトラックのアクセルをおもいきりふかし、トラックのタイヤがホイルスピンする。


則子、それを見て大声をあげる

「先生、先輩!時間の流れが正常化します!道路わきに戻って!」


則子の左目から光が消えると、モノトーンだった背景に色味が戻り、もとの高速道路の風景に戻る!

時間の流れが元に戻った瞬間を見計らい、ものすごい勢いで走り去る葛桐らのトラック。


同時に道路上の一般車の往来も元に戻る!


時間の流れが元に戻り、高速道路上を走る車が通常のスピードで激しいクラクションを鳴らしながら突っ込んでくる!


(プアアアアアン!)


「危ない、よけて!!」


「うわっ!」


「きゃああっ!!」


間一髪で道路わきに退避し、走り去っていったエジルらのトラックの後部を見つめる晴義たち


「・・・!!」


路肩に立っている晴義らの目の前をびゅんびんと行き交う車の群れ・・・







インド チェンナイ

暗い部屋の中

高速道路の様子をモニターで見ていたルーデンスのメンバ


「奴らに成長する時間を与えてしまったようだな。」

「文字通り貴重な時間を無駄にしてしまった。」

「この際、九月晴義の覚醒を待ったほうがいいのでは?」


ジュリア、仲間の話を聞きながら

「・・・我々には待つ、とかそういう悠長な時間はもう無いわ。あの日本人たちを仲間にしないのなら、次の手段に出るしか無さそうね。」


「というと?」


ジュリア、モニターに映る慶子、そして美和の姿を見て


「残念ながら人柱が必要になるわね。」




アチョーク邸

スリーカラの部屋


同じくモニター越しに晴義たちの様子を見ていたスリーカラ。

ジュリアのその言葉を聞いて、寂しそうにノートパソコンの画面を閉じる。

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